知歩の生きる場所
※異世界転生・転移モノではありません。
私、知歩としての暮らしは質素な物で。
日々アルバイトかお休みのどちらかだ。
日本人として生きて来てもうすぐ29年、来年には30歳になると言うのに実感などまるで無い。
20歳を越えた時に実感が無かったままにズルズルとただ日々楽しんで生きて来た。
頭痛持ちで月の3分の2が動けないか、吐くか、それとも薬が効いて動けるかの選択になるので市販の痛み止めが欠かせない。
病院には行ったけれど合う薬を探すのに疲れて今は整体院で自律神経を働かせ過ぎない様に気を付けて居る程度。
しかし本体はとても元気なので休みの日には友達と出掛けたりベランダを農園化して趣味に全力で時間を掛ける生活をしている。
出来る事と言えば料理洗濯家事掃除、手芸編み物など暮らしの中で必要な事はある程度出来る。
一人暮らし1年目の前には実家で昔から家事手伝いをしていたので負担にもならない。
ただ、そこまで筋力も無く小さな体と手足に頬を膨らます事はあるけれど、それは負担にもならないのだ。
私は周りに恵まれている。
父母や妹。親戚や近所に住んでいる人達。
友達や職場の人達みんなが優しくて、色々と気を回してくれる素敵な人達。
私は本当に人に恵まれて生きているんだなと本当に本当に気付かされるのだ。
そんな日々を生きる中で、いちばんの楽しみが夢を見る事。
こちらの世界は夢の中程自由じゃない。
もちろん自由なのだが、窮屈だと言う意味では無いけれど簡単に言うと全ての事柄に「お金」が関わって来るのだ。
そして一人暮らしの私とすれば家賃や光熱費その他もろもろ支払いを考えれば仕事を増やして給与を上げなくては生活が苦しくなる。
そのバランスを見誤れば最悪生活が出来なくなって穏やかな日々はもう戻って来ないだろう。
そんな事是が非にも避けたい。
私は私の思う穏やかで平和な日々を一生続けて行くのだと心に決めて居るのだから。
と言う訳で世知辛いがこちらの世界ではお金が全て。
そう言う意味でもあちらの世界とは勝手が違うのだと日々思う。
知歩以外の世界は大体だけれど、お金持ちだったりお金が無くても何とか生きていけたりする世界が多い。
と言うのもそもそも世界が違うと言うか常識の面が大きく異なっている事があるのでこちらとのギャップに毎度頭の中で驚いているのだが。
例えばすごいところで言うと魔法が使えたり、空を飛んだり。
お金持ちの場合私が危惧しなくてもお父さんお母さんが蝶よ花よと愛でてくれるしお友達から贈り物が山程届くし困った事無かったり。
最悪水と火があれば何かしら焼いたり煮込んだり出来るからあちらではそもそも困る事があまり無いのだ。
根無し草も居るくらいだから。
私としてはそれを知っている以上こちらの世界は楽しいけれど少しだけ窮屈だと言うか、自由では無いように感じた。
そんな知歩で居るこの瞬間に、他の夢の中であった事をふんわり思い出していると……なんだか違和感があって首を傾げた。
そう言えば、今日の夢は少しおかしかった気がする。
いつもなら切り替わる瞬間は瞬きの間だった筈なのに、少し時間が掛かっていたな。
いつもなら意識する間も無いくらい素早くチャンネルが切り替わるのに。
ロード時間が長かったとか?と考えてみるもこの仕組みはどうなっているのかなど私には分からないのだから答えは出ないのだけれど。
だけど…なんか、変だったな。
ふと、ずっと心のどこかにあるけれど隠している事が浮かび上がったけれど静かに首を振って深呼吸を繰り返す。
大丈夫、大丈夫。絶対大丈夫。
消えたりなんかしない、この29年間ずっとこのままだったんだから。
夢を見なくなる事なんてきっと無い。大丈夫。
私の恐怖、1番恐れるもの。
それは夢を見なくなってしまう事。
有り得る未来ではあるけれど否定したくて、私はそっと胸に手を置いて深呼吸。
ありえない、大丈夫、消えない。
心を穏やかにしながら、ふと浮かんだ不穏な言葉を削除した。