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2歩先へ

※異世界転生・転移モノではありません。



あれから少しだけ眠りについて朝、アリッサが部屋に入って目を丸くして警戒を示したので「ストップ!」と私は苦笑した。



「ですが…」


「思い出してこの見た目!見た覚えあるでしょ!」



私がそう言うと、む?と眉を寄せたアリッサはリヒトルーチェの容姿を見てハッとしたように肩をふるわせた。



「まさか!」


「そのまさか。今日の予定は入ってなかったよね。

お父様とお母様にお時間いただいて欲しいんだ、この子について説明と今後の事話したいの」


「……」



歪んだその表情は私が突拍子も無い事を始める時にアリッサがする表情で。

いつもの事ながら迷惑をかけるなあと私は笑う。

低く唸り声をあげると「お嬢様」と厳しい視線が私を襲った。



「アリッサは…アリッサは、これまでたくさんお嬢様の突拍子も無いお願いをなんとか聞いてまいりました。

それはもうエライ事でもなんでもです。

だけれど…この子の特徴を見てあの白猫だと分かった上でしっかりと確認させて下さいませ。

……お嬢様、一体何があったのですか」


「私には何も無いよ、ただリヒトルーチェがそう言う子なんだって分かっただけ」


「……」



ピクリと片眉を痙攣させていたアリッサは「分かりました」と深くため息を吐き出した。

その様子に「悪い事、したか?」と私の服の裾を掴みつつリヒトルーチェが顔を出す。

その可愛らしさにアリッサの方も警戒を完全に解いた。



「かしこまりました。

お嬢様のご用意が済み次第旦那様方にはご連絡させて頂きます。

まずお支度を終わらせてしまいましょう。

君も…ん?どこからここに…」


「昨日の夜スープを作って持って行った時に連れて来ちゃったのよ!」


「そう言う事はアリッサにお知らせして頂きませんと…」


「うん、今度からは絶対そうする。

ごめんね、アリッサ」


「……ごめんなさい」



2人して頭を下げると、アリッサは笑って「よろしいでしょう」と苦笑した。

その後は急遽用意してくれたリヒトルーチェ用の服も届いて、一緒に朝の支度を終わらせてくれたアリッサに感謝した。

日課通りに畑に向かっていると、繋いでいた手が色々な場所に振り回される。



「凄いでしょう、私の畑は」


「これは全てお前が作ったのか?」


「リューナよ。そうそう、あっちにある果樹からこっちの畑まで!

もちろん私一人じゃないわよ?アリッサや他の人達にも手伝って貰ったわ」



若葉を見ながら指で突いたり、果樹を見上げるリヒトルーチェに首を傾げた。



「そう言えば今更なのだけど、アナタ名前は?」


「名前?」


「私はリューナだけど、リヒトルーチェとしてアナタを呼ぶ時の名前はあるの?」


「種族名では無く個体名か?

どうだろう…忘れた」


「ええ?」



土の中から出て来たミミズをつまみながら、リヒトルーチェはなんでもない事のようにミミズを歯の上に移動させる。

まだ陽が登り切ってそう時間は経って居ないが、少し冷える風に吹かれながら首を傾げられた。



「長い時間を生きていると、存在する事以外に執着が無くなる。

お前の父に会うまでは存在自体曖昧だった。

だからお前達と出会ってから、生きる事を思い出した様な感じだな。

もちろん気が向かなければ着いては来なかった、無理矢理に連れて来られた訳じゃない」


「それを聞いて安心したけれど…そう、名前が無いのは困るわね」


「そうか?」


「だってアナタを呼ぶ時にリヒトルーチェと呼ぶのはもう何だか違うんだもの。

あの時の子はなんと呼ばれて居たんだっけ」



別世界で出会ったリヒトルーチェ。

あの子の名前はなんだっけ。

少し前から思い出そうとしても酷くぼやけていて見付けられない。

今までこんな事無かったのに、変だなあと私は少し落ち込んだ。

何かを忘れている様で少しだけ違和感があったけれど、不思議そうに首を傾げるこの子を見て私は笑顔で「なんでもないよ」と首を振る。



そう、なにも無いはず。

思い出そうとした端からホロホロと崩れ去る記憶に違和感を抱く事無く、私は1歩踏み出したのだった。

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