姉と母
ノープランです。
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ぅうん……。
温かい感触と、心地よいというには少しばかり激しい揺れを感じ、オレは意識を取り戻す。
……生きてる。
いや、ひどい夢だったなぁ。
まさか、トラックと事故って、目覚めたら森の中で赤ん坊になっているなんて。いくらなんでもあり得ないだろ。
しかし、目を開けるとやはり視界はぼやけてて、オレは女の子らしき人に抱かれていた。
先ほどから感じる温もりはこれか。
揺れはどうやら馬に乗っている為のようだ。
随分と慎重に進んでいるが、やはりある程度の揺れは致し方ない。
……コレ、夢ジャナーイ。
オレは本当に生まれ変わったんだな。
はぁ、あっちの世界に身内はもういないけど、会社の皆に迷惑かけるだろうなぁ。
それにしても……。
この子が助けてくれたのかな。あの犬から。
下から見上げるその顔は、おぼろげながらも、幼さを残すものの整っていて、有り体に言って美人のように見える。
髪の毛はサラサラで色の識別は赤ん坊のせいか上手くできないけど、とても綺麗なストレートヘアーである。
そんな時、ふと女の子が視線を落としてきた。
目があってしまう。
……はっ!!
ここが勝負どころだ!
ここで、気に入られるなり情に訴えるなりしないとオレに未来はない!!!
オレは精一杯の笑顔と愛嬌をしぼりだす。
「キャッキャッ。あーうー。」
「…………。」
あれ?見つめあったまま女の子が停止したぞ。
なんか揺れが増したような。
「うー?」
「………………。……はっ。いかんいかん。あまり愛らしいもので一瞬気が遠くなってしまった。どう、どう。」
女の子はそう言って手綱をとる。
どうやら、好印象を与えることに成功したようだ!
「しかし、不思議な奴だな。お前は。何故あんなとこにいたんだ?こんなに愛らしい上に男と来れば捨て子な訳もあるまい。」
「あー。うー。」
「フッ。お前に言ってもしょうがないか。しかし、光が出たのも丁度お前がいた辺りだし、もしかしたらお前は神様の使いかもな……なんてな。」
……待て。
今のこの子の発言を整理しよう。
愛らしい。まぁ、赤ん坊だしな。
男ならば捨てられない。やはり、労働力とかの面かな。
なんとなく違和感はあるが、まぁいいや。
で、光った所にオレがいた?
なんだそれ……?
神様もなにも会ったことも見たこともないし、せいぜい道場の神棚を拝むくらいしかしてないぞ。
まあ、考えてもしょうがないか。
お陰で助かったんだしな。
「そろそろ森を抜けるぞ。」
そんな他愛もないことを考えて入るうちにどうやら、森を抜けるようだ。
………………緊急事態発生!!
………………緊急事態発生!!
突然の尿意に襲われる。
体が小さいから膀胱も小さいのか。
あ、あ、あー。
ちょろ。
「おぎゃあああーー。おぎゃあああーー。」
「お、おい。いきなりどうした?ん?なんか少し濡れてるような。」
ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。
ここで、悪印象を与えることになってしまったら……。
最悪だ。
しかし……
「フフッ。仕方のない奴だな。」
なんと、女の子はそう微笑んで布を外して、優しく拭いてくれた。
感じるのは感謝。
圧倒的感謝っ……!!
