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プロローグ第1章 「特別警戒体制!特定外来生物逃走中!」

 これより展開するプロローグ編は、「堺県おとめ戦記譚~特命遊撃士チサト~」の現在の時間軸となっています。

 時期としては、元化25年5月下旬から6月初頭位を想定しています。

 堺県堺市西区浜寺公園町2丁目、浜寺公園。

 明治時代の殖産興業政策による工業化で環境の悪化した市街地から逃れるようにして形成された、風光明媚な別荘地の面影が色濃く残る高級住宅街から程近い、県営の都市公園。

 そんな浜寺公園は、「南近畿みどりの百選」に選定される豊かな森林やバラ庭園を擁しているので、日中においては堺県民に癒やしと安らぎを提供するオアシスとしての役割を果たしているんだ。

 夏期にはプールだって営業しているし、園内に設けられた交通遊園にはゴーカートやミニSLまであるんだから、犬の散歩やジョギング目的で訪れる大人だけじゃなく、御子様達も充分に満足出来るのが良い所だよね。

 もっとも、もうじき時計の針が18時半を指そうとする今となっては、緑豊かな森林というのは、そんなに歓迎出来ないんだけど。


 桜を始めとする広葉樹が鬱蒼と生い茂った並木のせいで、それほど遅い時間ではないのにも関わらず、まるで既に夜の帳が下りたかのように園内は薄暗い。

 並木の合間には電球型LEDライトの収まった街灯が並んでいるものの、暗闇が誘発する緊張感と心細さを完全払拭するまでには至っていなかった。

 それは何故なのだろう。

 白いLEDライトの灯りが、周囲の暗闇を反って強調してしまうからなのか。

 或いは、暗闇に潜む猛獣の襲撃に怯えていた人間の原始の本能が、そう感じさせてしまうからなのか。

 本能的恐怖という訳ではないものの、こうして私達が夜の公園に予断なく目を光らせている現状としては、後者の方が適切なのかも知れなかった。

 何故なら…


「あっ、あの…またしても特定外来生物だなんて…恐ろしい話ですね…」

 そんな私の思考を遮ったのは、親友にして上官でもある生駒英里奈(いこまえりな)少佐が放つ、気弱そうなソプラノボイスだった。

 個人兵装であるレーザーランスのエネルギースフィアに赤く照らされた、幼くも上品な白皙(はくせき)の美貌には、不安そうな影が降りている。

 腰まで伸ばされた癖の無いストレートヘアーは、昼間なら淡いライトブラウンに見えるだろうね。

「全くだよ、英里奈ちゃん…4月にはチュパカブラが大浜大劇場で暴れて大騒ぎになったばかりだってのに、また貨物船に紛れ込んでいたなんてさ…ホント、勘弁して欲しいよね!」

 私こと、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属する准佐階級の特命遊撃士である吹田千里(すいたちさと)は、ツインテールに分けた黒い長髪を揺らしながら、直属の上官にして最愛の親友の意見に同調した。

 もっとも、こんな薄暗がりの中だったら、英里奈ちゃんのライトブラウンのロングヘアーも、私の黒いツインテールも、一般人の目には同じような色合いに見えているんだろうな。

 特殊能力「サイフォース」に覚醒していなければ、生体強化ナノマシンによる改造手術を受けてもいない、極普通の一般人の目にはね。


 これに応じたのは、私や英里奈ちゃんと同様に、目映い純白の遊撃服に身を包んだ、明るい童顔が印象的な青髪の少女だった。

「税関の人達には、より一層の水際対策に御尽力頂きたいんだよな。この私に言わせればだけどね!」

 彼女の名は、枚方京花(ひらかたきょうか)

 人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属する少佐階級の特命遊撃士にして、御子柴1B三剣聖の一角を担うレーサーブレードの使い手だ。

 そして私にとって、かけがえの無い親友の1人でもある。

「全く…非常線維持も楽じゃないよ!」

 青髪の少女は大儀そうに呟くと、ストレッチとばかりに軽く伸びをした。

「んっ…イヨッと!」

 そうして軽く背中を弓形(ゆみなり)に反らせていると、遊撃服で覆われた京花ちゃんのプロポーションが、如実に見て取れるよ。

 殊更にグラマラスでもないし、アスリート体型という訳でもないけれど、筋肉と脂肪がバランス良く配分された、年相応に健康的な体型だね。

「ふう…ヤレヤレ!」

 白い細首をクリッと1回転させると、その動きに合わせるようにして、左側頭部でサイドテールに結い上げた青髪がダイナミックに宙を舞った。

「あっ…!」

 思わず間抜けな声を出しちゃった私だけど、点在するLEDライトの街灯だけが頼りな夜の公園で、その青と白のコントラストは、意外なまでに鮮やかで、また妙に艶かしく浮き上がって見えたんだ。

「き…京花さん…」

 どうやら、私だけじゃないみたいだね。

 明朗快活な同輩が見せた、意外な色香に驚いているのは。

 英里奈ちゃんの幼くも上品な美貌が、ほんの僅かだけど赤みを帯びているのは、「レーザーランスのエネルギースフィアに照らされているから」っていう理由だけじゃなさそうだよ。


 いささか背徳的なムードに浸っていた私と英里奈ちゃんの意識を現実に引き戻したのは、呆れ半分に(たしな)めるアルトソプラノの声と、赤く輝く切れ長の右目から注がれる冷めた視線だった。

「おいおい、お京…何を『一仕事終えた』みたいな空気出してんだよ!」

「あっ…マリナちゃん?」

「何が『あっ…マリナちゃん?』だよ、お京。脱走した馬頭怪人は、未だに見つかっていないんだから。」

 声の主である遊撃服姿の少女は、声色と同様の呆れた表情を、そのクールな美貌に浮かべていた。

 もっとも、「氷のカミソリ」に例えられる鋭い美貌のうち右半分は、長く伸ばした前髪で覆われているのだけれど。

「それに、まるで当事者みたいな言い(ぐさ)だけど、お京は不参加だったろ?例の『吸血チュパカブラ駆除作戦』にはさ…」

「手厳しいなぁ…それを言っちゃオシマイだよ、マリナちゃん!」

 手持ち無沙汰で始めたストレッチを中断した京花ちゃんは、小5の養成コース以来の付き合いである所の少女に向き直ると、軽く肩をすくめるのだった。

 左サイドテールの京花ちゃんと対になるかのように、クールな美貌が印象的な少女の黒髪は、右側頭部で結い上げられていた。

 右目を覆い隠す程の長い前髪に、右サイドテール。

 やたらと右半身に特徴が偏った彼女の名は、和歌浦(わかうら)マリナ。

 英里奈ちゃんや京花ちゃんと同様に、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属する、少佐階級の特命遊撃士だ。

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[一言] 美少女と光のコントラスト……確かに、魅せるね!
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