第11章 「卒業アルバムは友情の証」
こうして私は、防人の乙女達の敬礼と一般生徒の拍手に迎えられて、悠々と自分の席へ戻ったんだ。
「ありがとうございます、吹田さん!吹田さんの御挨拶にもありましたが、こうして吹田さんがいらした事で、3年C組は30人全員が揃った状態で完成し、無事に卒業式を迎えました。それでは先生から、最後の配布物を回しますので、前の人から後ろの人に送って下さいね!」
こうして「最後の配布物」と銘打って、着物と袴姿の紀見峠先生から配布されたのは、卒業証書を入れるための黒い筒と卒業アルバムだったの。
-つい最近まで昏睡状態で、ずっと学校に来れなかったから、どうせ私の写真なんて、卒業アルバムには只の1枚も載ってないだろうなあ…
そんな風に、最初から諦めていたんだけど…
「あっ…これは!」
何気無くページをめくった時、私は思わず声を上げちゃったね。
卒業アルバムには、確かに私の写真が載っていたんだから。
さすがに2学期に撮影した3年C組の集合写真には参加出来なかったので、右端に合成した形になってはいたよ。
でも、「3年間の思い出」と銘打たれたページには、私の写っている写真が少なからず掲載されていたんだ。
少尉の階級章を付けた遊撃服を身に纏い、「元化22年度入学式」の看板の前でポーズを取っている写真は、確か母に撮って貰った物だ。
マリナちゃん達と一緒に表彰状を頂く写真は、サイバー恐竜による被害を最小限に食い止めた功績を評価された時の物で、広報誌にも掲載されている。
卒業アルバムにはそれ以外にも、遊撃士や曹士の子達と一緒に撮影したスナップ写真が、幾つか掲載されていたんだ。
それらは全て、私が御子柴中学校に入学してから昏睡状態になるまでの、僅かな期間に撮影された写真だったの。
一番驚いたのは、1年生や2年生の時の集合写真も掲載されていたのに気付いた時だったね。
もっとも、2年A組の集合写真は、例によって右端処理がされていたんだけど、入学直後に撮影した1年B組の集合写真には、しっかり私が写っていたよ。
「その写真はね、遊撃士と曹士の子達が集めたんだって。」
驚いた表情で卒業アルバムのページを繰る私に、左隣の席に掛けた夕香ちゃんが、ソッと耳打ちで教えてくれる。
「うん、まぁね…千里ちゃんの御家族に入学式の写真があるか聞いたり、支局の広報課に使用許可を申請したりと、アレコレと色々な事をやったっけなあ…」
夕香ちゃんの耳打ちに感慨深そうに応じたのは、私の右斜め前の席に座った京花ちゃんだった。
生体強化ナノマシンで改造された私達の聴覚では、耳打ちなんて無意味だよ。
「1年生と2年生の時の集合写真も掲載しようってアイディアを出したのは、生駒さんなの。」
「でもさぁ、業者の人からは『カラーページの枚数が増えるから、値段も上がりますよ。』って言われちゃったの。それで臨時の学年集会が行われたんだけど、そこでマリナちゃんが力説してくれたから、こうして千里ちゃんも写っている集合写真を掲載出来たんだ。」
夕香ちゃんの後を引き取る形で、卒業アルバム製作秘話を語ったのは京花ちゃんだった。
「ねっ、そうでしょ?マリナちゃん、英里奈ちゃん!」
そのまま京花ちゃんは、自分の左隣と後ろに座った特命遊撃士に向かって問い掛けたんだ。
「あっ、はい…皆さんと御一緒の御写真があれば、千里さんがいつか御目覚めになった時に、喜ばれるのではないかと、その…差し出がましくも存じ上げまして…」
京花ちゃんに確認を求められた英里奈ちゃんは、妙にモジモジとしながら答えるのだった。
照れ臭いのかな、自分の善行をひけらかしているみたいで。
そんな英里奈ちゃんの傲らない謙虚さと優しさ、私は大好きだよ。
「一般生徒の同意が得られなかった場合、オーバーした分のコストは、第2支局のメンバーでカンパして出そうかって妥協案も考えていたんだ。けど、学年集会では満場一致で賛成案が可決。卒業アルバムには、ちさも一緒に写っていて欲しい。そう思っていたのは、一般生徒の子達も同じだったんだよ。」
英里奈ちゃんとマリナちゃんの話を聞いた私は、知らず知らずのうちに、卒業アルバムを胸に抱き締めていたんだ。
「そうだったんだ…みんな、本当にありがとう!」
私の呟き声に、紀見峠先生を含んだ30人全員が、笑顔で頷いたんだ。




