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プロローグ第2章 「轟く絶叫!急げ、4人の防人達よ!」

 私達4人の特命遊撃士が、こうして夜の浜寺公園で暇を持て余していたのには、ちょっとした事情があるんだよね。

 またしても、危険な特定外来生物が上陸してしまったんだよ。

 何時ぞやの吸血チュパカブラの時と同じように、今回もコンテナ貨物船に紛れ込む形での侵入だったの。

 今回上陸した特定外来生物は、フィリピン産の馬頭怪人ティクバラン。

 馬の頭に人間の身体という、まるで地獄絵巻に登場する馬頭羅刹そっくりな猛獣なんだけど、ティクバランは足首から先が蹄になっているんだ。

 厄介な事に、こいつには人間の女性に悪さを働く習性があって、フィリピン本国での評判は最悪なの。

 民間人が被害に遭っては一大事だね。

 そのため、一刻も早い駆除作戦の遂行が必要となってくる。

 そこで、我等が人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局は、県警との協同で、管轄地域一帯に大非常線を展開する事と相成ったんだ。

 そう言う訳で、今日の放課後からシフトに入っていた私達4人も「ティクバラン駆除作戦」に動員され、こうして浜寺公園に配置されたって訳だよ。

 山奥や森林をテリトリーとする習性上、森林豊かな公園にティクバランが潜んでいる可能性は充分に有り得るからね。

 近隣の大仙公園や大浜公園、そして松原市と堺市にまたがっている大泉緑地だって今頃は、ここと同様の厳戒態勢だよ。

 もしかしたらティクバランは、この夜の闇に包まれつつある浜寺公園の何処かで、今この瞬間にも、邪悪な奸計を巡らせているのかも知れない。

 そう考えたら、木々のちょっとした隙間に生じた物陰にさえも、目を光らせずにはいられないんだよね。


「そういうマリナちゃんだって、人の事は言えないんじゃない?」

 鬼の首を獲ったような、京花ちゃんの笑顔。

 それに釣られて、大型拳銃を個人兵装に選んだ少女に視線を向けてみると。

「何だよ?私がどうかしたって、お京…?あっ!」

 京花ちゃんに指摘されて、ようやくマリナちゃんも気付いたみたいだね。

 マリナちゃんったら、大型拳銃の銃把を使って、コチコチと自分の肩や首筋を軽く叩いていたんだ。

 まるで、孫の手のお尻に付いているゴルフボールみたいにしてね。

「オヤオヤ~?ストレッチはダメで、肩と首筋のマッサージは良いのかな~?」

「いや、違う!これはだな、その…」

 からかうような京花ちゃんの笑い声を受けて、大慌てで個人兵装を首筋から離すマリナちゃんだけど、手持ち無沙汰に大型拳銃で首筋マッサージをしていた事実は覆せないからね。

 覆水盆に返らずだよ。

 癖って言うのは、なかなか自分では気付かないんだよね。

 こうして、第三者に指摘でもされない限りは。

 もっとも、人の振り見て我が振り直せ。

 私も気を付けないといけないな。

「マリナちゃんったら、まだ肩凝りなんて歳じゃないのにさぁ…!」

「おい、止せ!笑うんじゃない、ちさ!」

 それにしても、その場を取り繕おうとシドロモドロになっているマリナちゃんは、日頃のクールな立ち振舞いとのギャップも相まって、見ていて面白いな。

「まあ、マリナさんったら…」

 内気で気弱な英里奈ちゃんでさえも、こうして笑っちゃっているし。

 もっとも、口元を手で上品に覆って笑う辺り、育ちの良さは隠せないよね。

「しょうがない連中だな、全く…」

 恨めしそうに吐き捨てるマリナちゃんだけど、その声には笑いに似た響きが含まれていたし、夕闇に輝く切れ長の赤い瞳にも、和んだような光が宿っている。

 こうして私達4人の周りには、何とも穏やかな雰囲気が漂い始めていたんだ。

 ここが、危険な特定外来生物を駆除するべく張られた包囲網の真っ只中だなんて、とても思えないよ。

「まあ、何はともあれ…お蔭様で、いい具合に緊張の糸がほぐれたよ。京花ちゃん、マリナちゃん!」

 緊迫した非常線の渦中において、図らずも束の間の癒しと笑いを提供してくれたサイドテールコンビに、私は感謝の念を示さずにはいられなかったよ。


 ところが、(まさ)にそんな時だったね。

「来ないで、化け物!」

「ヒォォォン!」

 生体強化ナノマシンで鋭敏に高められた私達の聴覚が、絹を引き裂く少女の悲鳴と、それを掻き消すかのような馬の(いなな)き声を捉えたのは。

「何でしょう、今の悲鳴は!?」

 癖の無い茶髪のロングヘアーを夜の闇に翻した英里奈ちゃんの叫びが、私達の間に緊張を走らせた。

「あの馬みたいな声、資料映像のティクバランそっくりだったよ!」

 私はこう呟くと、レーザーライフルの銃把を握る手に自然と力を加えていた。

 場合によっては、レーザー銃剣で接近戦を演じる事になるかも知れないからね。

「あっちだ!ここから遠くないよ!」

 緊迫感を帯びながらも、生来の明朗快活さを失わない少女の張りのある声が、夜の浜寺公園に木霊する。

「どっちなの、京花ちゃん?!」

「ほら、あっちだよ!」

 青いサイドテールの少女が、華奢な顎と細い指で指し示す先は、まるで墨を流したかのように黒い夜の闇だ。

「行こう!英里奈ちゃん、千里ちゃん!マリナちゃん!」

「心得ました!御供します、京花さん!」

「オペレータールームへは私が連絡する!吹田千里准佐、貴官は周辺で展開する部隊に応援を要請せよ!」

「はっ!承知致しました、和歌浦マリナ少佐!」

 夜の闇のその先へと、私達は突進した。

 私達の助けを待つ、誰かの元へ。

 その誰かを恐怖のドン底に叩き落とし、このように悲痛な絶叫を上げさせた、憎むべき仇敵の元へと。

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[一言] 女性ばかり襲うとは……ハレンチな外来種ですな!
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