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湖のほとりで

※このお話しは異世界転生・転移モノではありません。



「起きろ、リューナ」


「うあ?」



肩を揺さぶられて目を覚ます。

青空が視界いっぱいに広がって居たが、真っ白な髪が風に揺れて私の視野に入り込む。

空色の瞳を認めてから「どこここ?」と首を傾げた。



「渓谷の湖のほとりだ、何があったか覚えているか?」


「……うん、覚えてる」



苦笑して起きがり、先程までの光景を思い浮かべた。



「コーラーダーの群れと遭遇して、モコモコに埋もれてた」


「そうだ、俺と言うリヒトルーチェが居ると言うのに」



ムッと眉根を寄せるリヒトは、半袖シャツからスラリと伸びるしなやかな腕を交差させた。

腕を組んで、近くに座り込んでいたコーラーダーと呼ばれるふわふわの体毛に埋もれている首を凝視する。



「俺だって元の姿であればこれ以上にもふもふで、毛並みだって」


「比べちゃダメだよ!

白くて綺麗なもふもふはリヒトしか持っていない特別なモノだよね!?

しかも艶やかな毛並みはその辺の猫ちゃんとは比べ物にならないくらい綺麗だし素敵なモノ、誇って良いくらいに大切なんだから!!」


「それなのにお前はコイツらのふわふわに埋もれて眠っていたのか?」


「浮気じゃない…これは断じて浮気では……抗えない魔力なのよ」



ぐっと胸が締め付けられる程の威力で、リヒトの青い瞳から逃れる。

コーラーダーの薄青の羽が風に揺れた。

髪が風に揺らされて、私は自分のプラチナブロンドの髪を触る。



「……最近多いね、自覚したりすること」


「多いのか?」



空気が変わったからか、リヒトは私の隣に座り込みながら同じ様に首を傾げる仕草をした。

それにゆっくり頷いて、コーラーダーの毛並みを優しく優しく撫でる。

渓谷に来た理由は父と母が仕事に行ってしまったのでまた暇になった事もあり、そろそろ時期かなと思って自分の居場所を探す為だった。

私はヴェルデロ商会とは関係の無い人生を歩んで行く。

そう決めたのはもうとても小さな時の記憶だった。


幸せに、楽しく、それでいて誰かの助けになる為に生きていきたいと思った時……国境付近の警備兼交渉役はどうかと思い立った。

今この国は広く、自然と共に生きる場所。

だからこそ自然保護の大切さと自然動物達の保護は国が先陣を切って取り仕切っていた。

父と母の代わりに何度か一緒に足を運んだ事があるパーティにて、その保護を国に代わりに担っている団体と知り合う事があってから…私は、成人したらあの屋敷を出て自然と獣達の保護に携わりたいと決めていたのだ。



「私はここではリューナだから、私がしたい事をするのも間違いじゃないんだけど……なんだか何を追って行けば良いのか分からなくなって来ちゃって」


「……そうか」



何を言うでも無く、リヒトは私の隣に静かに座っている。

それがとても嬉しくて、暖かいと感じた。



「私の中で決まっている事って、案外少ないのかしら。

やりたい事や気になる事、どの私だって本当の自分な筈なのになんだか足りないのよね」


「足りない?」


「そう、欲張りね、私って」



苦笑してそう言うと、少しだけ考える様にしてリヒトは湖を見た。

それにつられるように視線を上げるといつもとは少し違う、湖面に映る美しい山や自然の景色が見えた。

その上を飛ぶ鳥達の鳴き声を聞きながら、屋敷から見る景色等とはまた違う空気感に、知らずため息を吐き出した。



「人間は欲張りだ」


「え?」


「でもだからこそ面白い。

個性があって、そこに形作られる生き方や関わり方で複雑な人生を過ごしている。

1人として同じ存在が居ないからこそ無限に増えては消えて行く。

正しい生き方や正解など無いと、リューナだけは気付いているんだろう?」



うっすら笑みを浮かべたリヒトは、足元で寝てしまったコーラーダーの羽毛を撫でる。

穏やかに流れる時間が暖かくて、私はまた見失いそうになっていた事を自覚する。

そうだ、まず何がしたいのかを先に考えなければいけない。

私が私で居る意味も。

頷いてリヒトに「ありがとう」と伝えると「どういたしまして」と返って来た。

キラキラと光る湖面の景色に、私はまた気付かされたのだった。

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