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僕と彼と月桂冠

作者: 雪月花

話のネタは花言葉からです。月桂樹の花言葉を知ってポンと頭に浮かんだものを四苦八苦しながら文章化しました。

 僕と彼は幼稚園の頃に出会った。

 いつもからかわれて泣いていた引っ込み思案な僕を、彼はいつも励ましてくれた。そんな彼に僕がついてまわるようになるのは当然だったように思う。彼も当然のように僕をいろんな場所へ引っ張っていった。



 小学生になってもその関係は変わらなかった。僕は彼の後ろをついてまわった。彼の明るく元気な性格に影響され、だんだん僕の性格も明るくなっていった。高学年になる頃には彼との関係は少し変わった。僕は自分の意思をはっきり言えるようになり、彼についてまわるだけでなくたまに彼を引っ張るようにもなったのだ。彼は最初驚いていたが、僕が自分の意思をはっきり言うようになったことを喜んでくれた。



 中学生になった僕たちはテニスを始めた。近くのテニスクラブに所属した僕たちはどんどん上達していった。ダブルスでは必ず彼と組んだ。長年一緒だった僕と彼のコンビネーションは抜群で、クラブの同年代では僕たちに勝てる人はいなかった。大会にもたくさん出場し、優勝も多かった。このクラブは少し変わっていて、試合で優勝したメンバーには月桂樹の冠をプレゼントする決まりのようなものがあった。初めて優勝したとき、僕と彼は冠を貰った嬉しさと気恥ずかしさから笑い合った。それから僕たちは最強コンビとして名を知られるようになっていった。僕は彼の後ろではなく隣に立っていることがすごく嬉しかった。この頃の僕はこれからも彼との関係が続いていくことを望んでいたし、きっと続いていくと信じていた。最初の頃と形は違っていても僕と彼が一緒に居ることは変わらない、何の根拠もないのにそんなことを信じていたのだ。



 高校生になった。僕たちの関係には大きな変化があった。僕たちの中に一人の女の子が加わったのだ。同じテニスクラブに所属する同じ年の女の子でテニスの実力も僕たちと同じぐらい。実力が近いこともあって僕たち三人はよく話すようになった。三人で遊びに行くこともよくあった。ずっと彼と二人だった僕にとって彼女が加わってからの日々はとても新鮮で楽しかった。それからしばらくして彼と彼女は付き合い始めた。僕はあまり驚かなかった。彼が彼女に好意を抱いている様子はとても分かりやすかったし、彼女も彼に好意を抱いているのは見てとれた。むしろやっとくっついたかと苦笑してしまったくらいだった。彼らが付き合い始めても僕たち三人が一緒にいるのは変わらなかった。僕は最初遠慮しようとしたが、彼らが三人で過ごしたいと言ったのだ。

 僕はこのときとても嬉しかった。二人が恋人になったことで、三人の関係は終わるのだろう、そう思っていたからだ。もちろん二人が恋人になったことはとても喜ばしいことだったし祝福していた。しかし、その祝福する気持ちと同じくらい三人でいられなくなることがとても寂しく感じていたのだ。それなのに彼らは僕が一緒にいることを求めた。そのことがたまらなく嬉しかった。


 高一の秋、僕と彼は全国的なテニスの試合に出場した。僕と彼のコンビは順調に勝ち上がり、優勝候補とも言われた。準決勝まできた。準決勝の相手は優勝候補と言われるコンビだ。優勝候補同士なだけあり試合は接戦だった。そして迎えた最終セット。相手も僕たちも疲れきっていた。先にマッチポイントをとったのは僕たちだった。彼のサーブを相手はなんとか打ち返した。これを返して決めれば僕たちの勝ち、その思いが焦りになってしまったのだろう。僕がボールを打ちに行こうとしたそのとき、僕の視界が反転した。僕の疲れきった体が僕の焦りに追いつかなかったのだ。足をもつれさせその場に転んでしまった僕がボールを打ち返せるはずはなかった。彼は転んだ僕に励ましの言葉を掛けてくれた。試合はまだ終わってない、まだ取り返せると。しかし、僕ははっきり見てしまった。僕に声を掛ける彼の目に浮かぶ諦めと悲しみの感情を。

