リューナの生きる場所
※異世界転生・転移モノではありません。
昼はベリーを使ったスムージーを出してもらうように料理長に交渉をしに行って、私は朝食の用意が出来たことを知りダイニングへと急ぎ足で向かった。
部屋に入ると、まずは母が「足音を立てない」と小さく呟いたのを聞いてゆっくりと椅子のそばに立った。
「おはようございます、お母様、お父様」
「おはようリューナ、どうぞ座って」
「はい」
その様子にクスリと笑った父に頬を膨らまして眉を寄せた。
私の顔を見た母までもが「酷い顔ね」と笑うので、私は「お二人共お帰りなさい」と苦笑する。
「今回は北へ行って居たのでしょう?
珍しいものはありました?」
「後で直接見せたい物がある、朝食が済んだら厩舎に来て欲しい。
それとお土産もたくさん買ってきたよ」
「北の国の特別な毛糸を使ったアクセサリーやセーター、それから防寒着もね。
貴女のサイズに既に直してあるの。
それに毛糸もいくつか揃えて来たわ、良かったらそれでまた、何か編んでくれる?」
「まあ!嬉しいわ、ありがとうお父様、お母様!」
嬉しさで思わずテーブルが揺れる程に飛び上がった私を、お母様が視線だけで制する。
お嬢様はやはり色々と大変なのだ。
朝食はシェフのゼラフが腕によりをかけて作る。
特に今日なんて父も母も一緒なのだ、なんと朝からミートローフが出て来て私は目を輝かせた。
「すごく美味しいわ…朝からミートローフなんて、素敵」
「付け合せの温野菜、もしかしてリューナの庭園の物じゃないか?
じゃがいもやブロッコリーの味の濃さ、間違いないそうだろう?」
「お父様正解よ!今回は肥料の配合が上手く行って、天気も雨が続かなくて豊作だったの!
昨日はコロッケにして貰ったわ、他にもきゅうりやキャベツなんかは浅漬けにしてくれるそうだからまた味を見て下さいな」
「貴女は本当に土いじりが好きね、庭のラベンダーもすごく美しかったわ。
朝咲きのものを今朝見て来たけれど…庭の範囲広がっていないかしら?」
「広げたわよ、今回は果樹を増やしたの」
「果樹と言えば今庭には何が植わっているんだい?」
私はうーんと視線を上にあげて庭にある果樹を思い浮かべた。
「ブルーベリー、みかん、梨、柿、さくらんぼかしら?」
「本当に全ての果樹の苗を育ててしまうとは思わなかったけど、素晴らしいね。
さすがは僕達のリューナだ」
「これは、才能と言うほかありませんものね。
私達もたまに帰って来ては庭の変化を見るのを楽しみにしているのよ」
「お二人の癒しになっているのなら何よりよ。
これからもしっかり美味しく育てられる様に頑張るわ!」
パンを片手にそう告げると、ニコリと穏やかに笑みを返してくれる2人だった。
その後はまた別の場所に行くのだとの事で、準備の合間に今回のお土産を見せてもらう事になった。
私は父と母の仕事の話しを楽しんで聞いているし、帰って来る度に大量のお土産の話しやその土地の話しを聞くのが楽しくて仕方無い。
次はどんな所へ行くんだろう、どんな人に出会うのだろう。
羨ましいなあと思わない事も無いけれど、私が彼等の仕事を手伝う事も無いのだ。
それは両親が私を今の商会を継がせる気が無いと言う意思の表れであり、後継者は他に居ると言う事を指す。
すなわち私は両親の会社の経営には口を挟む事は無く外部の人間なのだと思い知らされる。
私はそれが少しだけ…極たまにだけれど、寂しく思ってしまう時があるのだった。