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第7章 「足並み揃え!旅立ちへのステップ 前編」

 事故やトラブルに巻き込まれる事もなく、無事に合流出来た私達は、堺県立御子柴中学校を目指して、赤いレンガで覆われた歩道を進み始めたの。

 左手には南海高野線、右手には関西大学堺キャンパスの校舎群を眺めながらね。

 私はしばらく、3月の穏やかな陽気に包まれた堺区香ヶ丘町の町並みに目を奪われながら、友人達3人との他愛ないお喋りに興じていたんだ。

「そうそう…御2人と合流する直前に、千里さんが素晴らしい一言をおっしゃっていたのですよ!」

 そろそろ関西大学堺キャンパスの敷地が途切れるあたりで、不意に思い出したように叫んだのは、英里奈ちゃんだった。

「へえ、ちさが…」

「素晴らしい一言を?」

 私達2人の前を歩いていたマリナちゃんと京花ちゃんが、興味津々という表情を浮かべて振り返り、私と英里奈ちゃんの顔を覗き込んでくる。

 その瞬間に一際強い春風がサッと吹き抜け、2人の側頭部を飾る黒と青のサイドテールが、フワリと宙に巻き上げられた。

 3月の澄んだ青空を背景にして、2人のサイドテールが春風に吹かれている様子は、まるで端午の節句の鯉のぼりや吹き流しを彷彿とさせる、滑らかで美しい物だったね。

 1月半程、季節を先取りしちゃったかな?

「ねえ、どんな内容なの?私達にも聞かせてよ、英里奈ちゃん!ねっ?」

「あっ…あの、千里さん…御2人に御伝えしても、よろしいでしょうか?」

 私に了解を取ろうとする英里奈ちゃんは、盛んにせっついてくる京花ちゃんのせいで、すっかりタジタジになっていた。

「うん…それは大丈夫だけど…マリナちゃんも京花ちゃんも、あんまり過度な期待はしないでよ…」

 こっちの了解無しに無闇矢鱈とハードルを上げられて、いざ聞いてから、「なぁんだ…」って幻滅されるのは不本意だからね。

「分かった、分かった。それじゃあ謝恩セールとして、50%引きの期待で手を打とう!お京も、それでいいね?」

 何だろう、「謝恩セール」による「50%引きの期待」って?

 まあ、これもマリナちゃん流のユーモアなのかも知れないね。

「マリナちゃんが5割引で社運を賭けたか…だったら私は、6割引まで勉強させて貰うね!」

「京花ちゃん…何なの、その謎の値下げ合戦?」

 マリナちゃんに関してはスルーしたけれど、さすがに京花ちゃんにはツッコミを入れさせて貰ったよ。

 このままだと、いよいよ収拾がつかなくなりそうだったからね。

「おっ!なかなかいいツッコミだね、千里ちゃん!まあ、こうして場の空気も温まった訳だし、私とマリナちゃんの心のハードルも下がった事だし、英里奈ちゃんも喋り易くなったんじゃないかな?」

 私にツッコミを入れられた京花ちゃんはと言うと、腰に手を当ててケラケラと笑っている。

 いかにも、「お調子者の道化でござい!」と言う具合にね。

 思い起こせば、この手の道化役は私の役回りだったんだよなぁ。

 もっとも、それは私が昏睡状態になる前の話なんだけど…

 京花ちゃんもマリナちゃんも、英里奈ちゃんや私を和ませるために、不馴れな道化役を、敢えて演じてくれていたんだね。

「はあ…それでは(わたくし)が、不束ながら御伝え申し上げます。昏睡状態から回復したばかりの病み上がりにも関わらず、千里さんは卒業式への出席を切望されていました。それは、卒業式に出席される事で、(わたくし)達と共に未来へと進めるからだそうです。」

 いささか緊張気味の英里奈ちゃんが語り始めたのは、私達がサイドテールコンビと合流する前にしていたお喋りの要約だった。

 マリナちゃんと京花ちゃんも、今度は茶々を入れる事もなく、神妙な面持ちで聞き入っている。

「千里さんが先程におっしゃった、『まずは浅香山駅でマリナちゃんや京花ちゃんと合流して、4人一緒に卒業式のステップに進もうかな?』という御言葉には、そうした想いが強く…強く込められているのです…」

 ここまで英里奈ちゃんに改まって言われると、少し照れ臭くなっちゃうなあ。

 歴史上の偉人や有名な経営者の名言みたいな扱いだけど、肝心の発言者が私じゃ、ちょっと風格がね…

 おや…?

 言い淀んだ辺りで、英里奈ちゃんの瞳に光る物が見えたような…

 と言う事は…

「また、この御言葉には…千里さんの(わたくし)達への深い想いが、同じ時を過ごせる事への喜びが…存分に凝縮されていて…」

 ああ、やっぱりか。

 とうとう英里奈ちゃんったら、感極まってしまって泣き崩れちゃったよ。

 声もすっかり涙声で、最後の方なんか、何を言っているのかはっきり聞き取れなくなっちゃって…

 これで記念すべき、本日2回目の涙腺決壊だね。

「英里奈ちゃん…その涙は、卒業式の本番まで取り置きしようねって、さっき言ったじゃない…」

 こう言いながらハンカチを差し出す私の声も、英里奈ちゃん程ではないにせよ、震えていたね。

「うう…申し訳御座いません、千里さん…(わたくし)、どうしても…」

 今こうして、英里奈ちゃんの涙を拭き取ってあげたハンカチ、私のを拭く時にも、まだ使えるかな?

 これだけ湿っていたら、拭いてもそんなに意味がないような気がするなぁ…

「全く…2人共、涙もろいんだから!そんなに濡れたハンカチじゃ拭き取れないよ、千里ちゃん!」

 そういう京花ちゃんの青くて円らな瞳にも、涙の玉が浮かんでいるんだよね。

 こうしてハンカチを貸して貰った手前、誠に指摘しにくいんだけど…

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― 新着の感想 ―
[一言] ほらほら、一度顔を洗って。 充血したまま卒業式に出ちゃうよ(今さら遅いけど( ̄▽ ̄;)
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