ワオンのおとぎボドゲカフェ ~流れ星を探そう~
人間と動物たちが、仲良く暮らしている『おとぎの森』には、少し変わったお店がありました。そのお店は、とってもこわー……くない、すごく優しいオオカミのワオンが店長をやっています。えっ? オオカミがお店をやってるなんて、大丈夫なの、ですって? もちろんです、それどころか、ワオンのいれる紅茶や、手作りケーキなどは、どれもとってもおいしいんですよ。
ということは、喫茶店かなぁと思ったあなた、ちょっと惜しい! このお店は、おいしい飲み物とケーキを食べながら、なんとボードゲームで遊べるという、不思議なお店なのです。その名も、『ワオンのおとぎボドゲカフェ』です。『ワオンのおとぎボドゲカフェ二号店』の店長のルージュとその弟のブラン、そして常連の猫のマーイとともに、今日も楽しくボードゲームをしているようですが……なんだかいつもと様子が違います。さぁ、あなたもワオンたちの、楽しいボードゲームライフをのぞいてみてください!
「やった、ようやくそろったぞ! お星さま一つゲットだ!」
グッとガッツポーズしてから、ワオンは半分欠けたお星さまのカードを2枚手元に寄せました。ルージュがくすくすと笑います。
「ワオンさん、やっとお星さま一つ目ね。もしかして神経衰弱とかって苦手かしら?」
ルージュの手元には、すでに10枚以上も、欠けたお星さまのカードが並べられていました。ルージュの双子の弟、ブランが苦笑いします。
「むしろルージュの記憶力が良すぎるんだよ。ぼくなんか、どこにどう欠けたお星さまがあったのか、全然覚えてないもん」
ブランもルージュの手元をチラッと見て、それからハーッとため息をつきました。ルージュの手元には、半分に欠けたお星さまだけでなく、5つの角の1つだけ欠けたお星さまや、3つ欠けたお星さまなんかもありました。それだけでなく、半分に欠けた三日月のカードもあったのです。
「欠けたお星さまがぴったり合わさるようにカードをめくる神経衰弱、『流れ星を探そう』かぁ……。確かに、星降る夜にぴったりのゲームだけど、ちょっと難しすぎるよ」
そうなげいてから、ブランは空を見あげました。いつもは『ワオンのおとぎボドゲカフェ』(ボドゲカフェとは、ボードゲームを楽しみながら、おいしいケーキや温かい紅茶などを楽しめるお店です。ワオンが店長をやっているのです)の中でゲームをするのですが、今日だけは違います。なんていったって、今日は『星降る夜』です。おとぎの森の住人たち(ワオンのようなオオカミも、ルージュやブランのような人間も)みんなで、空からたくさんの流れ星が落ちてくるのを、うっとりしながらながめるのです。
「それにしても、おれの商才はホントにすごいな。なんてったって、こんなにたくさんの客を集めてきたんだからさ」
行商人をしている三毛猫のマーイが、へへへっと笑いました。ワオンたちのテーブルの他に、おとぎの森の広場には、たくさんのテーブルが並べられています。そして、あちこちで歓声が聞こえてくるのです。
「『流れ星をながめながら、星降る夜にピッタリのゲーム、『流れ星を探そう』を楽しもう!』ねぇ……。確かにマーイちゃんが考えそうな、面白いイベントね」
余裕たっぷりにほほえむルージュを見て、マーイがにやにやします。ルージュが不思議そうにまゆをひそめると、マーイはルージュにカードを見せつけたのです。
「へへっ、UFOカードがめくれたぜ。それじゃ、ルージュちゃんのお星さまと、おれのお星さま……っていっても、まだ一枚も取れてないけど、交換だぜ」
「ええっ! そんなぁ!」
さっきまでの余裕はどこへやら、ルージュはぷくっとふくれっつらをします。UFOカードをめくった人は、自分が獲得したお星さまカードと他の人の獲得したお星さまカードを、丸々交換できるのです。つまり、ルージュがコツコツ貯めていたお星さまカードが全部、マーイのものになってしまったのです。
