ネヴのBRメモ:2
【BR‐a:パトリツィオ・メチェナーデ】
【BR‐b:ダヴィデ・メチェナーデ】
今回のBRは、本体となるBR(以降、本体をBR-aとする)父親のパトリツィオ、そしてその「子機」であった息子ダヴィデ(以降、BR-bとする)によって起こされた事件でした。
このBR-bそのものは故人ではありますが、BR-aの有する異能によって、生前のダヴィデの人格とメチェナーデ家の先祖の死体達が有していた魔術的知識を有しています。
この「先祖」にはBR-a自身も含まれており、これによってBR-bはBR-aと同じ異能(同じBとの接触能力)を共有しています。
よって、BR-aの異能によって発生した他の個体と区別し、「異能の使い手である」「自律的に行動する」という点において、彼をBR-b(およびBR第二種=獣憑きを起因に発生した特殊オブジェクト)と仮称します。
BR-aは56歳の男性です。
メチェナーデ家は、かつてはネクロマンシーに非常に長けていた魔術師の家系でしたが、三十年前の『解体作業』によって、その神秘性を大いに損ないました。
『解体』の原因は、当時のメチェナーデ家の管轄領において、夜間に行われていた数々の作業が目撃されたことに始まります。
当時の当主であったBR-aの父親は、集合墓地から死体を採集し、ネクロマンシーで製造した死体達を非常に安価な労働力として使用していました。主な用途は夜間の作業(整備、運搬、簡単な組み立て)などです。
これによってメチェナーデ家管轄領は大きな功績をあげ、恩恵を受けていた住人達も見て見ぬふりをし、知ろうともしていませんでした。
ただし隣接した他の領地に、動く死体達の噂が広まり、神秘曝露の危険性が疑われたため、ANFAの出動、およびメチェナーデ家の有するネクロマンシーの神秘の弱体化を目的とした解体を行うに至りました。
ANFAのメンバーとメチェナーデ家自身によって、死体達を加工、様々な工作も同時に行われました。
表向きには、彼らはメチェナーデ家に低価格で雇われた『移民』『下層民』であり、発見された死体は過労と飢えで死亡した、ということになっています。
その後は魔術師としても貴族としても、力と名声を失っていきました。
【BR-a】
BR-aは博士の個人的な支援者の一人であったようです。
魔術師たる貴族の例にもれず、バラール国全体を覆う『無意識の楽観』の結界の力点の一つであるメチェナーデ家でしたが、年々魔術行使の素養が薄れ、魔術師の位階の降格が続き、秘威協会では本格的な精神の海への干渉能力の封印、ひいては魔術師界からの追放も検討されていました。
メチェナーデ家の屋敷から回収した日記から、BR-aは非常に焦っていたことがわかっています。
ライオネル・ドラード博士を誘拐した何者かの方からBR-aに接触したとみられます。
BR-aは入手した薬物=Balamを服用し、獣性を喚起することで、魔術的技術・才能、あるいはそれにかなうものを取り戻そうとしました。
BR-aの状態は不自然な変容も見られましたが、ルーカス・グルレの件と比べれば大幅に改善されています。
精神面においては著しい摩耗があるものの、完全に燃え尽きるまでは異能を行使できていました。
BR-aはメチェナーデ家が積み上げてきた技術と血筋、ノブレス・ノブリージュに対する強い執着を有していたようです。
彼がBR化で手に入れた異能は、死体の有する情報の「転写」、過去の複製です。
元のメチェナーデ家が有する技術は、外国より渡来した技術を主要としたもので、主に回収した死体から魂の残り香を吸いだし、壺などの入れ物に閉じ込め、壺を肉体との縁を有するコントローラーとして用い、死体を操作していました。
生きている人間をゾンビパウダーで仮死状態にしてから、改造・魂の抜出を行う場合もあったようです。
オーソドックスなこれらの手段のほかにも、彼らは多様な「ネクロマンシ-」を研究していました。
例えば、ショゴスと呼ばれる粘液状生物を入手し、その細胞から運動力の活発な特殊な粘液を作成し、それによって、一見人格を持っているかのようなアンデッドの製作を研究していました。
