第6章 「冷やかしは、友情の裏返し」
「しょうがないなあ、京花ちゃんは…」
私は心底ゲンナリとした表情を浮かべて、深々と溜め息をついたんだ。
まさにその時だったね。
「そろそろ気が済んだんじゃないか、お京?何と言っても、ちさはまだ病み上がり。からかうのも程々にしてやれよ。」
いよいよ暴走寸前のレベルに差し掛かってきた京花ちゃんの肩に、マリナちゃんが軽く手を置いたのは。
「あっ…!ゴメン、千里ちゃん…私ったら、久々に4人揃ったのが嬉しかったから、思わず羽目を外しちゃって…」
どんなに羽目を外して悪ノリをしたとしても、叱られたら直ちにその理由に思い至り、自分から頭を下げられる。
そういう京花ちゃんの素直な所は、私も大好きだよ。
「私からも…申し訳御座いません、千里さん…私、千里さんの御厚意に甘えてしまい、千里さんが御困りになるような出過ぎた振る舞いを…」
英里奈ちゃんは本当に良い子だよね。
誰かに直接指摘される前に、自発的に自分の行動を顧みて、これまた自発的に反省出来るんだから。
それに、英里奈ちゃんのした事なんて、何でもない事なのにね。
少なくとも、京花ちゃんの悪ノリに比べたら…
「お京や英里も、決して悪気があっての事じゃないんだよ。ただ、ちさと一緒に通い慣れた通学路を歩くのが、余りにも久し振りで、そのブランクを埋めたいばかりに、つい羽目を外しちゃったんだよ。」
京花ちゃんと英里奈ちゃんに反省を促したと思ったら、すぐさま2人の弁護役にも転じるなんて、マリナちゃんったら本当に忙しいよね。
私達4人の良き姉貴分って、感じかな。
そんな我らが姉貴分の顔も立ててあげたいし、つまらない事で今の関係性が拗れちゃうのも良くないし。
もうそろそろ水に流してあげないとね。
「頭を上げてよ、英里奈ちゃん、京花ちゃん…2人に悪気がないのは、始めから分かっていたよ。そんな事で怒る程、私の器は小さくないよ。」
おずおずと頭を上げた英里奈ちゃんと京花ちゃんの顔には、心底ホッとした表情が浮かんでいた。
「まあ、私だって、『そんな気が全く無いのか?』と聞かれたら、嘘になっちゃうだろうね…」
そう言えばマリナちゃんも、京花ちゃんの悪ノリを援護射撃するかのような、誘導尋問めいた質問をしてきた事に、改めて気付かされたね。
だからと言って、目の前でバツの悪そうな表情を浮かべているマリナちゃんに、腹を立てている訳じゃないんだよ。
むしろ、マリナちゃんの嘘偽りのない本心を聞けて、良かったと思ってる。
そして、マリナちゃんの思いが本心ならば、そのマリナちゃんに気持ちを代弁されている2人にも、同じ事が言えるんだよね。
言ってみるなら、2人の思いへの太鼓判かな。
「そっか…ブランクを埋めたがっていたのは、私だけじゃなかったんだね…」
私の問い掛けに、3人はゆっくりと頷いたんだ。
「まあね…私、千里ちゃんが昏睡状態だった間は、回復してからの事をずっと考えていたんだよ。『回復したら真っ先に、この話題を振ってみよう!』とか、『こういう事を、一緒にしてみたいな!』とかね。」
照れ臭そうに左手でサイドテールを弄りながら、思いを語る京花ちゃん。
そうした実情を聞いたのなら、さっきの暴走寸前な悪ノリさえもが、とっても愛しく思えてくるね。
「でも、実際に千里ちゃんが回復してみると、『あれも、これも!』って気持ちばかり先走っちゃって、上手くいかないんだよね…ん?」
そんな京花ちゃんの肩に再び、マリナちゃんはそっと手を置いたんだ。
「そんなに焦らず、出来るペースでやっていけばいいんだよ、お京!今はこうして、ちさが一緒なんだからさ!」
「うん…そうだね、マリナちゃん!」
口元に微笑を浮かべながら、自信満々に首を縦に振る京花ちゃん。
明朗快活で素直な京花ちゃんの返事には、清々しくて爽やかというポジティブな印象が持てるんだよね。
これで年齢や社会的地位を順当に重ねた大人の人達を、今の京花ちゃんに引き合わせたら、きっと「素直な態度の取れる、感心な若者」という具合の判断を下すんだろうな。
だって、同い年の私の視点からでも、そう見えちゃうんだから。