終焉
※このお話しは異世界転生・転移モノではありません。
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れたグレーの天井が見えた。
白いカーテンはこの場所がどこかを教えてくれる。
陽が入るには少し早い時間である事が確認出来て、部屋の隅に居る存在を認めて起き上がった。
「……おはよう、リヒト」
「おはよう、リューナ」
白く輝く髪と蒼い瞳。
それはとても美しくて触れば壊れてしまいそうな程。
リヒトはベッドサイドに腰掛けると「大丈夫か?」と問い掛けた。
「平気、初めてだけど」
「うん」
「初めて…夢の終わりを体験するわ」
「そうか」
予感はしていたけれど、有り得ないと思っていた。
今までの事を思えば見なくなったなと後から気付く事はあれど、消えるのだろうと言う予感など無かった。
しかも自分が消える事など想像もしていなかった。
「今までは増えて行く一方で、際限無くて。
気にも止めていなかったのに…不思議」
「そうだな」
「続きを見れる予感が本当にしないのよ」
「うん」
リヒトはただ私を見て頷いていた。
リューナは、他の夢と違って彼が居なかった。
自分の存在を認めてくれると言う絶対的な存在が居ない夢だとは思っていた。
代わりに知歩の所へ現れた先輩が、知歩を夢にしたのだと気付かされた時に同時に思ったのだ。
リューナには、そう言う存在が居ないなと。
薄々感じてはいたし、そうなのかもしれないと思わなくも無かったけれど…知らないふりをしていたのだ。
「……怖いか?」
リヒトの問い掛けの答えはもう決まっていた。
答えは「否」だ。
「怖さより安心感の方が強いかも」
「安心?」
「必ずしも、そうじゃないとしても。
私は元のままで居られるんでしょう?
主軸はリューナじゃなくて知歩、あの世界で目が覚めて、眠ると私とは別の私になる。
夢の中は私にとって逃げ場でもあり、考えを整理する場所でもある。
日々の見たものや感じたことを貯めておける場所。
それによって記憶容量が爆発してパラレルワールドを作り出しちゃったなんて、さすが私だと思わない?」
「リューナ、すごいな」
「呆れていいのよ、バカだって」
笑いかけるが、リヒトは眉をひそめたまま私の手を取る。
その様子に首を傾げると「俺は怖い」と小さく呟く。
「消えるのは、怖い。
せっかく出会えたのに」
「……ありがとう」
「初めは見守るだけのつもりだった。
お前が作った側面のひとつとして、アイツとは別の…お前を傍で見守るだけの存在だった。
彼等の様に出来ずとも、寂しさを紛らわせる事が出来るならと思っていた」
「うん」
握り締める私よりもひと回り小さな手のひら。
その体温を確かに感じた。
まだ薄暗い窓の外には星々が煌めき、少し肌寒い風が部屋を駆け抜けた。
「リューナ、お前は強かった」
「私、強かった?」
「うん」
「でも私、ワガママだっただけよ?」
「そんな事は、無い。
お前は自分の心の中を肯定した。
否定された分も受け入れて、しっかりと自分の意思でこの場所を肯定した」
「だって…大切な居場所なんだもの」
リューナとして生きる事が救いだと言うのなら、他の彼女達でない理由を知りたかった。
あの子も、あの子だって、生きて行く上でとてもスリリングで楽しくて、穏やかでバカらしくて、きっと幸せだったに違いない。
新しいこの身体であれば大丈夫など、そんな訳無い。
「アイツがリューナを選んだ理由は、確かに理解出来る部分もあった。
けれど、最後に決めたのはリューナだった」
「うん、だから決めたの。
私はもう要らないなって」
「……」
黙り込むリヒトに、私は深呼吸をしてから「ありがとう」と呟いた。
「本当は怖いけれど、リヒトが一緒なら怖くない」
「ああ、約束したからな。
お前が全ての決断をするまで見届けると」
まっすぐに目を見て頷かれ、ゆっくりと涙がこぼれ落ちた。
これで最後、私は消える。
ようやく元通りなんだと思えたけれど、やっぱり…すごく、悲しい。
リューナとして生まれた17年間。
ずっと穏やかで楽しかった。
ふわふわとした綿毛に包まれていたかのように幸せで暖かな人生だった。
優しくて穏やかな人達に囲まれて、幸せだった。
さようなら、リューナ。
出来るなら最後の瞬間まで、穏やかな風に吹かれます様に。