ただし、このショゴス粘液は知性の模倣と再生能力に特化した劣化コピーに過ぎないようです。我々の知るショゴスとは異なり、電撃・低温・炎熱に対する高い耐性はありません。特に電撃がよく効きます。
しかしそれも一時的に運動を阻害する程度で、致命傷にはなりません。
異能発現以前は、粘菌に人格データをダウンロードできず、せいぜい運動力に優れたアンデッドを製作するにとどまっていました。
しかし、異能発現後は最も蘇って欲しい対象として執着していたBR-bのみ、製作に成功しています。
人格データは、「無意識の海」に沈んだまま残っていた故人の記憶、対象に関する無数の人間の認知から汲み上げたものだと推察されます。
(ただし残された研究文書をみると、不明瞭な部位も多く、異能保有者であるBR-a、BR-b以外には正確な理解は困難でしょう。BR-b発生は完全な執念と偶然の結果であり、これらの理論がBR-aの思い込みである可能性も否定できません)
神秘と伝統に固執しがちな魔術師家系には珍しく、比較的柔軟で新しい知識や挑戦に対しても好奇心旺盛です。
BR-a、BR-bの行使する異能は、一見メチェナーデ家がこれまで有していた魔術を復活させたかのように見えますが、それは偽造です。
BR-aはメチェナーデ家が正常な状態の魔術師であった頃の先祖の死体を掘り出し、遺体に刻まれていた「経験」を「転写」することで、被転写体の有していた能力をそのまま使用することができます。
この能力は生者に使用した場合、激しい拒否反応を起こすことが判明しています(例外=BR-bを除く。後述)。
BR-aは自分自身にメチェナーデ家の先祖たちを「転写」しようと試みた結果、その能力を手に入れることには成功していますが、彼らの肉体の状態も一部「転写」してしました。
発見時には、彼の身体はひどく痩せ衰えていました。内部は一層影響が深刻で、ほとんどが生きたまま腐敗していました。
痛みに耐えかね、我々が彼を発見した際には幼児退行を起こし、廃人同然でした。
回収したBR-bの供述によれば、BR-bの製造した死体達に世話をされていたようです。
それでも生命活動は保たれていました。腐敗による激しい痛み、深刻な不全に襲われながら、彼が生き延びた理由は科学的な手法では明らかにすることができません。
同じく供述から、BR化の影響以外にも、BR-bにも使用されている「粘菌」を己にも使用していたことが判明しています。
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【BR-b】
BR-bは、BR-aが自分以外に「メチェナーデ家の貴族」として行動できる自律行動端末として特別に製造したアンデッドです。
彼は現在、サイト-3102に収容されています。人間的知性を有するため、3101への移動も検討されています。
製造に使用されたのは、BR-aが有事の際に備えて製造した個体で、BR-aの実子(八歳で死亡)の細胞から製造したクローンです。
前述の手段により、周囲が思い浮かべる「ダヴィデ・メチェナーデ」らしい人格を有しますが、彼本人に趣味嗜好や喜怒哀楽といった「心」があるわけではありません。
彼は常に「転写」を行います。
BR-aが望んだ「理想の息子」、「愛すべき領民を喜ばせるよい貴族」であるために、周囲の心を写し取り、(BR-aに与えられた基準を優先しつつ)その望みがかなうように行動します。
希望や嗜好を主張しても、それは周りが「ダビデならばこれを好むだろう」という認知や、過去の記憶から与えられたデータ通りに行動しているだけに過ぎません。
BR-bを破壊することは困難です。
肉体に損傷は発生しますが、優れた技術によって容易く修理・交換を行います。部品が足りずとも体中に巡らされた粘菌を操り、生命活動を維持することが可能です。
BR-bの思考能力と生命力は脳や臓器ではなく粘菌に依存しているため、構造が人そっくりでも、人に対するような攻撃に有効な意味はないでしょう。
精神汚染や概念分解などの非実在性攻撃においても対抗手段を有しています。
通常、人が人の心のままであれば、生まれ持っていずれ死する状態である以上、不死の違和感に耐えられない可能性があります。
