第41話 宝箱の中身と、帰り道
「宝箱、開けますよ」
『当然よ。今日のMVPは私なんだから!』
「スポンジですけどね」
『うるさいっ! 私が憑いてるから強いの! 感謝して!』
ジュリさんが胸を張った気配がする。気配ってなんだよ、って自分でも思うけど、最近はもう慣れた。
宝箱は、見た目のわりにあっさり開いた。
罠も、鍵もない。……逆に怖い。
中に入っていたのは、三つ。
ひとつは、丸い小瓶。
中で黒っぽい液体がゆらゆら揺れている。
もうひとつは、薄い革袋。持つと、ずっしり重い。
最後は――紙。
「……紙?」
『紙って……当たり? 外れ?』
紙には、文字が浮かんでいた。いや、浮かんでるというか……見ているのに、頭の中に直接読まされる感覚。
《装備認証:未登録》
《所有者登録:可能》
《条件:所持者の魔力による刻印》
「なにこれ。取説?」
『取説が一番強い系? あるわよねそういうの。』
「ないよ」
そう言いつつも、胸が高鳴る。
こういうの、当たりの匂いしかしない。
そして、さっき拾った見慣れないネックレスに、視線がいった。
黒っぽい金属の輪に、小さな透明の石。
ただのアクセサリーに見えるのに、手に持つと妙に冷たい。
「これ、関係あるのかな」
『さあ? でも、絶対ロクでもないやつよそれ。』
「それ当たりの言い方じゃない」
『当たりってロクでもないのよ。』
深いようで浅いことを言いながら、ネックレスを首にかけた。
……その瞬間。
石が、ほんの一瞬だけ淡く光った。
「え」
『いま光った! 光ったよね!?』
「光った。……怖っ」
外そうとしたが、指が止まる。
外すのが正解なのか、つけたままが正解なのか、判断材料が足りない。
「……とりあえず、あとで鑑定かな」
『賛成。いまは帰ろ。帰り道、ヤバいんでしょ?』
ジュリさんの言う通り、扉の外には体液の跡がある。
あれは確実に、さっき吹き飛ばした元ゴブリンライダーのものだ。 
「警戒しながら行きましょう」
『さっきみたいにカッコつけないでね』
「もう言わないから!」
ダンジョンの通路は、来た時より静かだった。
静かすぎて、逆に音が目立つ。
ぴちゃ。
「……」
ぴちゃ、ぴちゃ。
体液の跡は、まだ新しい。
しかも――途中で途切れている。
「……止まった?」
『止まったってことは……待ってるってことよね』
「言うな」
言った瞬間、右奥から風が揺れた。
影が、跳ねた。
「っ!」
反射で〖清掃〗グライド。
身体が前に滑るみたいに加速する。
次の瞬間、背中に“何か”が掠めた。
ゴンッ、と壁が鳴った。
投げつけられた石か、武器か。
『うわ、やっぱ待ち伏せじゃん!!』
「……生きてるだけで十分!」
視界の端に、片腕を失ったゴブリンが見えた。
息が荒く、体液を垂らしながら、それでもこちらを睨んでいる。
「しつこいな……」
『そりゃ恨むでしょ! 腕なくなってるし!』
「俺のせいじゃないみたいに言うな!」
ゴブリンが吠えた。
そして、走ってくる。速くはない。……でも、近い。
「ここで倒し切る!」
剣を構え――その時。
ネックレスの石が、また淡く光った。
ぞわ、と皮膚が粟立つ。
“何かが見えた”。
通路の先。
壁の陰。
もう一体、いる。
「……二体!?」
『は!? 聞いてない聞いてない!』
「俺だって聞いてない!」
でも、見えた。
見えたなら、対処できる。
ユーリは息を吸い、足を滑らせるように動いた。
(……ダサいって言われたしな)
今度は、言葉じゃなくて行動で――決める。




