第5章 「我ら、青春4人乙女!」
「おっしゃる通りですね、千里さん!まずは卒業式という次のステップに、私達4人で足並みを揃えて進む事ですね!」
こうした意図を察してくれたのか、私に応じる英里奈ちゃんの声は明るく朗らかで、先程までの妖しい艶かしさなど、微塵も残っていなかった。
「うん、そういう事!ちょうど電車も来た事だし、京花ちゃんとマリナちゃんを待たせたら申し訳ないからね!」
私の指差す先では、難波行きホームに入った各停電車が、我孫子前に向けて発車する所だった。
時を同じくして、私の遊撃服の内ポケットに収められたスマホが伝えてくる、メールの受信音。
私達2人の共通の親友である所のサイドテールコンビのどちらかが、このメールの発信者である事を確信しながら、私達は踏切を横断して、浅香山駅の高野線側出口に足を向けたんだ。
「いらっしゃったみたいですね、御2人とも…」
英里奈ちゃんが言うように、サイドテールが印象的な遊撃服姿の少女が2人、高野線側出口の階段を悠然と降りてくる。
「おはよう!英里奈ちゃん、千里ちゃん!2人とも、卒業おめでとう!」
そのうちの、青い髪を左側でサイドテールに結んだ少女が、明朗快活な笑顔を浮かべて、私達に手を振りながら呼び掛けてくる。
この子は枚方京花ちゃん。
正義感が強くて友情に厚く、オマケに明朗快活な主人公気質の子なんだ。
「おはよう!英里、ちさ!2人共、元気そうで何よりだよ!」
京花ちゃんの隣を歩いていた、黒い左サイドテールが特徴的な少女が、軽く右手を掲げる挨拶をしながら降りてくる。
切れ長の赤い瞳は、いささか釣り目の傾向を帯びているし、オマケに右目は長い前髪で隠されているので、氷で出来た剃刀のような第一印象を、見る者に与えてしまうだろうね。
だけど、一見すると鋭利で冷酷そうな赤い瞳の奥には、正義と友情を重んじる穏やかで温かい光が宿っている事は、彼女と親しい者にはよく知られている。
人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属、和歌浦マリナ少佐。
それが、この少女の名前だ。
「あっ、おはよう!京花ちゃん、マリナちゃん!」
「おはようございます…京花さん、マリナさん。こうして私と千里さんとで、御2人を浅香山駅で御迎え致していますと、私達のあるべき日常がようやく戻って来たという、そんな感じが致しますね…」
右手を掲げて朝の挨拶を行う私に続いて、サイドテールコンビに軽く会釈した英里奈ちゃんは、しみじみと感慨深げに呟いたんだ。
「そうだね、千里ちゃんが回復するまでの英里奈ちゃんは、凄く辛そうだったからね…うん?!」
気遣わしげな表情を浮かべる京花ちゃんは、私と英里奈ちゃんの手元に視線をやると、怪訝そうな短い呻き声を上げたんだ。
「ああ、成る程…それで英里奈ちゃんと千里ちゃんは、こうして恋人繋ぎをしちゃってるんだね!」
「ちょっと、京花ちゃん!そんな風にニヤニヤしながら言わないでよ!」
私でさえ、直接口には出さなかったというのに、京花ちゃんったらストレートに言っちゃうんだから、本当に困っちゃうよね。
「まあ…京花さんったら、恋人だなんて…」
「えっ…?英里奈ちゃん?!」
英里奈ちゃんったら、どうしてそんな風に、満更でもなさそうな顔をしちゃうのかな?
オマケに、また頬を紅潮させちゃってるし…
「しかし、久々に同じ通学路を歩む英里の事を憎からず思うからこそ、ちさは英里と手を繋いだままで、ここまで来たんだろ?」
何とも痛い所をピンポイントで突いてくるよね、マリナちゃんも。
私としては、異論なんて挟めないよ。
だって、その点に関しては間違いないんだから。
「そりゃ…まあ、そうだけどね…」
マリナちゃんの問い掛けに対して、口ごもりながらも泣く泣く肯定した私。
そんな私を見る京花ちゃんの顔には、勝ち誇ったかのような笑いが浮かんでいたんだよね。
「良かったじゃない、千里ちゃん。英里奈ちゃんの御実家は華族の名家だから、千里ちゃんったら玉の輿だよ!」
あの、京花ちゃん…
笑いながら、私の右脇腹の辺りに軽い肘鉄を打ち込んでくるの、そろそろ止めてくれないかな?
痛くはないんだけど、さすがにそろそろウザったくなってきたよ。
「ちょっと、京花ちゃん…!玉の輿って…」
まるで、私と英里奈ちゃんが結婚するかのような言い草だね。
「その場合、私は跡取りですから、千里さんには私の実家に嫁いで頂く事になりますね。」
当事者の片方だというのに、英里奈ちゃんったら大胆な発言をするよね。
恋人繋ぎをした手を未だに離してくれてないから、色々と洒落にならないよ。
「ちょっと待ってよ…!英里奈ちゃんまで、そんな事…」
そんな上品に微笑みながら、言わないで欲しいんだけどな。
英里奈ちゃんが冗談なのか本気なのか、いよいよ分からなくなってきたよ。
「へえ…じゃあ、そうなったら千里ちゃんは、『生駒千里』になる訳だね!よく似合ってるよ、生駒千里准佐!」
完全な悪ノリだね、京花ちゃん。