それは周囲の意識を反射する性質をもつBR-bであっても、「死への恐怖をもつ人間」を反射する以上、つきまとうはずでした。
そこでBR-aは過去の研究を適用したようです。
一時期、本来は精神・肉体・魂がそろって成る人間を、それぞれ別々の要素に切り分け固定化することで不老不死を目指す研究に取り組んでいた時期もあると聞き及んでいます。
肉体と精神の間にある密接な繋がりを完全に分離・分担するということによって、密接に繋がり相互に関係しあうことから解放しようとしたのです。
これによって精神は肉体が致命的な損傷を負っても、痛みによる命の危機=本能的な恐怖をほとんど感じません。
肉体による死がない以上、コアとなる精神(BR-bであればBR-aが彼をつくりあげられた理由=託された願いとそれを基にした構造・概念)が無事である限り、存在し続けます。
ではこのコア、基本概念について。
周囲の人間の心をつなぎ合わせた反応をおこなうBR-bですが、まず大前提としてBR-aによる設計に従って行動しています。
BR-aは、ダヴィデらしくあること以外にもBR-bに対し三つの方針を与え、BR-bは三つの方針をできるだけ積極的に実行しようとします。
三つの法則とは、
「メチェナーデ家の存続」
「メチェナーデ家とその技術の発展」
「メチェナーデ家が有する土地、民の守護」
です。
ただし、人間らしい振る舞い、ダヴィデらしい思考パターンを行うことは更に上位の命令であるようで、時たま三つの法則に優先するようです。
それでいて、「息子は父親を守るもの」という常識や「優しく人なつっこい息子」という記憶も放棄して、「メチェナーデ家の誇り」のためにBR-aを殺害した例もあり、詳細な基準はいまだ不明です。
可能性としては多数決(自分達の代表となるメチェナーデ家の主人の痴態は許せないという意識が、パトリツィオの人命を守るべきという意識を上回った)が考えられます。
彼は「人間らしく振舞う」ために、利益や知的行動よりも、感情的行動を選択します。
ただし、彼の生い立ちが人間ならざるものであるせいか、BR-bの考える「人間らしさ」は我々とは多々異なる点があるので、取扱いに注意してください。
また、それがどの程度の知能・善悪のうえに生じたものであろうと構わず、周囲の人間の望みをかなえようとします。この叶え方に関しても同様です。
望みをかなようとする対象の優先順位は、初期は
彼のいた町デイパティウムの住民>肉体的・精神的なハンデを抱える弱者>弱っている健常者>心身健康な一般人(下層民>富裕層) です。
後述しますが、事件後は「デイパティウムの住民」は最優先事項ではなくなっています。
前述にBR-bをアンデッドと記述しましたが、正確には彼の肉体は生きています。
肉体的には生きていますが、精神的には生きていません。
異能と研究によって大量生産したダビデのクローンから、一番いい素材を生きたまま組み合わせてできあがったものだからです。
術式の過程でクローン達の精神は壊れ、粘菌によるダウンロードも記憶の寄せ集めでしかなく、せいぜい模倣が限界だったようです。
強制的な破壊に関しては、少なくとも、私では困難です。
多少影響をおよぼすことはできますが、パッチワークの縫い目をゆるめるようなものです。
更なる分解に取り組む間に、「修繕」が開始されます。
素早く作業を進めるにも、肉体は生と死の文様が複雑に重なり絡み合い、精神は大量の人間の映し鏡であるため、どちらも縫い目を見つけるだけでも大変な労力を要します。
肉体と概念の両面から何十にも分解を続けねばならず、一カ所を分解する間に他の点が直ってしまうためです。
現在は限られた範囲のみ破壊に成功しましたが、二度目がないよう更なる対策をたてられていると思ってよいでしょう。
加えて、彼は相手を反射しているので、致命的な破壊は私自身を殺す可能性があります。余程の事態が起きない限り、彼に関する業務はお断りさせてください。
もしも破壊行為を試みるならば、ものによっては、最小の手数で最大の効果を出さねばならないことを進言させて頂きます。
BR-aが廃人になってからは、BR-bが死体達の操作および研究を引き継いでいました。
