第3章 「ドキドキ?親友同士の恋人繋ぎ」
「ありがとう、英里奈ちゃん…そう言って貰えると、本当に心強いよ!」
私ったら、わざとらしいまでに明るく振る舞っちゃったの。
これも、柄にもなくシリアスになった照れ隠しかな…?
「よし!まずは浅香山駅でマリナちゃんや京花ちゃんと合流して、4人一緒に卒業式のステップに進もうかな?」
「ち…千里さん…」
そんな私の示した感謝の意に、そっと右手を差し出す事で、英里奈ちゃんは応じてくれたんだ。
「ん?どうしたのかな、英里奈ちゃん?」
「あっ、あの…せっかくですから…!その…私と、御手を御繋ぎになっては…頂けないでしょうか?」
英里奈ちゃんの白くて華奢な右手は、手首の辺りでクルリと反転したの。
要するに、私の方へと掌を向けたんだね。
そうして反転させた右手を、私の左手に触れるか触れないかギリギリの位置にまで、英里奈ちゃんは近づけてきたんだ。
「えっ…?」
戸惑いの声を上げようとした私は、思わず息を呑んじゃったの。
私を見つめる英里奈ちゃんの幼い美貌は、ほんの少しだけ紅潮していたんだ。
「英里奈ちゃん…?」
白い頬が僅かにピンク色に色付いている様子は、その美貌が幼さを多分に残しているだけに、かえって艶かしい。
特命遊撃士養成コースに編入した小6の頃からの、一番の親友。
私の中では、英里奈ちゃんはそのような位置付けだったの。
無邪気にも、今の今までね。
そんな少女が見せた意外な艶かしさに、私は思わず戸惑ってしまったね。
ううん…!
私が戸惑っていたのは、英里奈ちゃんに対してだけではなかったの。
英里奈ちゃんを見つめる私自身の視線にも、それまでとは異なる意味合いがある事に気付いて、そこに戸惑いを感じてしまったんだよね。
日々の丹念な手入れを伺わせる、腰まで伸ばされた癖のない茶髪。
内気な気弱さを凝縮したような、細い茶色の柳眉。
エメラルドを思わせる、円らで大きな緑色の瞳。
幼くも上品な美貌を包む、きめ細やかな白い柔肌。
英里奈ちゃんの持つこれらの特徴を、ここまで注意深く観察した事って、今までなかったと思うの。
そして、それらの特徴をバランスよく兼ね備えた英里奈ちゃんの事を、改めて「綺麗だな…」って思っちゃったんだよね。
全く…私ったら一体全体、どうしちゃったのかな。
そんな私の戸惑いを知ってか知らずか、英里奈ちゃんは意を決したかのように重い口を開いたんだ。
「この通学路を千里さんと御一緒に行き来するのは、私にとっては、随分と御無沙汰です…あの日以来、ずっと1人だけの通学路でした…」
「アポカリプスとの戦いで、私が昏睡状態になってからだね…?」
私に無言で頷く英里奈ちゃんの瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。
「それに…『中学生としては』、今日が最後の機会になってしまうのです…ですから、千里さん…」
「つまり、『記念』って事かな…?うん、分かったよ…」
そう言うが早いか、左手を伸ばした私は、差し出された英里奈ちゃんの右手を静かに握ったの。
小さく華奢な掌からジンワリと伝わる、英里奈ちゃんの体温。
それはまるで、南海高野線浅香山駅に向かう道を吹き抜ける春風を思わせる、穏やかな温もりだったんだ。
「ち…千里さん…!」
英里奈ちゃんが小さく声を上げると、掌から伝わる温もりもまた、その温度を少しだけ上げたように感じられたの。
歩みを進めながらよく見てみると、先程よりも英里奈ちゃんの顔の赤みが増しているな。
考えてみれば、今の私達の手の繋ぎ方は、俗に言う「恋人繋ぎ」だからね。
それに気が付いた瞬間、何だか私の方も照れ臭くなってきちゃったなぁ…
まあ、今日は晴れの卒業式なんだから、少々浮ついた態度を取っていても問題ないよね。