 そのあとの僕のプレイは散々だった。返せるはずのボールを返せず、接戦だったはずの試合は僕たちの負けという結果を残しあっさり終了。試合終了後、僕は彼に試合でのミスを泣きながら謝った。彼は僕を許してくれた。そして、来年こそは二人で全国優勝しようと言ってくれた。しかし、僕はそのとき彼の目を見ることができなかった。彼の目が、準決勝の時に見せた諦めと悲しみの目をしている気がしたのだ。

 このときの僕は、彼の目に浮かんだ諦めと悲しみが僕に対するものだと思っていた。彼は僕に失望しているのだとそう思っていたのだ。それから僕はいっそうテニスに励んだ。彼の失望を払拭するために、次こそは彼とともに全国優勝するために。


 そして一年後、また全国大会の時期がきた。僕は彼とダブルスで優勝することを目標にしてこの一年頑張ってきた。当然彼は僕とダブルスを組むだろう、そう思っていた。しかし、彼は僕を選ばなかった。彼はダブルスの相手に彼女を選んだのだ。男女混合の試合があるらしくそれに出場するのだという。たしかに彼女の実力なら彼と組むことはなんの問題もないだろう。恋人ということもあり、コンビネーションもばっちりだ。彼が彼女とダブルスを組むことは何もおかしくはない。そう、何もおかしくはないのだ。僕は自分に言い聞かせた。そうしないと僕は自分の醜い感情を抑えることができなかった。

「どうして僕じゃないんだ!僕は君と優勝することだけを目指してきたのに、君も二人で全国優勝しようと言ったじゃないか、どうして!?」

 そんな思いが僕の中でぐるぐると渦巻いていた。彼は僕を選ばなかった。僕と全国優勝するという約束を破った。彼は僕を裏切ったのだ。僕の中は彼の裏切りを責める思いでいっぱいだった。


 大会が始まった。僕は別の男子と組んでダブルスの試合に出場した。今まで彼としか組んでいなかったため最初はぎこちない動きになってしまったが、なんとか勝ち上がっていった。結果はベスト8、別のペアでこれだけやれたのだ。彼と組めば優勝はほぼ間違いなかっただろう。ペアの人には失礼だがそんなことを考えてしまっていた。

 僕の結果が出たあと、彼の準決勝が始まった。彼と彼女のペアは相手を圧倒していた。そのまま圧倒し続け、あっさりと決勝進出。クラブの皆は喜んでいたが、僕は自分が彼とコートに立っていないことがたまらなく悲しかった。

 決勝が始まった。相手はさすがに決勝に来るだけあり、なかなかの接戦だった。終始圧倒していた準決勝とは違い一進一退の攻防が続いた。僕は試合を見ながら去年の準決勝のことを思い出していた。あのとき僕が転ばなければ、僕は今も彼とともにコートに立っていたのだろうか。そんな今となってはどうしようもないことを考えていると、不意に大歓声が上がった。どうやら試合が終わったようだ。結果は、彼らの勝利。彼らは全国優勝を果たした。コートで喜ぶ彼らを僕は呆然と見つめていた。


 彼らの表彰も終わりクラブに帰ってきた。クラブのコーチは彼らに月桂冠をプレゼントした。彼と彼女は、いつかの僕と彼のように嬉しさと気恥ずかしさがないまぜになった顔で笑い合っていた。彼らはひとしきり笑い合ったあと、僕のところへきた。彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしていたが、彼は自慢するように話してきた。彼と話をするのは辛かったが顔に出さないように話をしていると、ふと彼の頭の月桂冠が目に入った。その月桂冠には月桂樹の花がついていた。時期が合わないのでおそらく造花だろう。だけど月桂冠と花が目に入ったとき、彼を責める気持ちがわきあがった。しかし、大きな声で彼を詰ってしまえば、この場にいるクラブの皆の楽しい雰囲気をぶち壊してしまう。それだけはしたくなかった。この思いは僕の勝手な醜いものだ。この場で出してはいけない。そう思っても抑えることは難しかった。僕は泣き叫びそうになるのを抑え、彼にただ一言


「その花と月桂冠よく似合ってるよ」


 と告げその場を逃げるように去った。











会話文無くて読みにくかった気がする。

作者は人とあまり会話しないので会話が思いつかないんですごめんなさい。

月桂樹の花言葉

「栄光」「裏切り」

他にもいくつかありますが今回使用したのはこの二つです。

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