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狼被りと羊被り  作者: UTIS
1/3

生き物を飼う時はちゃんと下調べをしましょう

性懲りもなくふと頭に浮かんだものを投稿。

もう一個の方も続きを書かねば…

(あぁ、ダルい…眠い…)


春というには少し遅い時期。

戌井恭介(いぬいきょうすけ)は教室で数学の授業を聞くともなく受けつつ、あくびをかみ殺した。


高校3年になって、受験や部活の引退が迫り、周りの状況も変わりつつある。

それまでは授業や勉強になんぞ興味ない、といった感じだった生徒も勉強に打ち込み始めたり、

高校生活最後の部活の試合に向けてこれまで以上に練習に精を出したり。

そんな周囲の中で恭介はこれまでと何ら変わらない生活態度だった。

今までの地道な努力のおかげで既に志望校は合格圏内だし、部活はそもそも帰宅部なので試合もない。

最低限の出席日数さえ確保すればサボるのもありかもしれないが、惰性で授業を受けているだけである。

別にいわゆる『ぼっち』でもなく、一人除いてほどほどに仲のいい友人もいるし休み時間に話をしたり、

休日に遊びに出たりもするが時期が時期なので放課後は塾だとか部活だと皆忙しくしている。


ただクラスで恭介一人が変わらないわけではない。

もう一人()()がいる。

ガラリ、とドアを開ける音が授業中で静かな教室に響く。

教師生徒問わず教室中の視線が音の発生源に向く。が、すぐ恭介以外の全員が目を反らした。

ドアを開けたのは()()の一人の女子生徒だ。

君島かれんという名のその女子生徒は女子にしては170㎝と高い身長に出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいるメリハリのあるスタイルに腰まである金髪、とまるで外国人のモデルのような容姿である。

しかし、それを表情が台無しにしていた。顔立ち自体は整っているのだが、眉間にしわを寄せてぱっちりとしているはずの目は不機嫌そうに何かを睨むように細められている。まるで狼や虎といった類の猛獣のようである。

それだけで目を反らしてしまう迫力があるのだが、君島かれんが腫物のように扱われるのには他にも理由がある。


(あー確か札付きの不良っつう噂だったっけか。

男三人に囲まれてたのに逆にボコボコにしたとか…援助してるとか…。

まぁ、実際見たことないし知らんが。見たことあんのはタバコ吸ってんのくらいか)


そんなことを恭介が考えている中、君島かれんは教室を闊歩して恭介の横の席にドカリと腰を下ろした。


「おっすー」

「チッ」


恭介の挨拶に隣人はギロリと睨み、舌打ちで返してきた。

いつものことであり、恭介自身は特段何も感じないがそれだけで教室内の空気が緊張したのがわかった。


(こんなことでビビらなくても…。無視されなくなっただけマシになってると思うんだがなぁ…)


君島かれんは恭介の隣の席であり、進級当初から恭介は彼女に対して挨拶をしていたが

当初は完全に無視されていたが続けているうち向こうが根負けしたのか、舌打ちが返ってくるようになったのである。なお、恭介側からすれば親の躾で人には挨拶をするように厳しく教わったので、ただそれを実践しているだけである。

内心苦笑いしていると、無愛想な隣人は机に突っ伏して睡眠時間を確保するようだ。

当然教師も注意したそうにしているが、諦めたようだ。


(俺も便乗して寝よう)


恭介はこれ幸いと隣人に合わせるように、机の上で自分の腕を枕に寝始めるのだった。




にわかに教室が騒がしくなる昼休み。

恭介が机に弁当を広げていると友人から声を掛けられた。


「お恭、飯食おうぜ!」

「あいよ」


親友とも腐れ縁とも言える友人の中山啓太だ。

恭介が机の上にスペースを空けると、対面に座った啓太が弁当を開けるもそこそこに話しかけてきた。


「お前よくあの『狼姫』に話しかけられるな。見てるこっちがビビるわ」

「そうか?そんなビビるような事無かろ?」


既に隣人は何処かに消えているので、それを見計らって来たのだろう。

どうやらその雰囲気と容貌から不愛想な隣人は狼姫などと呼ばれているらしい。


(二つ名って…ラノベじゃあるまいし…)

「いや、色々噂とかもあるじゃんよ?」

「あぁ…でも別に俺自身が見た訳でも無いからな」

「そりゃそうだけどさー」


などと雑談して昼休みは過ぎ、午後の授業も睡魔に負けつつやり過ごした放課後のこと。

クラスの皆が部活やら塾やらへと足を向ける中、恭介も下校中であった。


(アイツ元気にしてるかね?)


