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無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
15/62

15.開錠の言葉

 「……リセール・リテル・ディヴェル」


 確か、この言葉で合ってるはずだ。息を呑んで反応を待つ。

 もし間違っていたら、俺はすごすごと帰るしかない。

 少し間を置いて、ふっと青い光が消えた。やった、解除できたみたいだ。

 俺はおそるおそるドアノブに手を伸ばし、指先でちょんとつついてみた。

 よし、大丈夫。

 慎重にドアを開けて、そっと中に滑り込む。

 俺はもう一度記憶を探って、屋敷の構造を確認した。

 主人の執務室は三階にあるはずだ。

 廊下のところどころにランプが設置されていて、辺りをぼんやり照らしていた。

 俺は階段を上り、迷路のように伸びる廊下を進んでいく。

 魔法の力に守られることで安心しきってるのか、警備の者さえ置いてないみたいだった。

 ときどき夜なべ仕事でもしているらしい使用人の気配がしたから、そういうときは廊下を遠回りする。

 建物中をたっぷり歩き回り、どうにか執務室を見つけた。

 部屋には贅沢な家具が置かれ、壁には書棚が並んでいる。

 そして、窓際には特に隠す様子もなく大きな金庫が据えられていた。

 金庫は裏口のドアと同じように、ほんのりと青い光に包まれている。

 俺は金庫の前に屈み込み、先ほどと同じ秘密の言葉を唱えた。

 これが俺の元の世界なら、アカウントごとにパスワードを変えろと注意されるとこだろうけど、こっちじゃそこまで面倒な手続きをする必要もない。

 金庫の青い光は消えた。やったぜ。

 俺は意気揚々と扉を開けようとした。

 その瞬間、何かがパチンと弾けるような感覚があった。

 うお、解除を失敗したのか?

 俺はぎくりとしたけど、しばらく待っても何も起きなかった。

 ……気のせい、だったのか?

 とにかく、金庫の中身を調べよう。

 金庫の中にはコインや貴金属、宝石なんかがたっぷり入っていた。

 他にも重要そうな書類なんかも入ってたけど、もちろんそんなものに用はない。

 俺はしばらく中身を漁って、ベルカーン金貨だけを持ち去ることにした。

 貴金属や宝石を金に換えようとすれば、闇商人にでも持ち込むしかないが、俺にそんなツテはない。

 コインにしたって、この世界ではエリアによって流通しているものがまちまちで、他の領地に行けば全く使えないものさえある。

 その点、ベルカーン金貨はこの国の王室が鋳造してるだけあって、どこへ持っていっても価値は揺るがないそうだ。物語の中で新城主からテオドールに礼として送られたのもベルカーン金貨だった。

 ちなみに金貨一枚あれば、四人家族の庶民が半年は食べていけるらしい。

 俺はそのベルカーン金貨をあるだけ集めて、持ってきた革袋に詰めた。五、六十枚くらいはあるかな。

 革袋はずっしりと重く、両手で抱えなきゃならなかった。

 だけど、この金貨さえあれば、クレールにどんな贅沢でもさせてやれるんだ。そう思うと、重さなんて苦にならない。

 それから、最後にもう一つ嬉しいものを見つけた。

 治癒の魔法が封じ込められた魔法石だ。

 これを手に握ることで、誰でも一度だけ魔法を使うことができるんだ。呪文は魔法石の入った小袋に直接書き留められている。

 よし、これで目的は果たした。さっさと逃げよう。

 革袋を肩に担いで俺が立ち上がった瞬間だった。

 背後でドアが開く音がした。

 しまった!

 慌てて振り返ると、そこには寝間着姿の中年男が立っていた。


「そこにいるのは誰だ⁉」

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