視界に一点の曇り無し
※異世界転生・転移モノではありません。
「…お嬢様?」
「アリッサ」
優しい声に促される形で起き上がろうとすると「いけませんよ」とリヴの声がして視線を左手に向けた。
リヴは屋敷の中で急患や体調不良を訴える人達の診察を担っている医者だ。
リヴには予防接種の時にしかほとんど会わないのに、どうしたんだろうかと視線でアリッサに問い掛ける。
察しの良い彼女は心配そうな表情のままに「廊下で倒れられたのですよ」と眉を顰める。
「え、倒れた?」
「すれ違ったメイドによりますと、挨拶をして数秒後にバタッと物音が聞こえたので振り向くとリューナお嬢様が倒れられたと。
挨拶の時は元気な様子だったと伺っておりますが、一体何があったのですか?」
「…えーと、リヒトルーチェにスープを作ろうと思って畑に行こうとしてたのは覚えてるのだけれど…ごめんなさい、どうして倒れたかは分からないわ」
「そうですか…疲れが出てしまったのかもしれませんね。
お嬢様は活発でいらっしゃいますから、しっかりとご飯を食べてしっかりと眠る事をオススメします」
「……問題は無いんだね、リヴ」
「良かったわ」
「え、お父様、お母様?」
びっくりして頭を上げると、ズキズキとこめかみが痛んだ。
それに驚いて飛んで来たお父様は私の背中に手を回してゆっくりとベッドに寝かせた。
「無理はいけないよリューナ」
「そうよ、倒れたのよ?安静にしてらっしゃい」
「……うん、でも二人共仕事は?
大丈夫なの?」
その言葉に苦笑した2人は「近くに居るのにアナタを置いて仕事に行くわけ無いでしょう」「今は仕事よりも君が心配なんだよ」と言葉にしてくれた。
仕事よりも私に時間を割いてくれたのが嬉しくて、大丈夫なのかなと心配したけれどそれよりも「ありがとう」と呟いた。
嬉しそうに、だけれど心配そうに母が私の頭を撫でる。
「お転婆な子…やっぱり小さな時から私が付きっきりで見てあげないといけなかったのね」
「そんな事ないよ、きっと先祖返りの影響じゃないかな。
先代もきっとお転婆だったのよ」
「だとしても、いつも気を使わせて居ただろう?
ありがとうねリューナ、だから今くらいは親として君を心配させておくれ」
優しい手に心が和らぐ。
撫でられる気持ちよさ、安心感。
両親に甘えられる機会は少なかったけれど、それでも寂しい思いはしなかった。
それは周りの人達がとても私に気を掛けてくれていたからだ。
17年間ずっと幸せだった、だから両親が済まなく思う事などひとつだって無い。
「ありがとう、お父様、お母様。
心配させてごめんなさい」
穏やかな空気に包まれながら、私はゆっくりと両親と離れていた間に何があったかを話した。
庭に出来た野菜、果樹、それを使ったレシピを考えたり、施設や教会に配りに行った事。
私は私で日常を楽しんでいると伝えると、2人は嬉しそうに笑ってくれる。
ただそれだけの事がすごく嬉しくて、会えなかった分の時間を埋めるようにその日は様々な話しをして過ごしたのだった。
こんなに平和な日は中々無いだろうと確信を持てるほど穏やかな日の終わり。
約束通りに畑の野菜を使ったスープをリヒトルーチェに持って来ていた。
大根、ブロッコリーを使ったスープ。
気に入ってくれるだろうか?
シェルターに入ると既に夜のテンションで居る猫や犬達が居た。
他にも獣数種類を捕獲しており、それらは全て保護だ。
山の中で怪我をしている子も居るので連れて帰って来ては治療して、山に帰す手伝いをしている。
リヒトルーチェは人馴れして居ないので、まずは慣れさせなくてはと思い部屋に入ると、月明かりが差し込む部屋の中央で窓を見上げていた。
「…こんばんは、リヒトルーチェ」
「……」
急に現れた私に1度視線を合わせると、興味を無くした様に窓に視線を向けた。
慣れていないと言うよりも興味が無いようだ。
月明かりを妨げない様に灯りを灯さず部屋へ入る。
その瞬間、真っ白の毛並みは艶やかな髪へ。
空色の瞳は1度瞬きをすると私の方へ視線を向けたままに固定された。
「……やっぱり人の姿を取れるんだね」
「知ってたの」
「予感的中!ってやつかな、はいこれ着てね」
不思議そうな空色の瞳に見詰められて、私もにっこりと笑顔を返すのであった。