隠して作られた施設から推察される取り組みの内容は、クローン製造、人体解剖、薬物を使用した生者のゾンビ化、効率的な生命体を目指したキメラ開発、死者を親とした子どもの生産法などです。
BR-aは子宝に恵まれなかったため、メチェナーデ家を存続させるための跡継ぎに悩まされていました。
クローン製造によって息子を復活させようとしていたようでしたが、これは当然、息子と同じ遺伝子を持った別人に過ぎません。
完全な復活を目指してつくられたアンデッドのプロトタイプとして製造され、全くの偶然が重なり、唯一稼働に耐えうる個体となったものがBR-bです。
施設からは、成長した状態のクローンの製造に使われたと思われる三つの培養槽が発見されています。
BR-aが製造した死体達は本体であるBR-aが失われ、「あちら側」との縁を失い停止しました。ですが、BR-bは稼働を続け、以前と変わらない様子で活動しています。
BR-bが製造したと思われる死体達もです(現在はサンプルと予備としての六体以外、処分済みです)。
このことからBR-bは、BR-aを経由していた他の死体達とは別個に「あちら側」と繋がっていると考えられます(BR-aを経由した子機としてBR-bが異能を扱えるのではなく、BR-bが独立して異能を受け継いでいる)。
現状は「自我と感情」を有してはいません。このため、異能はあくまでコピーに過ぎず、強い意志に答えるBとは接触できないと思われます。
しかし、本体であるBR-aを失っても活動していること、人に似せて作られていることから、将来的に何らかの変異を遂げる可能性は無視できません。
月日を経ることで神秘性を獲得する「付喪神」などの例もあります。
BR、もしくは第四種(Bがこちら側の世界に一部を実体化させた化身体)に変異しかねない点を考慮し、彼はANFAの管理・監視下に入ります。
同時に死体であるため殺されず、自我がないため他のBの影響を受けにくい(他者の異能の影響を受けにくい)点から、ANFAエージェントのサポート用品としての効果的な活用も考えられます。
彼は現状、協力的な態度です。特に反抗もせず収容されています。
BR-aによって与えられていた「その後も命令を実行し続けるために必要な自衛本能」の一部(デイパティウムに関するもの)を選んで破壊し、そこでとどめたため、今の彼は「デイパティウム関連への際だった執着」がない状態です。
これにより、事件時の「デイパティウムの民を幸せにする」ことに関心はありません。最も近しい人々への奉仕を最優先します。
これからも人々に奉仕するための自己保全に努めており、破壊・改造の危険性を薄めるためANFAへ協力的な姿勢を示しています。
ただし、肉体・精神に関わらず、異能を用いた検査と調査を拒否します。
無理に調査を行おうとすれば、彼は近場の墓場や死体に異能・魔術を行使して抵抗します。BR-bを隔離していても、BR-bによって操られた死体は限界を超えて駆けつけます。
調査を中止すれば、ただちに抵抗は収まります。
これに関しては、私によって基礎命令の一部を破損されたため、これ以上影響されないよう警戒してのものと思われます。
管理番号を振るであろう記録課のコンパスさんにつきましては、ご迷惑をおかけします。
人格は基本的に温厚であるため、交渉は可能です。強制ではなく、交渉を行ってください。一定以上彼を損なう危険がある物以外は、概ね了承する可能性が高いです。
また、彼はメチェナーデ家のデータを保存・更新するため、子どもを産む花嫁、あるいはデータを転写する死体を希望してきますが、こちらは極力穏便に却下してください。
メチェナーデ家から回収したBR-aによる設計図とBR-bの自己申告では、BR-bはメチェナーデ家の続行のための手段として、生者と同様の生殖能力を有するとされていますが、実際に生産された「子孫」「引き継ぎ個体」は確認されていません。
BR-bはそれを「花嫁側の『あちら側』との接触能力の問題」と説明しています。
基本的には異常な個体であるにも関わらず、生殖能力をはじめとしたいくつかの点において健康な生者同様の能力を模倣することができる理由については、BR-b自身から説明を受けても我々には理解できません。