09.少女との食事
翌日、ほとんど夜明けと同時に俺はクレールに起こされた。
「お食事をお持ちしました。どうぞ召し上がりください」
そういって差し出してきたのは、石ころみたいに堅い黒パンと、ほとんど具が入っていないスープだった。
はっきり言って、どっちもひどい味だった。
でも、文句を言ったら罰が当たる。我慢して食べるしかない。
クレールは横に座ってじっと俺の食事を見守っていたけど、ふいに、ぐう~っという音がした。
「し、失礼しました!」
顔を真っ赤にしてクレールが謝る。腹が鳴ったらしい。
「……もしかして、この食事はクレールの分じゃないのか?」
「いえ、違います。私は先にいただかせてもらいました」
「嘘はつかないでくれ。本当は何も口にしていないんだろ?」
「……はい。申し訳ありません、本当でしたらもう少しまともな料理をご用意したかったのですが、私の粗末な食事以外、手に入れる方法が見つかりませんで……」
「そんな、謝らないでくれよ。こうして食事を用意してくれただけで十分だから」
「お優しい言葉、ありがとうございます!」
クレールはいちいち感激する。やりにくいなあ。
「だけど、これを俺が食べるのは、クレールの食事を横取りするみたいで悪いよ。残りはクレールが食べてくれ」
「そんな、まだスープを少し飲まれただけじゃありませんか。どうぞ遠慮無く召し上がってください」
クレールは頑なに拒んだ。
「……だったら、半分ずつ食べよう。それならいいだろ?」
俺はパンを半分にちぎり、クレールに差し出した。
「でも、私は……」
「これが食べられないっていうなら、俺も食べないぞ」
「わ、分かりました。すみません、いただかせてもらいます」
クレールはパンを受け取った。
遠慮はしていたけど、本当はひどくお腹が減っていたんだろう。クレールはあっという間にパンを食べてしまった。
「ほら、残りのスープも飲めよ」
「ありがとうございます。では、遠慮無く……」
クレールは美味しそうにスープを飲んだ。変な脂が浮いたしょっぱいだけのスープで、俺なんて吐き気をこらえてたくらいなのに。
半分ほどスープを飲んだところで、クレールはふいに手を止めてうつむいた。
その顔を覗き込んでみると、ぽろぽろ大粒の涙をこぼしていた。
「ど、どうしたんだ?」
「すみません、エリック様があんまりお優しいもので、つい胸がいっぱいになってしまって……」
クレールは恥じらいながら涙を拭う。
「……なあ、どうしてそんなに俺に尽くしてくれるんだ? 確かに以前は、俺はお前の主人だったかもしれない。でも、今は何の関係もないんだ。それどころか、お前のやっかいな荷物になってるだけだっていうのに」
俺はそう尋ねずにはいられなかった。