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第9章 「証書をこの手に!卒業式開会」

 教室棟の廊下でクラスごとに整列集合した私達は、卒業式の会場に指定された体育館へと、美しく隊列を組んで入場を決めたの。

 昏睡から回復したばかりのため、ほとんど卒業式の練習に参加出来ていない私だけど、他の子達と何ら遜色のない、整った入場を決められたんだ。

 それもひとえに、特命遊撃士養成コースで叩き込まれた基本教練の賜物だよ。

 オーソドックスな開会の辞で幕開けした御子柴中学校卒業式は、国歌斉唱に学事報告という具合に、式次第に則って順調に進んでいったの。

 卒業証書を授与してくれた校長先生は、私が昏睡状態だった元化23年4月に赴任されてきた方のようで、私の記憶の中にある校長先生とは別人だった。

 一応、保護者向けの学校歳時記で顔だけは知っているんだけどね。

 そうして学校長告辞とPTA会長の祝辞、祝電披露と在校生の送辞を経て、早くも卒業生の答辞の段となったの。

「穏やかな春の日差しが心地よいこの日、私達御子柴中学校3年生一同は、無事に卒業式を迎える事が出来ました。御来賓の皆様に保護者の皆様、諸先生方に関係者の皆様。本日は私達の為に、誠にありがとうございます。」

 パイプ椅子から颯爽と立ち上がり、答辞を読み始めたのは京花ちゃんだった。

 登校時のおフザケが嘘のように、澄ました優等生の立ち振舞いをしているね。

「元化22年の春、新生活への期待に胸を膨らませながら、私達は御子柴中学校の校門をくぐりました。それから3年間、私達は互いに友情を育み、沢山のかけがえのない思い出を積み重ねてきました。」

 ここで京花ちゃんが言葉を切ると、緑色のブレザーに身を包んだ一般生徒の1人が立ち上がったんだ。

「1年生の9月。滝畑ダム併設のキャンプ場での宿泊体験。力を合わせて作ったカレーは、本当に美味しかったです。」

 要するに、3年間の思い出を年毎に伝えていくパートだね。

 3年前の堺市立土居川小学校の卒業式でも、同じような事をやったよ。

 こうして1年生の思い出を読み上げている子は、1年生の時に私と同じクラスだった小坂八重乃(こさかやえの)さんだ。

 小坂さん、3年生でもB組なんだね。

「2年生の10月。2回目の合唱コンクール。1年生の時よりも深まった絆を武器に、放課後の教室で取り組んだ課題曲の練習。」

 続いて卒業生席から立ち上がったのは、特命機動隊の紺色の制服に身を包んだ、C組の生徒だった。

 北加賀屋住江(きたかがやすみえ)一曹も、答辞を担当していたんだね。

 まあ、住江ちゃんのソプラノボイスには、女子アナや声優を思わせる美しさで支局内でも定評があるらしいから、答辞に選ばれたのには納得だけど。

「3年生の5月。北海道への3泊4日の修学旅行。旭山動物園では動物達の可愛らしさに魅了され、五稜郭では歴史の重みに圧倒されました。」

 学級通信によると、三重や長崎、それと沖縄も候補地に挙がっていたみたい。

 このうち、三重県は堺県から近いので却下され、残りの3択で学年投票が行われれた結果、北海道になったそうだ。

 まあ、いずれにせよ、私は昏睡状態だから行けなかったんだけどね。

 そんな私のために、3人はお土産を買ってきてくれたんだけど、退院後に荷解きをしたら驚いたな。

 連名で買ってくれた地酒セットはともかく、それ以外が個性的なんだよ。

 英里奈ちゃんが買ってくれたのは、マリモを封じ込めたスノードーム。

 マリナちゃんが買ってくれたのは、温度計が付いたクラーク像のミニチュア。

 京花ちゃんが買ってくれたのは五稜郭のペナントに、アイヌの民族衣装を着た御当地萌えキャラ「カムイ子ちゃん」のアクションドール。

 いかにも観光地の土産物らしい、ユルくてキッチュなチョイスに、退院して間もない身体に関わらず爆笑させて頂いたよ。

 とりあえず、カムイ子ちゃんをクラーク博士の像に抱きつかせて遊んでみたけど、こういう使い方でいいのかな?

「運動会に文化祭、そして毎日の学校生活。御子柴中学校で過ごした3年間の思い出は、私達全員の誇りです。」

 それらの思い出の殆どに立ち会えず、学級通信などを読んだ後追いの知識しか持ち合わせていないんだよね、私の場合は。

 答辞を読んでいる京花ちゃん達には、本当に申し訳ないんだけど。

「諸先生方に在校生の皆様、今日までお世話になりました。皆様方の御活躍を御祈りする事で、御礼と旅立ちの言葉とさせて頂きます。元化25年3月25日。御子柴中学校卒業生代表、枚方京花。」

 それでも、それらの中学時代の思い出の締め括りにして集大成である卒業式に、こうして滑り込みで間に合ったのは、まだ運が良かったんだろうね。

 今、京花ちゃんの答辞が締め括られるのを聞いて、そんな思いが脳裏をよぎっちゃったよ。


 そしていよいよ、最後の校歌斉唱と相成ったんだ。

 舞台の右横に貼ってあるレリーフには校歌の歌詞が書いてあるから、あまり歌う機会のなかった私でも何とかなるんだよ。


 上る朝日に照らされる

 煉瓦造りの正門に

 希望に満ちた若人が

 理想を抱いて集い来る

 今日も一日 朗らかに

 元気に楽しく 学び合おう

 御子柴 御子柴 我が母校

 そびえ立つ 我が学び舎


 私の場合、結局この校歌も、数える程しか歌う機会がなかったなあ…

 卒業式本番である今を除いたら、入学式と1年生の1学期終業式で歌って、その後はずっと昏睡状態。

 その機会、僅かに3回。

 そして、その3回目が歌い納めになっちゃうんだから、儚いような名残惜しいような、複雑な気分になっちゃうよね。


 そして閉会の言葉と私達卒業生の退場を式次第の通りに執り行い、御子柴中学校卒業式は無事に終了した。

「もう…吹田さんったら、校歌を歌っている最中に泣き過ぎだよ…!」

 最後のホームルームを受けるために教室に戻る途中、私の前を歩いていた子が、抗議混じりの声と共に振り向いてきたんだ。

「えっ…?」

「ほら…!お陰で私まで貰い泣きしちゃったじゃない。私、式では泣かないって決めていたんだよ…」

 オレンジがかった赤毛のショートヘアーが特徴的なこの少女は、私より出席番号が1つ若い、一般生徒の四天王寺夕香(してんのうじゆうか)ちゃんだった。

 1年生の時も同じクラスだったから、よく覚えているよ。

 確かに、普段は綺麗なライトブラウンをしている夕香ちゃんの瞳が、今日は髪の毛以上に真っ赤に染まっている。

 これはまた、随分と泣き腫らしちゃったようだね。

 きっと私も夕香ちゃんと似たり寄ったりの、真っ赤に泣き腫らした顔をしているんだろうね、この分だと。

 せめてハンカチで、目元だけでも綺麗に拭いておかないとなぁ…

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[気になる点] 夢を操るタイプのUMAやら兵器やらで、偽物な中学生活を送らされる千里ちゃん……そんな展開も、いずれあったら面白いかなぁなんてふと思いました(ぇ 「え、何言ってるの千里ちゃん」 「アポ…
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