幸せな時間は長くは続かない
※異世界転生・転移モノではありません。
「……おい、起きろ」
「え」
目を覚ました先は見覚えのある黒に統一されたスタイリッシュな部屋。
見た目を楽しませる物がほとんど無いあの時からすれば鮮やかな緑色の多肉植物や飾り時計。
そして私の選んだ花を使ったバーバリウムも変わらず窓際に置かれていた。
と言う事は相楽くんの部屋に居るのかと覚醒して来た頭でぼんやりと考える。
「おい、無防備に寝てるなよな」
「待ってたら眠くなっちゃって…ノアは?」
「アイツなら高城のとこ、今日も変わらず実験と言う名のご褒美の時間なんじゃねえの?」
起き上がった私の服を直しながら「寝癖」と苦笑するその笑顔が何だか嬉しい。
頬を撫でるその指に身を任せていると、しばらく躊躇った後にゆっくりと整った顔が近付いて来た。
しかしムッと眉根を寄せる相楽くんは「外して良いか?」とメガネのフレームに手をかける。
「……だめ」
「無理、外す」
「あ」
声と共に食べられてしまい、私はしっかりと目を閉じる。
視覚に入る位置にいるノーア達をノウンしないように。
しばらくして息が整わなくなって来たので胸を叩くと「弱っちいな」と満足そうに離れて行った。
「慣れと緊張の問題だから」
「言い訳」
「違うわよ」
頬を膨らませると「ウソ」と今度は無邪気に笑う。
その笑顔で全てを許してしまいそうになるのはいただけない。
私は眠る前に何をしていたのだったかを思い出すべく窓辺にあるバーバリウムを見詰めた。
そうだ、確かミヤと町内のパトロールを終わらせて帰って来た時に相楽くんから呼び出しがあって…先に部屋で待っている様にって言われてたんだっけ。
このアヴリウスに来てからそれなりに時間を過ごして来たが、初めの頃を思うとかなり順応出来て居るのでは無いかと思う。
初めこそこの施設内でノウンしない様に一切部屋から出ようとしなかった私が、今や自由に研究所の中を出歩いたり街へ行くことだって躊躇しない。
相楽くんやミヤと言う緒方さんの隊の人達と出掛ける以外にも深山隊の照宮ちゃんとはメガネ友達だ。
外が楽しいのだと分かってから私は沢山の経験をする事が出来たと言っても過言ではない。
ノアも研究所の中に危険は無いと分かっているのか高城先生の部屋に行き来したりして、隊員とすれ違っても挨拶をするくらい。
私は、眼鏡越しに見える景色を見ながら今日も変わりないと安心して肺から息を吐き出した。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「ううん、いつも通りだなって」
「……それは、どこか行きたい所があるとか?」
「違う違う、不安にさせてごめん。
ただ…ここでいつも通りと言うのが何故かホッとするのよ」
意味が分からないと言いたげなその視線と表情も、初めて彼と出会った時を考えると良い変化であると言えた。
知らなかった事、知っていった事。
私がハルコであるその事がとても安心出来る。
何かが薄れていっている気がしたけれど、気にする程では無いかと意識をこちらに乗せて言った。
「じゃあ相楽くん、何しようか?」
この流れだと恐らく私が居ないうちにまた新しい服を買って来たなと読むと「実はハルコに似合うと思っていくつか買って来た物がある」とまた、嬉しそうに奥からショッピングバックを取り出してきた。
この人は本当に、せっかく貰ったお給料をなぜ私に使ってしまうのか。
嬉しいけれどそろそろやめて欲しいなと伝えて来たが「俺の好きな事に使って何が悪い」と開き直られてしまうので、私は何も言えないでいた。
本当は服を選んでもらうのも、一緒に買い物に行くのも大好きなのに。
それを見透かしたように「次は一緒に見に行こうな」と言ってくれるこの人が、私はとても大好きなのだ。




