表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
4/62

04.救いを求めて

 しばらくすると、どこからか川の流れる音が聞こえてきた。

 やった、水が飲める!

 音の聞こえる方向に進むうち、林が開けて川岸に出た。

 幅三メートルくらいの小川だ。

 俺は岸に膝をつくと、川の水をすくってごくごく飲んだ。

 美味い。こんなに美味い水を飲んだのは初めてだ。

 調子に乗ってどんどん飲むうちに、突然腹に激痛が走った。

 冷たい生水を腹一杯飲んだせいだろうか、あまりの痛さに俺はのたうち回った。

 飲んだばかりの水をげえげえ吐く。

 どうにか痛みが治まってきた頃には、俺は本当に衰弱しきっていた。

 横たわったまま起き上がる気力もない。

 大体、起き上がったところでどこに行くって当てもないんだからな。

 もしこのまま死んだらどうなるんだろう。

 図書館でぱっと目を覚まして、あれは悪い夢だったのか、ってほっとできたらいいんだけど。

 でも、この体の痛みも苦しむもあんまりリアル過ぎて、そんな夢オチみたいな展開になってくれるとは思えなかった。

 こんな場所で惨めに死んで終わり。そんなのは嫌だ。

 俺は懸命に助かる方法を考えた。

 これがあの本の中の世界なら、三章まで読み進めた俺にはかなりの知識がある。それを活かせないだろうか。

 しばらく考えて、一つだけ助けを求められそうな場所を思いついた。

 モンペール領を簒奪した悪党たちは、盗賊や流れ者の集団だったわけじゃない。

 一応は城主と遠い血縁関係にある貧乏貴族だった。

 一族の娘が城主の目にとまり、側室として迎えられたのをきっかけに欲が出て、領地をまるまる乗っ取ろうと企んだんだ。

 話の中の描写によれば、その貧乏貴族であるダンビエール家にも一応は領地らしきものがあって、家来や使用人なんかも抱えていた。

 主人公に退治された後、ダンビエール家は断絶したけど、農民の中には昔の領主に忠誠心を残してるやつがいるかもしれない。

 俺はじっと目をこらして辺りを観察した。

 月明かりの下、向こうの方に橋が架かっているのが見える。

 たぶん、この川はモンペールの東の端を流れるサノワ川だ。

 あの橋を渡ってしばらく東の方に歩けば、森のすぐ手前にダンビエール家の農園があるはずだった。

 どうか俺を助けてくれる人が見つかりますように。

 必死でそう願いながら、俺は一歩一歩進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