プロローグ第7章 「大金星!馬頭空間、消滅す」
粉々に砕けたティクバランの燃えカスが、風に吹かれて散っていく。
今回の「ティクバラン駆除作戦」も、見事に成功だよ。
「やったね、大金星!」
私ってホントに、思った事が即座に口に出ちゃうんだよね。
腹芸の技能が要求される職業には、適性がないのかも知れないなあ。
大企業のCEOに、弁護士に政治家。
後は結婚詐欺師とか。
やっぱり防人の乙女が、私の天職なのかもね!
「終わったね、英里奈ちゃん!」
歩道から引き抜いたレーザーランスを早くも左肩に立て掛けた親友に向かい、私は笑い掛けたんだ。
こうして私にも、キチンと見せ場を残してくれるんだもの。
何と言っても、持つべき物は友達だね。
「お見事です、千里さん!不調を来していたGPS機能も、旧に復したようですよ。ティクバランの電気信号が消滅した、何よりの証拠ですね!」
私に上品な笑顔で応じる英里奈ちゃんは、右手に握ったスマホを掲げて、しきりと左右に振っている。
「えっ!そうなの、英里奈ちゃん?」
それに促されるようにして、私は遊撃服の内ポケットへ手を差し込み、目当ての品を取り出したんだ。
「どれどれ…おっ、ホントだ!」
軍用スマホの液晶画面に表示されたGPSアプリは、平時と変わらない良好な反応を示している。
付近をパトロール中の武装特捜車や、支局のオペレータールームも、今頃は私達のGPS反応を正確に確認出来ている事だろうね。
もっとも、特定エリアに入った途端にGPSが不調を来したのなら、それは当該エリアに何らかの電磁干渉が発生している証拠に他ならない。
遅かれ早かれ、救援の手は差し伸べられるんだ。
しかしながら、こうしてティクバランの殺処分に成功した以上、戦闘要員の増援はもう御呼びでなかったね。
「お疲れ様です!こちらは、吹田千里准佐であります!」
取り出したスマホを通話モードに切り替えた私は、支局のオペレータールームを呼び出した。
ここまで状況が大きく動いた以上、報告は早目に行わなくてはならないからね。
報告、連絡、相談。
この3つが大切なのは、どの業界でも同じだね。
だけど、私達みたいな公安職の場合だと、この3つの遅速は時として、命にも関わって来るんだよ。
「逃走した特定外来生物は、只今駆除致しました。死体の回収処理のため、1班か1分隊の特命機動隊を回して頂ければ幸いです。それから…」
夜の浜寺公園で歩みを進める私に、英里奈ちゃんが静々と追従する。
目指す先は、テニスコートに程近いベンチ。
そこではB組のサイドテールコンビが、保護した諏訪ノ森女学園の生徒を介抱している真っ最中だ。
「それから、和歌浦マリナ少佐と枚方京花少佐の両少佐が、民間人の負傷者を1名保護致しました…いえ、件の民間人以外に負傷者はございません!それでは、アンビュランスと衛生隊員を要請致します!」
こうしてオペレータールームへの報告を終えた頃には、ベンチまでは目と鼻の先と言える距離まで近づいていた。
「5分位でアンビュランスが着くってさ!マリナちゃん、京花ちゃん!」
一仕事終えた気の緩みか、サイドテールコンビに駆け寄った私は、ついつい叫ぶような声を上げてしまったんだ。
「ち…千里さん!あの…あんまり大きな声を出されては、そちらの方の傷に障ってしまいますよ…!」
「ウゲッ…しまった…!やっちゃったよ、英里奈ちゃん…」
オロオロとした口調で咎める英里奈ちゃんを見て、慌てて反省した私。
だけど、一度口にした言葉は引っ込んでくれないんだよね…
「英里、ちさ!そんなに気にしなくたって、大丈夫だよ!脈拍と心拍数は共に正常だし、呼吸も安定しているからさ。」
大型拳銃を個人兵装に選んだ防人の乙女が、黒いサイドテールを軽く揺らして、振り向き様に笑った。
「本当なの…マリナちゃん、京花ちゃん!」
「要するに、腹パンのショックで気絶してるだけみたい…」
マリナちゃんの後を受けて頷いたのは、明るい童顔がチャーミングな、青いサイドテールの少女だった。
「もっとも、私とマリナちゃんの素人見立てで恐縮だけどね。」
青いサイドテールを揺らして、軽く肩をすくめる今の仕草。
斜に構えてニヒルにカッコつけたつもりだろうけど、至ってコミカルだったからね、京花ちゃん。
柄に合わない不慣れな真似は、やらない方がいいよ。
そんなB組のサイドテールコンビに促されるようにして、ベンチに酔っ払いよろしく横たわる民間人少女へと、私と英里奈ちゃんは2対の視線を注いだんだ。