足を止め、自宅とは別方向へと向かって歩き始めた先は河川敷である。

(一応途中でコンビニに寄ったけど…)

腰ほどの高さがある草むらの先へと視線を向けた。

そこには先日見つけた仔犬がいる。

親犬とはぐれたのか、捨て犬なのかはわからないが見つけて以来ちょくちょくと時間を見つけては様子を見に来ているのである。

どうやら自分以外にも仔犬の様子を見に来ている人がいるようで、持ってきた覚えのないボロ毛布が増えていたりエサ用の皿が置かれていたりする。ただどうも恭介とは様子を見に来るタイミングがずれてるようで、いまだに本人とは会ってはいないが。


「おーおー、お前は元気だねー。」


目的地に近づくと、仔犬の嬉しそうな鳴き声とハスキーな女性の声が聞こえて来た。


(おや?先客か。この人が多分もう一人の世話してる人かな?

何気に初対面だな…。うむ、男子としてここは美人さんであることを期待しよう!)


そんな下らないことに期待を膨らませつつ、申し訳程度の通り道が出来つつある草むらを進むとそこには確かに恭介の希望通り美人がいた。


「うーりうりうりー。はぁ…可愛い…癒される…」


彼女はニコニコと笑いながら仔犬と戯れていたのだが、草むらから顔を出した恭介と目が合うと凍り付いたように固まった。

そこにいたのは、恭介の無愛想な隣人たる君島かれんその人だった。

恭介としてもまさかここで会うとは思わなかったのもあり、つられて固まった。


(あー、いや美人さんではあるけど、ちょっと想定外というか…。

なんというか気まずいな、うん。つーかあんな顔して笑うんだな)


ただ、そんな二人の微妙な空気など仔犬には関係ない。

もう一人のご飯をくれる人と認識している恭介の足元にまとわりつき、ご飯!ご飯ちょーだい!とアピール。

その様子に二人は我に返った。


「チッ!」

「あー、なんかすまん。」


みるみるうちに眉間にしわの寄ったかれんの先制の舌打ちに、なんとなく申し訳ないような気になり恭介はとりあえず謝った。

無言でいるのも気まずいし、かと言ってかれんの方を向くのも気まずいので目線は足元の仔犬に向けつつ、恭介はエサの準備をし始め、話しかけた。


「こいつ一か月前位に見つけてから、ちょくちょく様子見に来ててさ。

毛布とかエサ皿とかはあんただろ?そこまでは気が回らなかったから、助かった。」

「……」

「毎日来るのも難しかったんだけど、俺のいないタイミングで世話してくれる人がいてほっとしてたよ。

家で飼うのは出来ないし、かと言ってここにこいつがいるのを知ってほっとくわけにもいかないしさ。」

「………」

「俺が言うのもおかしいけど、あんがとな。」

「……ふん」


(相変わらず無愛想な…、まぁでも根っこは良い奴なんだろうな)


顔に出すと噛み付かれそうなので、恭介は内心苦笑いで先ほどのかれんの笑顔を思い出す。

手元はドッグフードの缶を皿に開け、コンビニ袋から牛乳を取り出した。


「おい。」


牛乳の封を開けようとしたところで、恭介に声が掛かった。

しかし、かれんから声を掛けられると思ってもいなかった恭介は、気付かずにそのまま牛乳を皿に入れようとした。


「おいって!無視すんじゃねーよ!」

「うお!びっくりした!

すまんすまん、あんたから話しかけられると思わなかったからさ、何?」

「チッ!それ。」

「?」


かれんからの予想外のアクションに、恭介は驚きながら問い返した。

彼女はイラついた様子で恭介の手元の牛乳をあごで指したが、なんのことかわからず恭介は首を傾げた。


「あぁ、もう!

犬に牛乳はやっちゃいけねーって知らねーのかよ!普通の水は()ぇのか!?」

「お、おお。すまん、これでいいか?」

「あんじゃねーか、貸せ!」

「ほいよ。犬に牛乳ってダメなのか、今まであげなくて良かった…。」


かれんは恭介の手元から牛乳を奪い、睨みながら水を要求した。

その様子に恭介は驚きながら、自分用にコンビニで買った500mlの飲料水を手渡した。

それを奪ったかれんはそのまま、器に水を用意し仔犬を見ながらしゃべり始めた。


「犬に牛乳あげると下痢すんだ。

牛乳の乳糖ってのが犬にとっては多すぎるんだよ。」

「そうだったのか。知らんかったわ…止めてくれてありがとな。」

「…別に。お前にお礼言われる筋合いねぇよ。」


知らずに仔犬にとって良くないものを与えようとしてたと知り、恭介は止めてくれたかれんに感謝した。

礼を言われたかれんはそっぽを向いていたが、自分が原因で仔犬が体調を崩すようなことにならなくて良かったと、恭介は安堵した。


「いや、知らずにこいつの体調崩しちまうとこだったんだ。本当に助かったよ、ありがとう。」

「…っ!チッ、もういいっつーの!」


一瞬照れたような顔を反らしたかれんは、立ち上がり背を向けた。


「お?帰るのか?」

「んだよ、だったらなんだよ?」

「いんや。じゃあな、また明日。」

「…ふん。」


そのまま、かれんは草むらを抜けて歩き去っていった。

残った恭介は無愛想な隣人の意外な一面を見たな、と先ほどまでの邂逅を思いつつ仔犬と戯れていた。

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