冒険者アスラ
※異世界転生・転移モノではありません。
目を開けると、そこはまだ朝焼けを待つ森の中。
肌寒くて蹴散らしていたタオルケットを引っ掴んで肩にかけると「起きたのか?」と聞こえる声に「おはよ」と私は欠伸を噛み殺しながら起き上がった。
「今日は早いな、アスラ」
「んー、たまたまだよ」
火の番を任せていたゼルが笑うので「今日はどのくらい進むつもり?」と地図をポケットから取り出して問い掛けた。
寒いだろうかと羽織っていたタオルケットを半分肩にかけようとすると「俺は平気だ」と苦笑しつつ私にかけ直す。
「今日はこの山を越えて麓の村に着けば良い方だな、まだリグゼイルまでは2週間ほどかかる。
それに山の中で幸い食料にも事欠かないししばらくは大丈夫だろう」
「そっか、リグゼイルに着いたらやっと任務達成。
今回のクエストは長期戦だったねえ」
伸びをするとぐっと上に持ち上げられてバキバキと嫌な音が聞こえて来るが、気持ち良い。
ここはナルドサウスの東にある山で、私達は山越えの真っ最中だ。
ウォルイースからクエストに来てずっと南下して来たけれど、特に大きなトラブルも無く荷運びを継続中。
どうやらとても貴重な卵らしくて、厳重に木箱に入れられているそれをリグゼイルに運ぶのが今の私達の仕事。
あと2週間程度で終わるのかと当たりを付けながら、私は立ち上がって近くの川へ向かう。
顔を洗いながら光を放ち、魚の魚影を探す。
いくつかの大きめの魚影を確認したので影を使ってその魚を陸に放り投げた。
これは簡単な影使いの魔法だ。
子供がイタズラをする為に覚えるくらいの簡単な物だけど、きちんと影と光の量を加味して増幅してやればこのとおり。
応用編のようなものだろうか。
4匹の魚のエラに指を突っ込んでゼルの元に戻る。
「大きいの取れたから鍋にするよ、見張りありがとう。
仮眠して良いよ」
「ありがとう、じゃああとを頼む」
火から少し離れたところに寝転ぶとそのまま寝ようとするのでタオルケットをかけてやる。
このデカいのは自分の事はあとに考えるクセが抜けないでいるので、仕方無いなと私はため息を吐き出した。
さて、作るぞと私はナイフを手にまな板代わりの鍋の蓋を用意する。
少しだけグラグラするけれど最終折っちゃえば良いでしょと、適当に済ませた。
まず頭を落として、内蔵を綺麗に取り出す。
もう1つの大きめの鍋に川で水を汲んで来て洗う用にして、丁寧に鱗を飛ばす。
ブツ切りで良いかと2つの魚をブツ切りに。
ついでに残りの2匹は焼く為に内蔵だけ出して串を取り出して来て打つ。
火は鍋で使うのでこっちは後から炙るかと考えながらポシェットの中から調味料をいくつか出した。
鍋に塩、酒を入れてひと煮立ち。
クラムの葉の乾燥させた物を入れて煮込むだけ。
このクラムの葉が味噌の様な芳醇な香りを持っていて、乾燥させる事で匂いも強まる。
更に小松菜の様に葉に少し厚みがあるので気持ち程度の野菜替わりとしても使えるからなんちゃって味噌汁になっている。
この食べ方するの私くらいだろうなと苦笑しつつ、どこかで知っている味に近付けたくなってしまうのは仕方無いなと頷いた。
「お、良い時に起きて来たね」
「良い香りに目が覚めた、おはよう」
「おはよう、ゼルが戻って来たら食べようか」
そう言うと川に向かって行ったので、飲み物どうしようかと同じくポシェットに入れてあるお茶の葉をポットに入れて葉が開くのを待った。
朝からお魚たっぷりのお味噌汁モドキと焼き魚、お茶のコンボにどこかホッと胸を撫で下ろし。
嬉しそうに頬張るゼルの様子にまた笑みを浮かべるのだった。