第1章 おまけの節「ラプラス劇場の舞台裏話~うるのばあい~」
此岸 佳逗葉
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第1章 おまけの節「ラプラス劇場の舞台裏話~うるのばあい~」
私こと「うる」は、今頭の中の双子が揃いも揃って、私の暴食を後押ししていることに悩んでいる。
魔法の話などは正直どうでも良い。今までだって魔法がなくても、夏はクーラーが涼しくしてくれてたし、冬はこたつでぬくぬくとダメ人間にもなれた。もはやそれらは人類が発明した魔法と言っても過言ではないのだ。むしろ、エネルギー保存の法則とか難しいことを考える前に、まず私のエネルギーを保存することの方が重要だと確信している。
私は昔から理系が苦手で、その中でも物理が最も嫌いなのだ。だから、マリアンが立てた仮説は、もれなく私の耳を右から左へとF1なみの速度で通過していった。意外にもなちちゃんと目があったのは、きっと彼女も同志なのだろう。こればかりは、生まれ持った双子の違いなので、仕方がないということにした。
では何に頭を悩ませているかと言うと、目の前にある、机の上で一晩明かしたと思われるチョコレートクッキーのことだ。
一晩空気に触れてしまっているので、多少の水分を含んでいる可能性はあるが、まだギリギリいけるはずだ。しかし、みんなが難しい話をしている中、いくら会話を放棄しているにしても、今食べるべきではないことくらいは分かる。だが、クッキーとして生まれてきたからには、食べてあげなくてはこの子たちの存在意義がなくなってしまう。そんなことは食べ物への冒涜であり、人間の欲、つまり大罪だ。
罪を犯してしまうのは、両親にも子供達にも顔向けが出来ない。ならば、空気が読めないと罵られようとも食べてやろう。そう決意して、自分に言い聞かせるよう頷いた時。
「ささ、難しい話は置いといて、まずはさ乾杯でもしない?」
あなたは巫女か。いや巫女だった。なちちゃんが湯気のたつ、淹れたての紅茶が入ったティーカップをみんなに配る。きっと、香ばしい匂いでこのテーブルは満たされているのだろうが、嗅覚を失った今の私にはそれを感じとることは出来ない。やはり、その一点だけは淋しい。
「ここに今集まった私達の因果に。そしてここに掲げた杯が、いつしか聖杯だと言える日をつくるために。乾杯!」
その言葉を合図に、ラフィがティーカップを高らかに掲げる。カップからは、案の定紅茶がこぼれ落ちたが、朝の光を浴びるそれがまるでキラキラと輝く宝石のようで、私にはとても眩しく見えた。
ラフィ、なちちゃん、染くん、マリアン、そして私。この五人が今後どんな嵐を巻き起こすのかはまだ分からない。子供たちも心配ではあるが、幸いにもマリアンの両親と同居しているので、まあなんとかなるだろう。それに、そんな未来のことを考えても仕方がない。
とりあえず今は待ち望んだクッキーを口に運ぶのだ。
「おいしっ!」
「ADXラプラス」第1章をご覧いただきまして有難うございます。
物語の始まり、複数視点からの進行となりまして、最初は読み辛い点も多くあるかと思いますが
今は誰の心情で物語が進行しているのだろうかなどを楽しんで頂ければと思います。
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