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無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
3/62

03.小悪党

 腰や膝が痛くてまともに歩けない。俺はほとんど這うようにして進んだ。

 まるで死にかけの哀れな虫になった気分だった。

 どれくらい地面を這い続けたか、そのうち息が上がってきた。疲れで手足も動かなくなる。

 ダメだ、もう限界だ。

 俺は倒れた木の下に潜り込むと、仰向けに寝ころんだ。

 ここに隠れてやつらが見逃してくれることを願うしかない。

 それにしても、もし俺が本当にエリック=ダンビエールになってしまったんなら、あいつらに憎まれ、命を狙われるのも当然だった。

 俺は例の本を三章の終わりくらいまで読んでいたけど、エリックはその途中に出てくる、本当にどうしようもない小悪党だった。

 主人公の勇者がモンペールって土地を訪れたときに、領主が毒殺されて城を乗っ取られ、領民たちは新しい領主の過酷な支配に苦しめられてることを知る。

 結局、城を乗っ取った悪党たちは勇者によって退治されるんだけど、エリックはその悪党たちの一味だった。

 腐りきった性格で、あれこれ理由を作っては領民を痛めつけ、苦しむ様子を見ては喜ぶ変態のサディストだ。

 勇者が悪党を退治したとき、殺すにも値しないって理由で追放されるんだけど、どうしてこいつも始末しないんだよ、って読んでた俺は不満に思ったくらいだった。

 たぶん、俺を追ってるあの大男も、自分や家族がエリックによってひどく苦しめられたんだと思う。

 俺のせいじゃないけど、あいつが俺を憎む気持ちもよーく分かる。なんだか複雑な気分だ。

 どうせ本の世界に放り込まれるんなら、せめて勇者かその仲間にしてくれたら良かったのに。逆に、世界を支配しようとする魔王でもいい。

 なんでまたこんな中途半端な小悪党になっちまったんだ。

 ため息を吐いてもどうにもならない。

 幸い、俺は大男たちに見つからずに済んだ。連中はすぐ近くを通りかかったけど、俺がじっと息を潜めてると、倒木の下を覗き込むこともなく去っていった。

 すっかり日が暮れて林の中が真っ暗になり、遠くで連中が探し回っている気配も消えた。

 こうなると、俺はまた飢えと乾きに苦しめられだした。

 隠れ場所から出て行くのは恐いけど、このままじっとしてても衰弱死してしまいそうだ。

 俺は思いきって倒木の下から這い出て、痛む腰をかばいながらのろのろ歩き出した。


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