14.城下への侵入
俺は夜の闇に包まれる街道を西に向かって進んでいた。
目指す先は城下町だ。
納屋で見つけたぶかぶかのブーツを履き、ボロ布をマント代わりに巻いている。
それと、モンスターに遭遇したときに備えて、錆びた鉈も持ち出してきた。
こんなもんじゃ大ネズミにも勝てそうにないけど。
この辺りはモンスターがあまり出没しないとはいえ、やはり夜の野外が危険なのは間違いない。こんな時間に街道を歩いているのは俺くらいだったから、誰かに見つかる心配はなかった。
やがて前方の闇の中に光が見えてきた。城下町だ。
城下町は高さ五メートルくらいの城壁に囲まれている。入り口は三つあった。
正門には衛兵の詰め所があって、城下町へ出入りする人間をチェックしていた。
他の二つの門は、ふだんは閉鎖されている。
俺は閉鎖された裏門の一つに向かった。
巨大な門扉は俺一人じゃどうやったって開けられない。
だけど、その近くに城下町に通じる地下排水溝の入り口があった。
主人公のテオドール一行が初めてこの城下町を訪れたとき、当時は城を乗っ取っていたダンビエールの一族から入城を拒まれたから、この排水溝を通って中へ侵入したんだ。
俺は雑草に覆われた排水溝の入り口を見つけると、中へ入っていった。
うぅ、臭い。何でも垂れ流す排水溝だけあって、とんでもない悪臭だ。
小説で描写される分にはさらっと読み流せばいいけど、実際に自分で経験するとなるときつい。
俺はボロ布で口元を押さえながら奥へ進んだ。
排水溝の途中には鉄製の格子があって、侵入者を防いでいた。
だけど、テオドールたちがここから侵入するとき、ミノタウロスの血を受け継ぐ狂戦士が力ずくでねじ曲げ、人が通れるだけの隙間を作っていた。
それを後で直したという描写もなかったはずだ。
鉄格子まで辿り着くと、思った通り隙間は空いたままだった。
俺は難なく城下町へと侵入できた。
排水溝を抜けて地上へ出ると、作中の描写を思い出しながら頭の中に地図を描いた。
ランタンの灯りを消し、月明かりだけを頼りに細い路地を進んでいく。
俺が目指しているのは、城下町でも一、二を争う富豪の屋敷だった。テオドール一行がモンペールに滞在中、ずっと泊めてもらっていた場所だ。
町の住人はみんな寝静まっていたけど、ときどき衛兵が巡回するのに出くわした。
俺は急いで物陰に隠れ、衛兵たちをやり過ごした。
ダンビエール一族が追放されて以来、モンペール領はずっと平和が続いているから、やつらもすっかりたるんでるみたいだ。
無事に目的の屋敷に辿り着くと、低い塀を乗り越えて建物に近づいた。
この屋敷は、城下町のどの富豪の住居よりも警護が薄かった。
といって無防備なわけじゃない。私兵や用心棒を何十人も雇わなくても、魔法の力が屋敷を守ってくれているからだ。
テオドールたちが滞在したときに、パーティーの賢者がそういう仕掛けを作っておいたんだ。
裏口のドアの前に立つ。
よく見ると、ドア全体がほんのり青く光っている。
もしうかつにドアノブでも握ろうものなら、たちまち電撃が走り、死なないまでも一週間は起き上がれないくらいのダメージを受けることになるんだ。
だが、俺はこの魔法を解除する秘密の言葉を知っていた。
テオドールたちとこの屋敷の主人の他には、俺しか知らない言葉だ。