『魔の島』
世界五大陸で最大の面積を誇るヤノミ大陸の東の海上、メーシア大陸との間に小さな島が浮かんでいる。広大な大陸からすれば塵芥に等しいちっぽけな存在に過ぎなかった名も無き島は、古くから流刑地として用いられてきた。特にメーシア大陸からは大陸域さえ外れるため、この島への流刑は死刑より重いとまで言われていた。
この島には創世の時代、神々に追われた多くの魔物が棲み付いたとされており、長く混沌の時代が続いた。そんな島に秩序をもたらしたのは、神でも人でもなく、強き魔物を従える力を持った者だった。その者は長じて魔王を名乗り、島の各地に点在する人間の集落へと攻撃を開始した。
統率された魔王軍の強さは圧倒的で、最初の一月でいくつかの集落が滅ぼされた後は、人間達は自ら降伏し、隷属の道を選んだ。元より流刑となった者達にとって、もはや望みなど残っていなかったのである。神からも見放された島は、これが最初でも最後でもなかった。
大陸暦六一六年の暮れ――
魔王による島の支配が行われ、付近の大陸や島々から『魔の島』と呼ばれ恐れられるようになってから幾百年のある時、島の東に一隻の船が着岸した。メーシア大陸からの流刑者を載せた船である。数十人を下ろした船は、足早に島を後にした。
それらの流刑者を束ねていたのは、黒い鎧兜に金色の短剣を携えた戦士だった。流刑者の肉を喰らわんと襲い掛かった魔物の群れは、その黒い鎧の戦士と、共に現れた魔法使いの少女によって薙ぎ倒された。
その光景を見ていた人々は、東の海より救世主が来たと喜び、黒い鎧の戦士も応えるように島中を所狭しを転戦し、各地で魔物に隷属していた人間の希望の光となった。
大陸暦六二〇年の春先――
黒い鎧の戦士が現れてから三年、各地で代々続いた隷属から解放された人々は、隊伍を成して軍に連なり、魔王率いる魔物の軍勢に一大決戦を挑んだ。
月が満ちては欠け、また満ちる頃まで両軍は戦い、ついに魔王は討ち取られ、魔物は三々五々に散っていった。人間の軍勢は半数近くを失いながらも、幾百年の時を経た勝利を手にしたのだ。
魔王を倒した黒い鎧の戦士は英雄と呼ばれ、やがて人間のための国作りを始めた。
大陸暦六三七年の夏――
魔王の時代を知らぬ子が成人するほどの時が流れた頃、かつての魔王の居城を改築して王都ジョーギンとした、キュリール王国が建国された。かつて魔の島と呼ばれた流刑地の面影は無く、二つの大陸を繋ぐ海運の要所として発展していく事になる。
初代国王サイクス・キュリールは、戦士とも英雄とも呼ばれていた時代からの黒い鎧兜を纏った姿から、黒い鎧の王と呼ばれ敬われた。今日においても、黒はキュリール王国において貴い色とされている。
それから幾度と無く訪れた災害、戦禍、失政による国難を乗り越え、一つの王国として独立を保ち続けた国家としては、世界で五指に入る古株となった。
物語は、建国より七〇〇年ほど経った、ある夏の日より始まる。
国名:キュリール王国
公用語:キュリール語、タスパ語、ハーム語、ティズ語
首都:ジョーギン
建国日:大陸暦六三七年、九月十七日
通貨:ヒネリオ
主な産業:農業、水産業、観光業