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無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
18/62

18.クレールの選択

「お城から暇を出された後、頼る相手もなく、飢えで倒れそうになりましたので、この身を売るしかなかったんです」

「そうか……」


 俺はしばらく迷ってから、腹を決めてクレールを見た。


「……なあ、やっぱり俺はここを出て行こうと思うんだ。いつまでも納屋に隠れているのは不自由だし、危険すぎるからな」

「……はい」


 クレールは覚悟していたように頷き、うつむいた。


「それで、もしよかったらなんだが……お前も一緒に来ないか?」

「よろしいんですか!?」


 クレールは目を輝かせて言ったけど、すぐに表情を曇らせる。


「でも、いけません。そんなことをすれば、エリック様が罪に問われます」

「そんなこと、今更気にしても仕方がない。もう今の時点で俺はお尋ね者も同然なんだから。逆にクレールの方こそ、脱走した奴隷は厳しい罰を受けるってことを忘れないでくれよ」

「エリック様とご一緒できるなら、どんなことでも平気です」

「念のため言っておくが、領地を追われた俺に行く当てがあるわけじゃない。待っているのは罪人として追われる逃亡生活だ。お前を幸せにしてやると約束もできない。……それでもいいんだな?」

「はい!」


 クレールの瞳に不安の翳りはなく、ただ希望の光だけがあった。


「……よし、それじゃあ、ここを出る支度をしてくれ。真夜中にみんなが寝静まったら出発だ」


 俺は旅道具や保存食を買い込むための金をクレールに渡した。

 クレールが出て行った後、俺は落ち着かない気分で夜が更けるのを待った。

 本当にクレールを連れて行っていいんだろうか。

 あっという間に追っ手に捕まって、クレールがひどい目にあわされたりしないだろうか。

 強い不安が俺を襲う。

 だけど、昨夜の一稼ぎで俺には自信もついていた。

 この世界についての知識は、使いようによっては強力な武器となることが証明されたんだ。

 きっと何とかなるはずさ。俺は楽天的に考えることにした。


 深夜になっても、クレールはなかなか現れなかった。

 俺はじりじりしながら、何度も壁の隙間を覗いて母屋の様子を確かめた。

 あまりに出発が遅れると、すぐに夜が明けて、遠くへ逃れる前に脱走が発覚してしまうだろう。

 俺の不安と焦りが頂点まで達した頃、ふいに母屋の窓にぱっと明かりが灯るのが見えた。

 ざわざわと人声も聞こえ始める。

 何があったんだ? まさか脱走が見つかってクレールが捕まったのか?

 俺は食い入るように母屋を見つめた。

 窓に慌ただしく動き回る人影が映る。

 どうしよう、こうなったら一人で逃げようか。今すぐ納屋を抜け出せば、見つからずに済むかもしれない。

 ……いや、やっぱりダメだ。クレールを見捨てるなんてできない。

 どうにかして助け出すチャンスを探さないと。

 そのとき、母屋の裏口が開き、男が一人出てきた。

 まっすぐにこの納屋に向かって走ってくる。

 まずい、ここで見つかるわけにはいかない。

 俺は急いで農具の陰に身を潜めた。

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