「もうっ、マーイちゃんったら、ずるいんだから!」
「あはは、それこそマーイらしいな。あ、そうだ、そろそろ他の人のテーブルにも、飲み物を運んでいこうかな。みんなごめんね、ちょっとゲームを中断しよう」
ワオンにいわれて、ルージュたちもうなずきます。大人にはスパイスの入った温かいホットワインを、まだお酒を飲めない人には、ワオン特製のロイヤルミルクティーをふるまっているのです。イベント参加者の中には、むしろこちらが目的の人もたくさんいました。それくらい、ワオンの作る飲み物はおいしいのです。カードゲームのお供に持ってこいの温かな飲み物を配ろうとした瞬間……。
「ガシャーンッ!」
テーブルが倒れる音がして、「きゃあっ!」と悲鳴が聞こえます。びっくりして音がしたほうを見ると、テーブルが一つバラバラに砕けていたのです。幸い誰もすわっていなかった席だったようで、誰もケガはしていないようですが、ともかくワオンたちはすぐにテーブルへと向かいました。
「いったいなにがあったんだ?」
「空から、なにか光るものが降ってきたんだ、そしたら、いきなりテーブルが壊れて……」
近くでゲームをしていた男の子が、ちぢこまっていいました。ワオンはそろそろと、壊れたテーブルへと近づきました。
「うぅ……、落っこちちゃった……」
壊れたテーブルの下から、小さな女の子の声が聞こえてきました。誰かケガしているのでしょうか? ワオンは慎重にテーブルの破片をのけていきます。すると、そこには……。
「あぁ、助かった、ありがとう。お空をみんなで競争してたの。でもわたし、あんまり夢中になっちゃって、高度が落ちてるのに気づかなくって……」
「えっ、えーっと、君は……まさか、流れ星?」
そうです、そこにいたのは、先ほどワオンたちが遊んでいた『流れ星を探そう』に描かれていた、お星さまがいたのです。ですが、そっくりなのはゲームと同じで……。
「……って、きゃあっ! どうしよう、わたし、欠けちゃってる!」
あまりにびっくりしてしまったのでしょう、お星さまから光がスーッと消えていきます。そして、次の瞬間ワンワンと泣き声をあげて泣き出したのです。
「うわぁんっ! これじゃ、これじゃ、お空に帰れないよぅ! わたし、欠けちゃったらお空を飛べないの! お空に戻れない、ひっく、ひっく……うわぁぁぁんっ!」
泣きじゃくるお星さまに、ワオンはもちろん、他のお客さんたちもみんな気の毒そうに見ています。ワオンは意を決して、お客さんたちをふりかえりました。
「ゲームをお楽しみの皆様、申し訳ございません。どうかこの子の、お星さまのかけらを探していただけないでしょうか?」
ワオンの言葉を、お客さんたちはいっせいに拍手で迎えました。あちこちから声が上がります。
「あぁ、もちろんだ! おれたちでお星さまのかけらを探そうぜ!」
「星降る夜に、『流れ星を探そう』で遊んでて、お星さまが降ってきたんだ。手助けしないわけないよ!」
「わたしたちで、『流れ星を探そう』と同じように探してあげましょう!」
みんなの反応に、ワオンはゴシゴシと毛むくじゃらの手で目をぬぐって、それからお星さまに向きなおりました。
「大丈夫だよ、ちゃんと君のかけらはおいらたちが探すからね」
ワオンにいわれて、お星さまはチカチカとまたたきました。
「うーん……。これだけ探しても見つからないなんて……」
「はぁーっ」と、ワオンは深く息をはきました。お客さんたちと手分けして、おとぎの森広場はもちろん、まわりの森もいろいろ探してみたのですが、どこにもお星さまのかけらは見つかりません。お星さまの話では、かけらも光を放っているはずなので、見つけやすいはずなのですが……。
「いったいどこにあるんだろう?」
