少しの違和感
※異世界転生・転移モノではありません。
屋敷から出て厩舎に向かう時、アリッサが少し心配そうに私を見ているので「大丈夫だよ」と笑った。
そう、少しだけまた現実を見ただけだ。
父と母の仕事を継ぐ事なんて頭にも無いクセに、なぜ私はこう傲慢なのか…考えてしまえば泥沼にハマって行くのは目に見えているからハマらない様にしっかりと思考を切り替える。
私は今リューナとして生きているが、まだ17歳で両親から見れば子供だ。
だけれどこの国では18歳から成人するので来年には成人する。
その時両親が国に帰って来て居れば良いなと思うけれど、仕事を優先する必要があるのでは仕方ないなと思ってもいる。
まだ幼い心と大人で居ようとする気持ちがせめぎ合うこの感覚は、知歩の時に既に経験している筈なのに何故か言う事を聞いてくれない時があるから困る。
例え経験していようとそれは知歩としてであってリューナでは無いから、だからまた跨ぐのだなと深く溜息を吐き出して終わる事にした。
厩舎へ向かうと、明るい栗色の毛を持つ男の子が「リューナお嬢様!」と振り返って声を掛けてくれた。
「おはようカンフル、みんなの様子はどう?」
「みんな大人しかったけど、リューナお嬢様が来てくれたから喜んでるみたい」
厩舎を見渡してそれぞれの馬や牛、豚に挨拶をする。
お父様が言っていたお土産とはなんだろうなと首を傾げながら厩舎を歩いて居ると「お嬢様」とアリッサが私に呼び掛けた。
振り向くとそこにはお父様がちょうど厩舎に入って来たところで、アリッサに礼を言って近付く。
「お父様、お土産って?」
「ああ、こっちだ」
にやりと笑う父に、私もアリッサもなんだろうかと同時に首を傾げる。
前を進む父が向かうのは厩舎の裏、野良猫や野良犬なんかを保護しているシェルターの近くだった。
「一応獣だからな、別のゲージに入れたんだが」
「獣?」
「リューナはリヒトルーチェと言う種類の獣を知っているかい?」
「リヒトルーチェ…あの、童話に出てくる白いネコの事?」
「そう、北は寒いだろう?
冬は吹雪になるほどで、彼等の多くは特別な進化を経て体毛を増やし冬毛になると真っ白な雪に溶け込みながら獲物を探す。
しかし逆に夏になるとその毛は短くなってしまって、ただの白猫に見えるらしいんだ」
奥の部屋へ向かうと、少し広めの部屋に一つだけゲージが置かれているのが見えた。
「あちらの農家では畑の害虫や害獣を追い払ってくれるらしくてね、1匹譲ってもらったんだけど…」
そう言ってゲージに掛かっている鍵を開けて、ゆっくりと扉を開く。
しかし出てくる事は無くその場でしゃがみ込んだようだ。
「この子、私に?」
「リューナも来年成人だろう?
なのに僕達は君を置いて大陸を渡り歩く…もっと小さな時から気付いてあげられれば良かったのに、寂しい思いをさせていないかいつも気になっていてね」
「あんなにも3日に1度は手紙を書いてくれるのに、お父様やお母様からの愛情を疑いなんてしないわ?」
「それでも、せめてものお詫びに…この子達は普通の犬や猫なんかよりも、ずっと長生きなんだ。
それに魔力を有して居るから、君の護衛をして貰おうと思っていてね」
「護衛?」
「リューナ、外の世界に興味があるだろう?」
そう父の声で言われた途端、ハッとして私の意識は揺れた。
視界が真っ黒になってしまって焦ったけれど、いつもの事かと理解して私は再度目を開けるのだ。