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代償

――――暖かな日差しが窓から差し込んでくる……。


眩しい……。


――あれ?体が……動かない……?


これはもしかして……金縛り……?


いや……動かない……ことはない……。




で、でも……い、痛い!!なにこれ痛い!!


か、体を動かそうとすると……激痛が!!


う、腕が上がらな……痛い!!


筋肉が!!全身の筋肉が!!痛い!!


ど、どうしよう!動けない!助けて!誰か助けて!


そ、そうだ!ミオちゃん!ミオちゃんを呼ぼう!


そう思った時だった。


――コンコン。


「カゲルくん?起きてますか?入りますよ?」

ミオちゃんの声だ。


返答する前にミオちゃんは扉を開けて部屋に入ってくる。


「み……ミオちゃん……。」


「ど、どうしたんですか!?カゲルくん!」


「か、体が痛くって……う、動けないんだ……。」


「だ、大丈夫ですか!?今起こしますね!」


――待って!


そう言おうとしたが遅かった。

ミオちゃんは僕の身体を起こすために腕を引く。


「あ、痛ったー!!い、痛い!!痛い痛い痛い!!」


別にミオちゃんが怪力だとかそういうわけじゃない。

ただ布団の上に置いてあった腕を持ち上げただけだ。


「す、すみません!だ、大丈夫ですか!?」

ミオちゃんは僕の声に驚いて腕から手を離す。


重力に任せて再び柔らかい布団の上に落とされただけでも痛い。


「だ、大丈夫……き、筋肉が……全身の筋肉が痛いんだ……。きょ、今日はきっと動けないだろうから、このままにしておいてもらえると嬉しいんだけど……。」


そう、筋肉が痛い。

筋肉痛だ。


本来僕の身体では不可能な動きを……アズマの動きを、僕の身体で再現したせいだろう。


全身の筋肉の全てが切れてしまっているような感覚すら覚える。


「むぅ……ご飯はどうするんですか?朝ごはん、作っちゃいましたよ?」


ミオちゃんは不機嫌そうにそんなことを言う。


作った以上は食べて欲しいと思うのは当然だろう。


「ご、ごめん……今日は食べられそうにないかも……。」


「ダメです!持ってきますのでちゃんと食べて下さいね!」


「ち、ちなみに今日の料理は?」


「うふふ。煮物です。熱々のお野菜や練り物がたくさんですよ!」


ミオちゃんはご機嫌な様子で台所に向かって行った。




ミオちゃんの持ってきた熱々の煮物によって、どんなやり取りがあったのかは言うまでもないだろう。


もし僕が三人組のお笑い芸人なら、大観衆に大爆笑を与えられたことは間違いない。

なんでかは分からないけど、そんな気がする。


あまりにも熱そうだから先にミオちゃんに食べてもらおうとしたけど、気が付いたら僕が全て食べることになっていたくらいだ。


もちろん美味しかった。

美味しかったけど、全身筋肉痛の僕に対してミオちゃんがあんなに積極的だとは思わなかった……。

これからもミオちゃんを怒らせないように気を付けないと……。




動けない僕などを意に介すこともなく、人々を照らしている光は登り切り、沈み始めている。


それから少し後だったと思う。

おやつを食べるにはまだ早いだろうけど、玄関の扉を叩く音が聞こえた。


ミオちゃんは、なんだかんだで僕のことを心配してくれていて、ずっと僕の家にいてくれたので、その来訪者を迎え入れてくれたのはミオちゃんだった。


「よ、よう、カゲル兄ちゃん。あ、遊びに来てやったぜ。」

聞き覚えのある声だ。


動かすだけで痛い首を入り口の方に向ける。


「あ、しょうたくん。それにこうたくんと……ゆうたくんも。怪我はもう平気なの?」


「まだちょっと痛いけど平気だよ。」

ゆうた君が答える。


「それよりカゲル兄ちゃんこそどっか怪我したのか!?大丈夫か!?」

しょうたくんが続ける。


「ぼ、僕は大丈夫だよ……気にしないで……。」


「そうなのか?ならよかったけど……。」


「うん……。」


三人は僕の近くまで歩いてくる。


「ホントに大丈夫なのか……?なんでずっと寝てるんだよ?」


答えるよりも早く、こうたくんが僕の方へ手を伸ばす。


「ちょ、ま……あ、痛ったー!!あぐううう……。」


きっとこうたくんは僕の様子を見るために布団を剥ごうとしたのだろう。

でも僕はそれに過剰に反応して腹筋に力を入れてしまった。

これはまさしく腹筋が爆発しそうな激痛だ。

いや、別に何かが面白くて笑い転げそうとかいう意味ではなく、腹筋が……爆発しそうだ!


「な、なんだなんだ!?なんだよ!?どうしたんだ!?カゲル兄ちゃん!!」

しょうたくんが心配してくれる。


「あ、ぐ……じ、実は全身が筋肉痛で少し動かすだけでも痛いんだ……。」


「へへっ。やっぱりカゲル兄ちゃんはカゲル兄ちゃんだな。昨日はあんなに強くてかっこよかったのに、やっぱり弱くてだせぇ。」


「ご、ごめん……。」

なんとなく謝ってしまった。

子供の夢を壊してしまった気分だ。


「あ、そうだ……。」

そう言ったしょうたくんはニヤリと悪い顔をして、ゆうたくんとこうたくんの方へ合図をするように視線を向ける。


「しょうたおまえ……。そういうことだな?」

一瞬呆れたような顔をしたこうたくんもニヤリと悪い顔をする。


この三人は本当に仲がいいな……。


それにしても……嫌な予感がする。


嫌な予感がするけど……逃げられない!


助けて!助けてミオちゃん!ヘルプ!ヘルプミー!


「へっへっへ……ほら、食らえ!!カゲル兄ちゃんめ!!」

三人は遠慮なく寝ている僕へ体重をかけ始める。


「ちょ、や、やめ!い、痛い!痛い!あ、あ、い、痛っ、い、痛い!痛いよ!や、やめっ、あ、あ、アイヤーーー!!!」


ミオちゃんが僕の絶叫に気付いて助けに来てくれる頃には、三人は既に満足した後だった……。




「まったく、カゲル兄ちゃんは本当に弱ぇな。こうた、ゆうた、今日はこれくらいにしておいて帰ろうぜ!」


「だなーカゲル兄ちゃんは本当に弱ぇな。」


そう言いながらこうたくんとゆうたくんが部屋から出て行き、最後にしょうたくんが……。

部屋を出る前にこちらを振り向く。


「あ、ありがとな……カゲル兄ちゃん……。」


そう言い残してそそくさと家の外へと出て行った。


少し痛みの和らいだ体で、窓から見た三人の男の子はお互い小突き合いながら、仲良くどこかへ行くようだ。


僕の身体はこんな感じになっちゃったけど、あの子たちが泣き続けるようなことにならなくて本当に良かったと思う。


僕は再び布団に寝そべり、今日は一日そのまま過ごすことにした。


というか、動き回れる気がしなかった。


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