13.知識という武器
「そんな! 何か私に不手際がございましたか?」
クレールは慌てて言った。
「いや、違うんだ。お前は本当に俺によくしてくれた。だけど、このまま世話になっていたら、お前までひどい目にあってしまう」
「いいんです、私はエリック様のためなら何でも耐えられます」
「もし俺が城の連中に見つかったら、今度こそ処刑されるだろう。そうなったら、かくまっていたお前だって火あぶりにされるかもしれないんだぞ」
「構いません、エリック様と一緒に死ねるのなら」
クレールは揺るぎのない眼差しを俺に向けてきた。
俺は言葉を失った。
ここまで言ってくれる娘に、俺はどうやったら報いてやれるんだろう。
「……エリック様、お気持ちを変えてくださいましたか?」
不安そうな表情でクレールが言う。
「……ああ、やっぱりもうしばらくお前の世話になることにしたよ」
「ありがとうございます!」
クレールは嬉しそうに声を弾ませた。
「それじゃあ、とりあえずこのジャガイモは厨房に戻しておいてくれ。一晩くらいなら何も食べなくても我慢できるし、盗んだのがバレたら、それこそ犯人探しでこの納屋まで調べられるかもしれない」
「分かりました。そういたします」
クレールは素直にジャガイモをエプロンの下に戻した。
「今夜はきっと使用人頭の監視の目が厳しくなるので、次にやってこれるのは明日の朝になるかもしれません」
そう言い残して、クレールは母屋へ戻っていった。
一人になると、俺は藁の上に寝転がった。
天井を見上げながらじっと考え込む。
確かにエリックとなった俺は剣を使うこともできないし、魔法を唱えることもできない。
だけど、俺には他に誰も持っていない武器がある。
あの勇者テオドールでさえ手にしていない武器だ。
それは、この世界についての創造者の視点における知識だ。
たとえば、俺は暗黒の深淵に生まれてこの世界を虎視眈々と狙っている大魔王の名前を知っている。
最果ての山脈に住む齢三千年の古龍の逆鱗の場所だって知っている。
何しろ、本に書かれていたことは全て事実として確定してるんだから。
この知識を上手く使えば、クレールをこの境遇から救い出すことだってできるはずだ。
深夜まで延々と考え続けた俺は、ついにある一つの計画を思いついた。