いつも通りの日常
「――ちょ、やめ、いた、ほんと、やめ!いたっ!痛い!痛いって!やめ、やめてー!」
僕の名前は『カゲル』。
「へっへっへ、カゲルの兄ちゃんマジで弱ぇ。」
――ケラケラケラケラケラ。
「しょーちゃん。今日はこのぐらいにしといてやろうぜー。」
「ええー……いいじゃん!もうちょっとくらいイジメてやろうぜー。」
僕は現在、十以上も年の離れた子供たちに、スネを蹴られてイジメられています。
「こらー!あなたたち!またカゲル君をイジメて!いい加減にしなきゃダメですよ!」
「うわっ!ほら、来た!カゲルの嫁だ!――わー!逃げろー!!」
僕のことを囲んでスネを蹴っていた三人の男の子たちは、いつものように笑いながら逃げて行く。
「もう、あの子たちったら……ほら、カゲル君もいつまでも小さい子にイジメられてちゃダメですよ?」
「えっと……だって……どうしていいか分からなくて……。」
「――もう、カゲル君は優しいんですから……。」
「べ、別にそういうわけじゃないよ……。」
「……ほら、もうご飯できてますから、一緒に食べましょう?」
「う、うん、ありがとう……。」
僕はミオちゃんに連れられて自分の家に戻る。
僕のことを助けてくれたこの可愛くて綺麗な女の子は『ミオ』。
隣の家に住んでいる幼馴染だ。
何もできない僕がこの家に一人で住んでいるのを見かねて、こうして毎日ご飯を作ってくれている。
僕は、生まれた時からこの家に住んでいる。
両親は……両親とも、既に亡くなっている。
理由は、不明だ。
ある日、出掛けて行った両親が、突然帰ってこなくなり、消息不明になったと聞かされた。
そして、隣に住む彼女の……ミオちゃんの両親も、既に亡くなっている。
理由は、僕の両親と同じで不明だ。
ともあれ、その日以来、こうして彼女と僕は同じ境遇の下で、協力して暮らしている。
いや、僕が世話をされているといった方が良いのかもしれない。
そもそも、僕たちぐらいの年になれば、独り立ちしている人もたくさんいるので、両親がいないことは別に珍しいことではないだろう。
ミオちゃんは、本当に可愛い。
気を抜くと、ついつい見惚れてしまう。
それに、他の同年代の女の子に比べると、おっぱ……お胸も大きくて、目のやり場に困ってしまう。
偶然、着替えているところを見てしまったことがあるけれど、何を抱えているのかと思ったら、それが彼女の胸だったこともあるくらいだ。
礼儀正しく、姿勢もよくて、すらっとしていて綺麗だ。
綺麗で艶のある髪をしていて、近くを通るとすごくいい匂いがする。
近くにいると、それだけで蕩けてしまいそうになる。
「――どうしたんですか?カゲル君?ご飯、冷めちゃいますよ?」
「あ、えっと……ごめん……なんでもない……。」
また彼女に見惚れてしまっていた。
こうして覗き込まれるだけでも照れてしまうので困る。
「そうですか?じゃあ、食べましょうか!今日は美味しくできたんですよ!
「うん。いただきます!」
「はい。いただきます。」
メニューは、クリームシチューがメインだ。
主食はパンだ。
他にも、ポテトサラダが添えてある。
昔、お母さんが作ってくれたシチューも、こんな味だった気がする。
彼女は、料理もとても上手で、それは留まるところを知らず、どんどん美味しくなっているようにすら感じる。
「今日も美味しいよ!」
「そうですか?ありがとうございます。」
それにも関わらず、彼女はそれを鼻にかけることもなく、控えめな態度だ。
きっと、僕なんかが近くに居なければ、もっと素敵な男の人と結婚して、既に子供を作っていたかもしれない。
それでも、彼女は僕と一緒にいてくれるんだから、本当に不思議だ。
「ごちそうさま。」
「はい、お粗末様です。美味しかったですか?」
「うん、いつも通り美味しかったよ!」
「そうですか。それはよかったです。それじゃあ、私は帰りますね?」
「うん、ありがとう。」
「はい、どういたしまして。それじゃあ、また明日。」
「うん、また明日。」