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プロローグ第3章 「飛び込め、魔の馬頭空間へ!」

 悲鳴の上がった方角へと駆け出してから30秒も経たないうちに、生体強化ナノマシンで改造された感覚器官が、私に警告信号を伝えてくる。

 生体改造技術が確立される以前の時代だったら、「虫の知らせ」とか「第6感」とかいう言い回しで表現されていた感覚だね。

「さっきからスマホのGPSが、ちょっとばっかし不調気味だよ!」

 空いている左手で内ポケットからスマホを器用に取り出した京花ちゃんが、叫ぶような声を上げた。

(わたくし)のスマホもです!千里さん、マリナさん!」

 レーザーランスを携えた英里奈ちゃんも、それに続く。

 どうやら、私の感じた危険信号の正体とは、これの事らしい。

「ティクバランの奴が近い証拠だ!油断するんじゃないよ、3人とも!」

 愛用の大型拳銃を手にしたマリナちゃんは、眉一つ動かさずに親友達へ応じた。

 フィリピンの伝説ではティクバランは、「テリトリーである山や森林に入った人間を魔術で遭難させ、時には発狂させる。」と恐れられていたんだ。

 ティクバランへの呼称が「未確認生物」から「特定外来生物」へと改められた頃には、その生態のメカニズムも、動物学や解剖学の世界的権威達によって徹底的に解き明かされたの。

 ティクバランが持つとされていた魔術にも科学の光が当てられ、「ティクバランの脳内神経細胞(ニューロン)間で生じる特殊な電気信号(パルス)が、周囲の知的生命体の方向感覚に変調を来すため。」との種明かしがなされたんだ。

 しかしながら、謎が科学で解明される事と、その危険性が失われる事は、必ずしもイコールで結ばれる訳ではないんだよね。

 ティクバランの脳内神経細胞(ニューロン)から放たれる電気信号(パルス)は時として、電子機器にまで影響を及ぼしてしまう事があるんだ。

 ちょうど、今のように。

 高高度核爆発がもたらす電磁パルスへの耐性をも備えた、人類防衛機構モデルの軍用スマホだからこそ、「ちょっとばっかし不調気味」で済んでいるんだ。

 これが携帯ショップで市販されている民生品レベルだったら、今頃は完全にクラッシュして、単なるモックアップと成り果てているだろうね。

 視聴覚や方向感覚に関しても、同様の事が言えるよ。

 特殊能力「サイフォース」に覚醒して生体強化ナノマシンで改造された私達だからこそ、こうして平然と直進出来ている訳だけど、これが生体改造措置を受けていない生身の民間人なら、どうなるかな。

 変調を来した視聴覚は幻覚と幻聴に悩まされるし、方向感覚も乱れているので東西南北すら満足に分からない。

 オマケに、スマホのGPSも役立たず。

 一戸建ての分譲住宅が建つのがやっとの狭い範囲を、グルグルと堂々巡りするのが関の山だろうな。

 所謂、遭難時に見られる輪形彷徨(リングワンダリング)だね。

 発狂しそうになるのも、無理はないよ。

 こうなってしまっては、「万物の霊長」としての人間のメンツなんて丸潰れ。

 馬頭怪人の格好の餌食でしかないよ。

 戦う力を持たない民間人にとって、ティクバランは未だ脅威足り得るんだ。

 その馬頭怪人ティクバランによって、何の罪もない管轄地域住民の身が、今まさに危険にさらされようとしているんだよ。

 一刻も早く救出しなくてはならないよね。

 そんな焦燥たる思いに駆られた私の胸中では、振袖火事で丸焼けとなった江戸八百八町もかくやとばかりに、けたたましく早鐘が打ち鳴らされていたんだ。

「絶対に諦めないで!私達が必ず、助け出してあげるから!」

 口からポロッとこぼれてしまったけれど、肩を並べて走る少佐階級の3人としても、この時の私と同じ思いだったはずだね。

 管轄地域の治安維持と、地域住民の安全確保。

 それが、人類防衛機構に所属する私達こと、「防人の乙女」の本懐だからね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミノ○スキー粒子をまき散らすガ○ダムとか某怪獣王の放射熱線に不調を起こすMUTOみたいな敵ですねぇ。 でもだからこそ、彼女達という存在が居てよかったぜ。
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