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無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
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02.その男の名

「ちょ、ちょっと待ってください。あなた人違いしてますって」

 

 俺は震え上がって必死に言ったけど、大男はもう聞いちゃいなかった。


「いいだろう、俺がここで貴様の両足を叩き斬って、遠くの山へ捨ててきてやる。そうすれば貴様も二度とこの土地に戻ってこれんだろう」

 

 大男は斧を両手で構えると、ずんずん俺に迫ってきた。

 うわ、ダメだ。話し合いが通じる相手じゃない。このままじゃ本当に両足を切り落とされる!

 俺は身を翻すと必死に逃げ出した。

 恐怖で膝ががくがく震え、何度も転んで地面に顔を突っ込んだ。

 頭から泥だらけになったけど気にしてる暇はない。

 すぐ後ろに大男が迫ってくる音がする。

 このまま道を走ってたんじゃいずれ追いつかれる。

 俺はやぶれかぶれで右側の藪の中に突っ込んだ。

 そのとたん、足が宙をかいた。

 まずい、藪の向こうは切り立った崖になってたんだ。

 ふわりと落下していく感覚に、俺の意識は遠のいた。

 ああ、まさかこんなわけのわからない形で俺は死んじまうのか?

 次の瞬間、俺は背中に衝撃を受けた。

 もう一度ふわりと体が浮き上がる感覚がして、次に地面に叩き付けられる。

 背中を強く打って、息が止まった。

 必死にばたばたもがいていると、どうにか肺に空気を送り込める。

 大の字に寝転がったまま頭上を見ると、厚く葉を茂らせた木の枝が大きく揺れているのが見えた。

 あそこに落ちたせいでクッションになって、死なずに済んだのか。地面がぬかるんで柔らかくなっていたおかげもあるらしい。

 体中に激痛が走ってたけど、致命的な怪我は負ってないみたいだ。

 そのとき、頭上から大男の声が聞こえてきた。


「おーい、みんな、こっちへ来てくれ! やつが現れた! あのエリック=ダンビエールが戻ってきやがった!」

 

 それを聞いて俺はぎくりとした。

 その名前には聞き覚えがある。だけど、どうして俺がそう呼ばれるんだ?

 まさか、いや、そんな。

 エリック=ダンビエールというのは、俺が図書館で読んでいた本の登場人物だった。

 俺は信じられない思いで、恐る恐る自分の顔を指先で探った。

 その感触は、明らかに自分の顔とは違ってた。

 俺の鼻はこんなに高く無いし、俺の顎はこんなにがっしりしてない。


「やつはあの辺りに落ちた。探し出して捕まえろ。抵抗するならその場で殺しても構わん」

 

 また大男の声がした。集まった仲間たちに指示してるみたいだ。

 ここで寝転がってたんじゃ、すぐに捕まるだろう。

 俺はまだ混乱してて、この状況を受け入れられてなかったけど、ともかくこの場から逃げ出すことにした。


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