04.救いを求めて
しばらくすると、どこからか川の流れる音が聞こえてきた。
やった、水が飲める!
音の聞こえる方向に進むうち、林が開けて川岸に出た。
幅三メートルくらいの小川だ。
俺は岸に膝をつくと、川の水をすくってごくごく飲んだ。
美味い。こんなに美味い水を飲んだのは初めてだ。
調子に乗ってどんどん飲むうちに、突然腹に激痛が走った。
冷たい生水を腹一杯飲んだせいだろうか、あまりの痛さに俺はのたうち回った。
飲んだばかりの水をげえげえ吐く。
どうにか痛みが治まってきた頃には、俺は本当に衰弱しきっていた。
横たわったまま起き上がる気力もない。
大体、起き上がったところでどこに行くって当てもないんだからな。
もしこのまま死んだらどうなるんだろう。
図書館でぱっと目を覚まして、あれは悪い夢だったのか、ってほっとできたらいいんだけど。
でも、この体の痛みも苦しむもあんまりリアル過ぎて、そんな夢オチみたいな展開になってくれるとは思えなかった。
こんな場所で惨めに死んで終わり。そんなのは嫌だ。
俺は懸命に助かる方法を考えた。
これがあの本の中の世界なら、三章まで読み進めた俺にはかなりの知識がある。それを活かせないだろうか。
しばらく考えて、一つだけ助けを求められそうな場所を思いついた。
モンペール領を簒奪した悪党たちは、盗賊や流れ者の集団だったわけじゃない。
一応は城主と遠い血縁関係にある貧乏貴族だった。
一族の娘が城主の目にとまり、側室として迎えられたのをきっかけに欲が出て、領地をまるまる乗っ取ろうと企んだんだ。
話の中の描写によれば、その貧乏貴族であるダンビエール家にも一応は領地らしきものがあって、家来や使用人なんかも抱えていた。
主人公に退治された後、ダンビエール家は断絶したけど、農民の中には昔の領主に忠誠心を残してるやつがいるかもしれない。
俺はじっと目をこらして辺りを観察した。
月明かりの下、向こうの方に橋が架かっているのが見える。
たぶん、この川はモンペールの東の端を流れるサノワ川だ。
あの橋を渡ってしばらく東の方に歩けば、森のすぐ手前にダンビエール家の農園があるはずだった。
どうか俺を助けてくれる人が見つかりますように。
必死でそう願いながら、俺は一歩一歩進み始めた。