18.クレールの選択
「お城から暇を出された後、頼る相手もなく、飢えで倒れそうになりましたので、この身を売るしかなかったんです」
「そうか……」
俺はしばらく迷ってから、腹を決めてクレールを見た。
「……なあ、やっぱり俺はここを出て行こうと思うんだ。いつまでも納屋に隠れているのは不自由だし、危険すぎるからな」
「……はい」
クレールは覚悟していたように頷き、うつむいた。
「それで、もしよかったらなんだが……お前も一緒に来ないか?」
「よろしいんですか!?」
クレールは目を輝かせて言ったけど、すぐに表情を曇らせる。
「でも、いけません。そんなことをすれば、エリック様が罪に問われます」
「そんなこと、今更気にしても仕方がない。もう今の時点で俺はお尋ね者も同然なんだから。逆にクレールの方こそ、脱走した奴隷は厳しい罰を受けるってことを忘れないでくれよ」
「エリック様とご一緒できるなら、どんなことでも平気です」
「念のため言っておくが、領地を追われた俺に行く当てがあるわけじゃない。待っているのは罪人として追われる逃亡生活だ。お前を幸せにしてやると約束もできない。……それでもいいんだな?」
「はい!」
クレールの瞳に不安の翳りはなく、ただ希望の光だけがあった。
「……よし、それじゃあ、ここを出る支度をしてくれ。真夜中にみんなが寝静まったら出発だ」
俺は旅道具や保存食を買い込むための金をクレールに渡した。
クレールが出て行った後、俺は落ち着かない気分で夜が更けるのを待った。
本当にクレールを連れて行っていいんだろうか。
あっという間に追っ手に捕まって、クレールがひどい目にあわされたりしないだろうか。
強い不安が俺を襲う。
だけど、昨夜の一稼ぎで俺には自信もついていた。
この世界についての知識は、使いようによっては強力な武器となることが証明されたんだ。
きっと何とかなるはずさ。俺は楽天的に考えることにした。
深夜になっても、クレールはなかなか現れなかった。
俺はじりじりしながら、何度も壁の隙間を覗いて母屋の様子を確かめた。
あまりに出発が遅れると、すぐに夜が明けて、遠くへ逃れる前に脱走が発覚してしまうだろう。
俺の不安と焦りが頂点まで達した頃、ふいに母屋の窓にぱっと明かりが灯るのが見えた。
ざわざわと人声も聞こえ始める。
何があったんだ? まさか脱走が見つかってクレールが捕まったのか?
俺は食い入るように母屋を見つめた。
窓に慌ただしく動き回る人影が映る。
どうしよう、こうなったら一人で逃げようか。今すぐ納屋を抜け出せば、見つからずに済むかもしれない。
……いや、やっぱりダメだ。クレールを見捨てるなんてできない。
どうにかして助け出すチャンスを探さないと。
そのとき、母屋の裏口が開き、男が一人出てきた。
まっすぐにこの納屋に向かって走ってくる。
まずい、ここで見つかるわけにはいかない。
俺は急いで農具の陰に身を潜めた。