エピローグ第4章 「旧友のメッセージ」
こうして4人揃った私達は改めて、駆除作戦完了の打ち上げをささやかながらも上げるのだった。
「しかしながら…まだ何か言い残した事がありそうですね、京花さん?」
私の御酌で満たされた3杯目をゆっくり傾けながら、英里奈ちゃんが静かに問い掛ける。
さすがに4人で飲んでいたら、アスティの減りも早いよね。
そろそろ、エレベーターホールの自販機か地下コンビニあたりで、缶チューハイか缶ビールでも仕入れて来ようかな。
「よくぞ聞いてくれたね、英里奈ちゃん!私とマリナちゃんは何を隠そう、夕香ちゃんからメッセージを言付かって来たのです!」
「隠したらメッセージにならないだろ、お京…」
得意気に胸を張る京花ちゃんに、冷ややかに突っ込みを入れるマリナちゃん。
この温度差が、何とも言えないよ。
「ヤだなあ…あくまで言葉の綾だよ、マリナちゃん。それでね、そのメッセージと言うのがさ…」
親友の冷ややかな突っ込みにもめげる事なく、京花ちゃんは伝令役の役割を朗らかに全うしたんだ。
京花ちゃんが言付かってきた、夕香ちゃんからのメッセージ。
それを夕香ちゃん本人が語った通りの形に再構成すると、大体こんな感じになるんだ。
-3年C組の特命遊撃士の皆さん、お久し振り。先程は危ない所を助けて頂いて、感謝の思いで一杯です。理想に燃える熱い正義感はそのままに、卒業式の日よりも更に頼もしくなった皆さんのお姿を見る事が出来て、私も嬉しく思います。これからも、その厚い友情に裏打ちされたチームワークと正義感を武器に、町の人々を守って下さいね。
-追伸。何時か近いうちに、御子柴中3Cの卒業生と紀見峠先生とで、同窓会を開きたいですね。
伝言と言うよりはむしろ、メールか手紙の文面みたいだね。
まあ、夕香ちゃんのスマホは、ティクバランの電気信号で壊れちゃったんだから、仕方がないかな。
「そっか…夕香ちゃんが、そんな事をね…」
グラスに満たされたアスティ・スプマンテを飲み干すや、私はしみじみと呟きを漏らした。
「随分と嬉しそうだね、ちさ。」
そりゃそうだよ、マリナちゃん。
保護をした民間人からの感謝の言葉や、管轄地域住民のエールの声こそ、「防人の乙女」である私達を後押しする、何よりの励みなんだからさ。
「民間人の方も交えた、3年C組の同窓会ですか…それも素敵ですね!」
一方の英里奈ちゃんは、追伸の方に食い付いたみたいだね。
「確かにね、英里奈ちゃん…私達の場合、クラスや進学先が別々でも、支局では毎日のように顔を合わせているけど、民間人の子達はね…」
私としても、英里奈ちゃんの意見には至極同感だったよ。
私達が通っている御子柴高校の一般人生徒にも、3C同窓生は何人かいるけど、他校に進学した民間人の子達とは、どうしても疎遠になっちゃうからね。
直接会って、互いの近況を報告し合うってのも、悪くはないだろうな。
「いいね…!やろうよ、同窓会!どうせだったら、何処かのバーか居酒屋を借りきって、ワ~ッと盛大にやりたいよね!」
ところが、最も鼻息が荒かったのは、この話をメッセンジャーとして持ち帰った張本人である所の京花ちゃんなんだよね。
こういう、とにかく「友情」や「絆」を大切にする京花ちゃんの主人公気質な所、私は大好きだよ。
「いいね、京花ちゃん!こないだ行った銀座通りのイタリアンバルとか、ちょうど良さそうな…んっ?」
すっかり京花ちゃんに同調しちゃった私だけど、どうにも引っ掛かっちゃう事があるんだよね。
この同窓会って、民間人の子達も一緒って前提だよね?
「えっ…き、京花さん…?民間人の同窓生の方々に、お酒を飲ませるのですか?それは、大問題になってしまいますよ…」
「あっ…!」
京花ちゃんを真顔に戻したのは、英里奈ちゃんの冷静な指摘だったの。
「そうだよ、京花ちゃん…中学の同級生だから、他の子達も15か16じゃない。飲酒なんて御法度だよ。私達ならともかくさ。」
英里奈ちゃんの静かな忠告に、私も便乗させて頂く事にしたよ。
京花ちゃんの弁護のために言っておくけど、人類防衛機構に所属している私達は、未成年でも飲酒が許可されているんだ。
私達の身体を戦闘に適した物に改造するために静脈注射された生体強化ナノマシンは、アルコールによって活性化する面白い特性を持っているの。
そのため、人類防衛機構に所属する「防人の乙女」には部分的成人擬制が適用され、私達は成人年齢に達するのを待たずに飲酒が出来るんだ。
私だって、お酒を初めて飲んだのは、特命遊撃士養成コースへの編入を果たした、小学5年生の春休みだからね。
他の子達だって、大体は似たり寄ったりだよ。
だから、京花ちゃんが勘違いしちゃう気持ちも分かるんだ。
女の子なら誰でも、成人年齢を待たずにお酒を飲めるってさ。
「土日か夏休みの昼間にでも予約すれば、民間人の子達の帰る時間が遅くなる心配はないけど…私達がお酒を飲んでいるのを見たら、民間人の子達も飲みたくならないかな、京花ちゃん?」
もっとも、こういう常識人的な指摘は、私のキャラじゃないような気がするんだけどなあ…
「要するに…千里ちゃんが言いたいのは、こういう事?民間人の子達に合わせて、私達もソフトドリンクで我慢するって?ダメダメ!そんなの、間が保たないよ!私、耐えられないよ~っ!」
その気持ちは分かるよ、京花ちゃん。
駄々っ子みたいに首を左右にブンブンと振るうのは、ちょっと頂けないけど。
「同窓会の2時間だけでも辛抱しろよ、お京。同窓会の前に軽く飲んできて、お開きになってからは支局のメンバーで2次会に繰り出せばいいじゃないか?」
「うん…それなら何とかなりそうだけどさ、マリナちゃん…」
マリナちゃんが相手だと、京花ちゃんも随分と素直だね。
もっとも、そんな私達だって御子柴高の校内で過ごしている間は、アルコールは自粛しているからね。
高々2時間程度の同窓会での禁酒。
やって出来ないなんて事は、ないはずだよ。
「それより厄介なのはスケジュール調整だよ、お京。民間人の子達にも部活や予備校がある訳だし、私達のシフトだって然りさ。」
「特定の時間に、3CのOGだけがシフトから一斉に抜けるなんて、さすがに申請が通らないよね…トホホ…」
マリナちゃんの冷静にしてシビアな指摘に、ガックリ肩を落とす京花ちゃん。
喜怒哀楽の起伏が激しいからこそ、意気消沈した時の態度も分かりやすいね。




