「雪降る中を」
まだまだ寒い雪の中を、想って……。
白銀の世界の中を狐の少女は歩く。
手袋を買いに?
いえいえ違います。
愛しい人に会いに行くためです。
獣の姿で、彼女は白銀の世界を駆けていきます。
段々早くなるその速度は、少女が心からその人を愛しいと思うから。
冷たい足を動かして少女はひた走ります。
白い息を吐いて、一生懸命走ります。
山里を駆け下りて、ポツンと建つバス停に向けて。
少女の愛しい人は、今日この街を旅立つのです。
「着いた……」
少女の呟き、そして見る先には、バス停に立つあの人の姿が。
狐の少女は、人間に化けてソッと近寄ります。
手に、冬の野バラを一輪だけ持って。
狐の少女の唯一の贈り物。
そして、自分の気持ち。
声を掛けようとしたその瞬間。
「ひろくん!」
狐の少女はピタリと止まる。
あの人の元に、人間の女性が走ってきます。
「ひろくん、行ってらっしゃい。……私、待っているからね」
女性の言葉に、狐の少女は固唾を吞んで見守ります。
あの人が返事をする。
狐の少女の手から野バラが、ポトリ、と落ちた。
それが全てを語っていた。
不意に、女性がこちらを指差して言った。
「あ、あそこに赤い花が落ちている」
雪降る真っ白な世界に、赤い野バラが落ちていた。
狐の少女の姿はどこにもない。
あの人も女性も、不思議そうに野バラを見ている。
「コーン……」
その鳴き声だけが寂しく、世界に、響いた。
童話風の、悲恋物語が浮かんでこの物語を書きあげました。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。