「ねぇ、ワオンさん。とりあえず今日はもういったん帰って、明日また探したらどうかしら? お客さんたちもずいぶん熱心に探してくださってるし……」
ルージュにいわれて、ワオンは申し訳なさそうにまわりを見ました。せっかくの星降る夜のイベントなのに、みんな探しまわって泥だらけになっています。ワオンはお星さまをふりかえりました。
「ごめんよ……。いろいろ探してみたんだけど、どうしても見つからないんだ。また明日も探してみるから、今日はうちで休んでいきなよ」
お星さまの輝きがスーッと消えていきましたが、やがて、よわよわしい声で答えました。
「うん……。ごめんなさい、わたしのために……」
「気にしないでよ。きっと大丈夫、明日探したら見つかるさ」
ワオンがそっとお星さまを抱えました。明かりが弱まっているせいか、なんだか冷たくなっています。
「皆様、今日は本当にありがとうございました。夜も遅くなってきたので、いったんイベントはおしまいにさせていただきます。お星さまも探してくださってありがとうございます。よろしければ、また今後も『ワオンのおとぎボドゲカフェ』をご利用ください。」
ルージュの言葉を聞いて、お客さんたちが再び拍手をしました。ワオンも申し訳なさそうに頭をさげます。みんなそれぞれの席に戻って、残っていた飲み物を飲んで、カードを片付けていきます。ワオンたちも、お星さまが落ちてきて、バラバラになったカードをめくって集めていきます。そして、ルージュがあるカードをめくったときでした。
「えっ……わっ、なにこれ!」
突然カードが強い光を放ち、それからポンッと音がして、輝く星のかけらとなったのです。お星さまが歓声をあげます。
「あっ、わたしのかけらだ! わたしのかけらだわ!」
「ええっ? じゃあ、もしかして……カードの中に閉じこめられていたの?」
目をぱちくりさせるルージュに、マーイがなるほどとつぶやきました。
「そうか、多分それ、当たりのカードだったんだよ」
「当たりのカード?」
ワオンとルージュが同時に聞き返します。マーイは訳知り顔で続けました。
「ワオンのボードゲームは、だいたいおれが仕入れてくるんだけどさ、仕入れ先には魔法使いみたいなやつらもいてな。そういうやつらが作ったゲームは、なにかしら魔法の力を持っていることがあるんだよ。きっとそのカードも、なにか魔法の力が宿っていて、それがお星さまにぶつかったから、魔法と魔法が混ざり合って封印されちまったんだろうな」
マーイはピンとしたひげをゆっくりなでて、それからにぃっと笑いました。
「ま、なんにせよ、これでお星さまのかけらも見つかったんだ。よかったじゃねぇか」
マーイにいわれて、お星さまはまるで太陽のように強く輝き、ルージュが持っていたかけらもさらに輝きを強くしました。ルージュがお星さまの欠けた部分に、かけらを近づけます。ぴったりとくっつき、お星さまはぎゅうんっとすごい勢いで夜空へ昇っていきました。
「ありがとう! みんな、本当にありがとう!」
お星さまの声が夜空にひびくとともに、空が流れ星でキラキラと輝き始めたのです。まるで滝のようです。お客さんたちも、ワオンたちも、みんな歓声をあげました。
「しかしまぁ、まさか当たりのカードがあったなんて、ホントに驚きだな。しかもそれに、お星さまが落ちてくるなんて……。この分じゃ、他にもなにか閉じこめられてるんじゃないだろうな……」
お客さんたちが帰ったあとに、マーイがぶつぶついいながらカードを拾っています。そして、一枚のカードをめくると、きらきらと虹のように光り出して……。
「うげっ、UFOも閉じこめられてたのかよ」
目の前に現れた宇宙船を前に、マーイは頭を抱えました。
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