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プロローグ第4章 「凶悪!馬頭怪人ティクバラン」

 (はや)る心を抑えつけながらも慌てず急ぎ、私達4人は北側テニスコートに程近い林へと辿り着いたんだ。

「ああ…皆さん、あれを御覧下さい!」

 血相を変えた英里奈ちゃんが指差すその先では、2つの人影が激しく(もつ)れ合っている真っ最中だった。

 人影とは言ったものの、その片一方は人に在らざる異形の怪物だったの。

 プロテインサプリメントを常食したボディービルダーかプロレスラーを思わせる、筋骨隆々で屈強な上半身に、鼻息も荒々しい牡馬その物の頭部。

 アスファルトに覆われた歩道を踏みつける度に鳴り響くのは、馬蹄の足音だ。

 あれこそ(まさ)しく、馬頭怪人ティクバラン。

 フィリピン産特定外来生物の、半人半馬の忌まわしいシルエットだ。

 それに追い詰められし第2の人影は、紛れもなく無辜(むこ)の一般人。

 馬頭の外来生物から逃れようとする動きが激し過ぎて、顔まで確認するのは容易ではなかったね。

 しかしながら、ティクバランの襲撃を受けている一般人少女の装いに関しては、ハッキリと識別できたよ。

 青いチェック柄のミニスカートに、清楚で上品な白いセーラー服。

 スカートと同様に青いチェック柄のセーラーカラーの襟元には、細い青のリボンタイが美しく結ばれている。

 足元を固める白い三つ折りソックスと黒いコインローファーまでもが、良質な素材を用いた一流メーカーの上級品だ。

 それは、堺県内でも屈指の名門御嬢様学校として名高い、私立諏訪ノ森女学園高等部の制服に他ならなかった。

「ヒォォォン!」

 チョコマカと逃げ回る獲物に業を煮やした馬頭の外来生物は、怒りと苛立ちを露わにするかのように、上半身の筋肉を醜悪なまでに隆起させた。

 ムクムクと膨れ上がった上腕など、見るだけでも(おぞ)ましい。

「ヒォン!ヒォン!」

 そしてその豪腕で、セーラー服姿の腹を強かに打ち据えるのだった。

「グアッ!」

 鈍い音と共に、セーラー服姿の身体が弓形(ゆみなり)に仰け反り、あたかも(おこり)(かか)ったかのようにビクビクと激しく痙攣する。

「ウグッ…」

 そして哀れなる女子生徒は、両目と口を大きく開いて短い呻き声を上げるや、そのまま事切れたかのようにガックリと項垂(うなだ)れた。

 眼窩から飛び出しそうな程に見開かれた両目が、グルリと反転して白目を剥く。

 形の良い口から地面に向けて飛び散った唾液に、真紅の鮮血が混ざっていなかったのが、せめてもの救いだよ。

「ああっ!何という事を…!」

 失神した名門女子高の一般生徒に代わり、眉を潜めて嫌悪に満ちた声を上げたのは、家柄と育ちの良さでは諏訪ノ森女学園の生徒達に一歩も引けを取らない、茶髪の特命遊撃士だった。

「あのケダモノめ…貴様、許さん!」

 間髪を入れず、青いサイドテールの少女が絶叫する。

 明朗快活で愛らしい童顔を、煮え(たぎ)る憤怒に険しく歪めて。

「レーザーブレード・ウィップモード!」

 少女が握り締めた白い柄から、目映い真紅の光が迸る。

 これこそ京花ちゃんの愛用する個人兵装、レーザーブレードだ。

 しかし、迸った真紅の光は、刃の代わりに新体操のリボンを思わせる帯状の形を取り、夜の闇を背景にして(しなや)かにうねった。

 先日の「凶牛ウイルス事件」における牛頭鬼ミノタウロスとの戦闘でも大活躍を果たした、レーザーブレードの新機能。

 その名も「レーザーウィップ」だよ。

「伸びろ、レーザーウィップ!」 

 そして次の瞬間には、京花ちゃんの身体は宙を飛んでいたんだ。

 歩道へ()み出す程に張り出した並木の枝に、深紅のリボンが巻き付いている。

 リボン状に展開したレーザーブレードを枝へと巻き付けた京花ちゃんは、さながら忍者やターザンよろしく、振り子の原理でロープ渡りを敢行したんだ。

「うおおおっ!」

 レーザーウィップにぶら下がった京花ちゃんが、倒れた一般生徒に圧し掛かろうと目論むティクバランへ、グングン近づいていく。

 夜風を切る鋭い音を伴いながら。

「スイングキック・ダブルパワー!」

 鼻息さえも感じられる程にティクバランへ肉薄したタイミングで、京花ちゃんは揃えた両足を勢い良く伸ばして突き出したんだ。

「ヒォォォン?!」

 揃えて突き出された戦闘シューズの靴裏によって、馬面の顎は粉々に破壊し尽くされ、ティクバランの身体は並木の1本へと強かに叩きつけられたの。

 木の幹に叩き付けられた馬頭怪人の後頭部から、赤黒い血が噴き出ているね。

 この分だと、頭皮でも切っちゃったのかな?

「オゴッ…!ブホッ…」

 後頭部を打ちつけて脳震盪でも起こしたのか、ティクバランは短い呻きを上げると、血でベッタリと濡れた(たてがみ)を揺らして首を折ったんだ。

 ガックリと項垂れた馬頭怪人の周囲にボタボタと飛び散った、黒と白の点々。

 それは、ティクバランの圧し折られた鼻から噴き出た汚穢極まる血液と、両足キックで粉々に砕かれた臼歯に他ならなかった。

「そこの君!もう大丈夫だよ!」

 ウィップモードに展開したレーザーブレードの柄を握る左手に全体重を預け、京花ちゃんは右手をグッと差し伸べたんだ。

 そうして伸ばした手が目指すのは、不幸にも馬頭怪人に殴られて昏倒した、名門御嬢様学校の一般生徒。

「いよっと!」

 そのセーラー服姿の細い腰に、遊撃服の右腕が巻きつけられ、まるでゲームセンターのUFOキャッチャーみたいに持ち上げられたんだ。

 ナイスキャッチだよ、京花ちゃん!

「良かった…まだ生きてる!」

 セーラー服姿を小脇に抱えた京花ちゃんは、その明朗快活で愛らしい童顔に安堵の微笑を浮かべ、満足そうな溜め息を漏らしたんだ。

 どうやら諏訪ノ森女学園の生徒さんは、とりあえずは無事みたいだね。

 これで私達も、心置きなく戦えるって寸法だよ。

 フィリピンから船旅で遥々とやってきた、馬頭怪人ティクバランめ。

 いよいよ年貢の納め時だよ。

 私達「防人の乙女」の、正義に燃える怒りを受ける覚悟は出来ているかな。

 可愛い一般市民を痛め付けてくれたツケは、高くつくからね。

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[一言] 恋路を邪魔する輩は馬に蹴られるべきだが、乙女を穢さんとする輩は防人の乙女に蹴られるべきだ!!(゜Д゜;)
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