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第8章 「足並み揃え!旅立ちへのステップ 後編」

「だけど…ありがとう、英里奈ちゃん!いい事を伝えてくれて…それに千里ちゃんも…!そこまで思って貰えるなら、友達として本望だよ!」

 こういう台詞は、友情に厚い京花ちゃんが言うと、本当に様になるなあ。

 光る涙の玉さえも、「爽やかな青春の1滴」って感じがするよ。

「ああ、いいね…『4人一緒に卒業式のステップへ』か!」

 遊撃服の腰に手をやり、万感の思いで頷くマリナちゃん。

 一見すると、普段と変わらないクールな落ち着きを保っているようだね。

 でも、マリナちゃんの事を注意深く観察すれば、切れ長の赤い瞳の右側に、小さな水粒が浮かんでいるのが分かるよ。

 マリナちゃんの右目は長い前髪に覆われているので、「傍目からは分からないだろう。」という具合に、無意識下で油断しちゃったのかな。

 それにしても、器用な泣き方だよね。右目だけで涙を流すだなんて。

 こうして見ると、私達4人の中で一番涙もろいのは英里奈ちゃんで、一番タフな涙腺の持ち主はマリナちゃんという事になるな。

 そんな2人の間に、私と京花ちゃんが入る事になるんだけど、私よりも少しだけ、京花ちゃんの涙腺は頑丈な気がするんだ。

 そうすると、私達4人の苗字は各々、生駒(いこま)吹田(すいた)枚方(ひらかた)和歌浦(わかうら)だから、苗字の五十音順に涙腺が強くなっていく事になるんだね!

 とはいえ、こうして気付いたこの法則は、どんな時に活きるんだろう?

「あっ!ほら見て、千里ちゃん!御子柴中が見えてきたよ!」

 京花ちゃんの明るい声で我に返った時には、堺県立御子柴中学校の正門が、もう目と鼻の先だった。

 私ったら随分と長い時間、物思いに耽っちゃっていたみたいだね。

 既に涙を拭き終えたのか、3人とも、普段と変わらない爽やかな表情だし。

「帰ってきたよ、御子柴中!そして、今日が巣立ちの日か…」

 このようにしみじみ呟きながら、私は京花ちゃんの指差す方向に目を向けた。

 元化24年の夏休みに塗装をやり直した鉄筋コンクリート製の校舎は、まるで新築当時を思わせる美しいクリーム色の壁面を誇示していた。

 学級通信にあった通りだね。

 まるで私達の卒業を、校舎までもが祝福してくれているみたい。

 悪くない気分だよ。

 プレーンな鉄筋コンクリート製の校舎に比べると、少々立派過ぎて不釣り合いに見えなくもない赤レンガ製の校門には、花飾りでデコレーションされたアーチが掲げられている。

 そして、門柱の脇には「元化25年度卒業式」の立て看板。

 特大の半紙に墨汁で大書きされているよ。

 きっと、御子柴中学書道部の精鋭が、精魂込めて書き上げてくれたんだろうね。

 校門の門柱に埋め込まれている、校名を刻んだ銅板製の看板にも負けず劣らずの、堂々たる風格だよ。

「すっかり卒業式ムードだね、御子柴中も…」

 柄でもないのに、おセンチな気分に浸る私。

 そんな私の肩を軽く叩いたのは、マリナちゃんだった。

「どうかな、3人とも?私達4人でタイミングを揃えて、卒業式のステップに進もうじゃないか!」

 それって、サイドテールコンビと合流する前の私が、英里奈ちゃんに語った一言だよね、マリナちゃん?

 それにしても、軽く振り返り、肩越しに親指で校舎を差すその仕草。

 なかなかに小洒落ているじゃない、マリナちゃん!

「いいね、それ!私達4人らしい卒業のセレモニーだね!」

「はあ、成る程…先の千里さんの御言葉を実践しようとおっしゃるのですね、マリナさん!」

 京花ちゃんと英里奈ちゃんは、二つ返事で賛成みたいだね。

「どうだい、ちさ?他の2人は賛成票だけど…」

「うんっ!」

 マリナちゃんが言い終えるのを待たずに、私は黒いツインテールをブルブルと揺らしながら、力強く頷いたの。

 口より先に手が出るって、こういう事を言うのかな。

「マリナちゃん!勿論、私も大賛成だよ!」

 勿論、顔を上げたタイミングで、口頭でも肯定の意思は伝えたけどね。

 だって私の場合、こうして自分の発言を汲み取って貰っているんだよ。

 それを無下にでもしようものなら、友達として失格だよね。

「そう、満場一致か…それは良かった…」

 マリナちゃんも、この提案に私達全員が両手を挙げて賛成する事は、重々予測していたのだろうね。

 意外そうな素振りなんて少しも見せず、青写真の通りに事が進んだ満足感に、軽く微笑して頷いただけだったよ。

「見てよ、校門はガラ空き!お誂え向きだね!」

 京花ちゃんが嬉しそうに指差す通り、アーチが掲げられた御子柴中の校門をくぐる生徒の数は疎らだった。

 登校時間のピークから外れていたのか、はたまた単なる偶然か。

 理由まではよく分からないけれど、多少は羽目を外しちゃっても大丈夫そうな事だけは、確かだったよ。

「うん…好機来たりか!一同、散開!」

「はっ、復唱します!一同、散開!」

 マリナちゃんの号令一発。

 それまで綺麗な2列に隊列を組んでいた私達は、呼吸を合わせて復唱すると、適度な間隔を空けて横一列に散開した。

「一同、前進!」

「はっ、復唱します!一同、前進!」

 4足のローファー型戦闘シューズが同時に踏み出され、歩道と御子柴中の校庭の境目を、一斉に踏み越える。

 どうかな、この整然と統制された、私達の一挙一投足の美しさは?

 ギャラリーの数が少ないのが、私としてはちょっぴり残念かな。

 まあ、登校する生徒の多い時間帯だったら、横一列に広がって校門を塞ぐような真似なんて、とても出来ないんだけどね。

「さぁて…泣いても笑っても、いよいよ卒業式…お京、英里、ちさ!3人共、身を引き締めていかないとね!」

 マリナちゃんの問い掛けに、私達3人は力強く頷いたんだ。

 何しろ、今日が中学生活最後の日だからね。

 卒業生たる者、後輩達の良い御手本とならなくちゃ。

 ましてや私達は、都市防衛を司る特命遊撃士だもの。

 立つ鳥、跡を濁してはならず。いわんや防人の乙女をや。

 こうして私達4人は胸を張って、御子柴中学校の昇降口を目指すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >とはいえ、こうして気付いたこの法則は、どんな時に活きるんだろう? トリビアで語れる程度、かなぁ(ぇ 足並み揃えて、イチニッサンハイッ!( ´∀` )
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