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アンダーハウル  作者: 室木 柴
第一章 誰しも頭のなかに
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ネヴのBR報告書:1

 メインキャラクター・ネヴが書いたというていの報告書です。

 読まずとも本編には支障はございません。しかし、本編には記載されていない情報もございます。

 資料集などがお好きな方は、是非お楽しみいただければ幸甚の至りでございます。

 わたしへ。

 あとで必要になった時のために、とりあえずわかったことをメモしておきます。

 もしかすると父さんに報告を求められるかもしれないので、注意。

 BRは「獣憑き(ビーストライダー)」の略、Bは(ビースト)


BRビーストライダー: ルーカス・グルレ】


 彼はバラール国の首都、ヘリングの下層区域にて生活していた青年です。

 年齢は19歳。身長は170cm前後、周囲には「やせぎす」で通じていました。


 エージェント:アルファの調査では、14歳前後で家出して以降、あちこちの不良仲間のもとを転々とする生活をしていたようです。

 エージェント:シグマは彼の生家を発見しましたが、連絡を取っていた様子はなく、また家族も彼の消息を気にしている気配はありません。

 コミュニケーション能力が高く、「友人」は非常に多かったようです。しかしながら、彼の情報は多くありません。調べればデータはいくらでも手に入れることができますが、彼をよく知る人物はそう多くは見つかりませんでした。

 あくまでコミュニケーションは生活のためのものであり、特定の個人と深い仲になることはなく、広く浅い交友関係を築いていたと推測されます。

 

 彼はライオネル・ドラード博士が開発していた薬物の被験者として利用された疑いが濃厚です。

 元々はニスデール・ドライブの使用者が安定して獣憑き(ビーストライダー)の能力を発揮するため、その感情・執着・興奮を意図的に強化し、Bと人工的に接触し、異能を開花・コントロールすることを目的としたこの薬物に対して、博士は治験の実施を求めていました。


 私、ネヴィー・ゾルズィは、博士が下層区域に建てられた廃屋敷に向かう様子を発見し、アルファとともに尾行。観察してから、博士を問い詰め、処遇を考える予定でしたが、その前に屋敷を訪れた何者かによって襲撃を受けました。

 襲撃の際、博士は逃亡。私の顔は見たはずですが、そのまま逃げられてしまいました。騒ぎで私だと気づかなかったのかもしれませんし、あるいはANFAに対し後ろめたい何かをたくらんでいたのかもしれません。


 いずれにせよ、薬物(今後は博士のメモに残されていた単語=獣性(Beast)調整(Adjust)不安定化(Labilize)喚起(Arouse)潮流(Marea)の頭文字をとり、Balam(バラム)と呼称します)は未完成品でした。


 ルーカス・グルレはイーデン・カリストラトフに鞄を開かせた後、その優れた技術で、気づかれることなく、鞄からBalamの注射器を一本、盗み出したと考えられます。

 トイレットに、彼が使用したと思われるBalamが付着した空の注射器が発見されたためです。また、トイレットにて、わずかに抵抗の痕跡が残っていたことから、最初はイーデン・カリストラトフに対する嫌がらせの一貫として薬物を盗み、トイレットで取り出したところを何者かに襲撃され、無理矢理Balamを摂取させられるに至り、強制的に獣性、もしくはBとの接触を喚起され、BR化したと仮定しました。


 一度助けられただけのイーデン・カリストラトフへの強烈な憧れ、憧れの歪んだ憎しみといった感情は確認しましたが、それは本来、Bへ至るほどのものではありません。

 薬物によって強引にBの感性を得ただけの彼の変異は、中途半端に成立していたことが、死亡後の解剖によって判明しています。


 死亡後、彼の肉体は半分ほど人間に戻りました。しかし、一部は狼に似た四足歩行生物のままでした。

 細かな変異は見られましたが、特に異常だったのは、消化器官です。変異後のルーカス・グルレは、ヒトの消化能力が失われていました。食物を消化するための臓器自体は残っていましたが、ほとんどがエネルギー摂取のための器官としては機能を停止しており、意味をなしていません。


 彼が殺害した人間のほとんどが分解されるだけで捕食されていなかったのは、ルーカス・グルレがヒトでありヒトを食うことを受け入れられない生き物であっただけではなく、そもそも食べることができなかったからであろうという報告を受けています。

 ただし、この本来でいうところの「消化器官」は、BRと化したルーカス・グルレにとって別の意味を得ていました。


 いくつかの実験により、この臓器から膨大なエネルギーが発生した痕跡が発見されています。

 現実世界のエネルギーではありません。B由来の「向こう側」から引き出されたエネルギー(今回は魔力と仮定)、臓器は扉、殺害行為は鍵の役割を果たしていたようです。

 ルーカス・グルレの元・消化器官は、彼の命と、彼によって殺害された人間の命が消えゆく恐怖と痛み、断末魔を魔力に変換する器官に変容した、と仮定しています。


 ルーカス・グルレはBR化後、狼の姿では巨体であったにもかかわらず神出鬼没に行動していました。

 どう隠れて行動していたのか?

 あの絶大な破壊力を手に入れたのか?

 あれほどの巨体に変異したのか?

 これは、この「命を消費する」エネルギー変換によるものです。

 存命時に彼が人間の姿に戻ることがあったかは不明ですが、意図的に異能を使いこなしていた可能性は低いでしょう。

 摘出した内臓の一部は原因不明の状態になっていました(まるでオーブンから取り出し忘れたチキンのように黒焦げです)。


 原因は以下のように推察されます。

 BRにはよくある性質ですが、ルーカス・グルレは薬物によって、この「わが身を消費して欲求に従う」感情を異常に刺激され、強迫観念に近い状態になっていたのでしょう。

 ただの憧れの一個人にすぎなかったはずのイーデン・カリストラトフへの異常、歪な執着も、このためです。

 私がルーカス・グルレと接触した際、彼には人間的な知性による行動(言語能力など)は見られませんでした。

 異常な興奮、変異によって、執着に従うだけのものと化し、半狂乱の状態で、人がましい知性を喪失していた可能性があります。

 イーデン・カリストラトフをおとりにした際の出現方法を見るに、BR化したルーカス・グルレは、知能低下と狂乱、生命の危機によって「あちら側」に対する現実認識の壁が薄くなり、通常時は「あちら側」の世界へもぐりこみ、彼が反応すべき事象を感知したときのみ現実世界へ舞い戻っていた――つまり、「あちら側」を介した空間移動、テレポーテーションに近い異能を有していたのかもしれません。


 勿論、この異能は自分では操れない、無意識化のものです。

 むしろ、異空間を利用していたというより、感知によって感情が高ぶらなければ、我々には想像もつかない人理及ばぬ深遠の世界に閉じ込められていた、ともいえます。

 知能が低下していたルーカスにとって、イーデン・カリストラフに由来する事態が発生し、それを感知することは、無限に続く異空間のラビリンスで迷っていたところに突如、出口の光が現れるようなもの。比喩を抜いて、殺戮の時間のみに解放される飢えた獣の状態だったとするならば、あの狩りの被害者たちの無残な死体も納得できます。


 また、「あちら側」から供給されるエネルギー=魔力があったところで、生物としての栄養の摂取は不可能な状態にありました。彼の変容の不完全な点、その一つです。

 恐らく、遅かれ早かれ(三か月から半年程度)には、栄養失調によって死亡したはずです。

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