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無能力者の異世界英雄譚  作者: わかば あき
第一章
14/62

14.城下への侵入

 俺は夜の闇に包まれる街道を西に向かって進んでいた。

 目指す先は城下町だ。

 納屋で見つけたぶかぶかのブーツを履き、ボロ布をマント代わりに巻いている。

 それと、モンスターに遭遇したときに備えて、錆びた鉈も持ち出してきた。

 こんなもんじゃ大ネズミにも勝てそうにないけど。

 この辺りはモンスターがあまり出没しないとはいえ、やはり夜の野外が危険なのは間違いない。こんな時間に街道を歩いているのは俺くらいだったから、誰かに見つかる心配はなかった。

 やがて前方の闇の中に光が見えてきた。城下町だ。

 城下町は高さ五メートルくらいの城壁に囲まれている。入り口は三つあった。

 正門には衛兵の詰め所があって、城下町へ出入りする人間をチェックしていた。

 他の二つの門は、ふだんは閉鎖されている。

 俺は閉鎖された裏門の一つに向かった。

 巨大な門扉は俺一人じゃどうやったって開けられない。

 だけど、その近くに城下町に通じる地下排水溝の入り口があった。

 主人公のテオドール一行が初めてこの城下町を訪れたとき、当時は城を乗っ取っていたダンビエールの一族から入城を拒まれたから、この排水溝を通って中へ侵入したんだ。

 俺は雑草に覆われた排水溝の入り口を見つけると、中へ入っていった。

 うぅ、臭い。何でも垂れ流す排水溝だけあって、とんでもない悪臭だ。

 小説で描写される分にはさらっと読み流せばいいけど、実際に自分で経験するとなるときつい。

 俺はボロ布で口元を押さえながら奥へ進んだ。

 排水溝の途中には鉄製の格子があって、侵入者を防いでいた。

 だけど、テオドールたちがここから侵入するとき、ミノタウロスの血を受け継ぐ狂戦士が力ずくでねじ曲げ、人が通れるだけの隙間を作っていた。

 それを後で直したという描写もなかったはずだ。

 鉄格子まで辿り着くと、思った通り隙間は空いたままだった。

 俺は難なく城下町へと侵入できた。

 排水溝を抜けて地上へ出ると、作中の描写を思い出しながら頭の中に地図を描いた。

 ランタンの灯りを消し、月明かりだけを頼りに細い路地を進んでいく。

 俺が目指しているのは、城下町でも一、二を争う富豪の屋敷だった。テオドール一行がモンペールに滞在中、ずっと泊めてもらっていた場所だ。

 町の住人はみんな寝静まっていたけど、ときどき衛兵が巡回するのに出くわした。

 俺は急いで物陰に隠れ、衛兵たちをやり過ごした。

 ダンビエール一族が追放されて以来、モンペール領はずっと平和が続いているから、やつらもすっかりたるんでるみたいだ。

 無事に目的の屋敷に辿り着くと、低い塀を乗り越えて建物に近づいた。

 この屋敷は、城下町のどの富豪の住居よりも警護が薄かった。

 といって無防備なわけじゃない。私兵や用心棒を何十人も雇わなくても、魔法の力が屋敷を守ってくれているからだ。

 テオドールたちが滞在したときに、パーティーの賢者がそういう仕掛けを作っておいたんだ。

 裏口のドアの前に立つ。

 よく見ると、ドア全体がほんのり青く光っている。

 もしうかつにドアノブでも握ろうものなら、たちまち電撃が走り、死なないまでも一週間は起き上がれないくらいのダメージを受けることになるんだ。

 だが、俺はこの魔法を解除する秘密の言葉を知っていた。

 テオドールたちとこの屋敷の主人の他には、俺しか知らない言葉だ。

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