道中そんなハプニングもありつつ、オレはこの女騎士ちゃん(拭いてもらったときに何となく見えた格好が騎士っぽかったので)に助けてもらって、立派なお屋敷へと入っていくのだった。
そして、女騎士ちゃんに抱かれて連れてこられたのは、派手ではないが何となく立派な扉の前だった。
女騎士ちゃんがノックをする。
「騎士イーシェ、只今戻りました。緊急の報告がございます。」
おお、この子はイーシェって言うんだ。
うん、騎士服見て思ってたけどやはり、日本なわけないよね。
「入れ。」
そんな事を考えていると、簡潔な返事が帰ってきた。
凛とした声だなぁ。
「失礼します。」
「だー。」
「!?……フフッ。」
挨拶したつもりなのに、女騎士ちゃんに笑われた……。
さて、扉の向こうは立派な大きい机のある広い部屋だった。
机の奥にはキリッとした女性が座っている……ように見える。
さすが赤ん坊の目。はっきりとは見えないぜ。
「それで、イーシェ。緊急報告とは何か分かったのか?」
「はっ。それでは報告致します。東の森の謎の閃光の元に調査に行ったところ、赤子がウルフに襲われかけておりました。」
「赤子が?そんなところにか?」
「はい。しかも、何とその赤子は男でした!」
「……なんだと?それは誠か?」
「はっ。」
「何とも不思議なことだな。光の元に男の赤子がいるとは……。」
「まさしく。アン様、この子の処遇は如何致しましょう?」
「ふむ。」
そういって、アン様と呼ばれた女性は視線を此方に向ける。
ここだ!
ここしかねえ!!
オレは再び精一杯の笑顔と愛嬌をしぼりだす。
「うー?キャッキャッ。あーうー。」
「「…………可愛い(ボソッ)」」
「…………。あー、ごほん。仕方あるまい。ちょうど我が子もそろそろ産まれることだ。双子ということにして私が直々に面倒を見よう。」
「えっ!!」
「……なんだ?何か文句でもあるのか?」
「いいいいいえ。滅相もない。しかし乳母は如何致します。」
「無論乳母は付ける。だが、私も乳が張っていてな。ちょうど良い。」
「左様でございますか。」
「それと、この件、誰かに話したか?」
「いえ。アン様だけでございます。」
「ならば良し。この事は他言無用だ。そうだな……産婆と乳母にのみ伝えることとする。」
「御意。」
おお!何か凄く上手くいったようだ!
しかし、こんな上手くいくものかね?
どこの馬の骨ともしらぬ子供を、施設とかじゃなく、わざわざ偉い地位にいそうなアン様が引き取るなんて?
なんか違和感があるなぁ。
「ところで、この赤子。名前はあるのか?」
なに?武!武です!武武武!
「わかりません。」
「あー、あーうー。」
「フッ。何を喋っておるのだ?お前は。」
くっ、伝わらん。
「しかし、実は……この子がいたところにこのような布が……。」
イーシェの手にはハンカチほどの布切れが握られていた。
「ふむ。この紋様……何となくだが、文字に見えないこともないな。」
「ですね。えーと……た……け……る?」
「確かにそう読めるな。」
きた!オレの名前!
「なるほど。ならば、今よりお前をタケルと名付けよう。力強さを感じるいい名前ではないか?なぁ?」
「キャッキャッキャッキャッ」
オレは全力で喜びを表現する。
「ハハハ。そうかそうか。気に入ったか。」
そう言って抱き上げてくれるアン様は凛とした美人で、とても若い女性だった。
話し方から少なくとも20代だと思ったが、もしかしたら20にもなっていないかもしれない。
オレの第2の人生の母は、とても美人で、一見厳しそうだが、笑うととても可愛く、そして目には優しさの溢れた、そんな人だった。
母親を知らないオレは、気恥ずかしくもありながら、嬉しさを感じていた。
そうして抱かれているうちに、安心してしまったのか、突然の空腹感襲われた。
あ……。
「おぎゃあああーー。おぎゃあああーー。」
「おっと。いきなりどうしたのだ?タケル?」
「下の方では……ございませんね。お腹が空かれたのでしょうか?」
「ならば、ちょうどよい。私が乳をあげよう。」
そう言っておもむろに乳を出すアン様。
精神も赤ん坊の身体に引っ張られているのか、多少の気恥ずかしさはあるものの、大きな抵抗もなく乳を吸う。
……決して前世は変態だったんではないからな。
そんな誰にともない言い訳をしながら食事をとる。
そして、ひとしきり吸った後はゲップをさせてもらう。
そこは、とても暖かい空間だった。
こうして、オレは家族を得ることができた、
母親であるアン様(本名はわからない。)
姉さんみたいな女騎士のイーシェちゃん。
そして、まだ見ぬ弟か妹。
分かるだけでも、これだけの守りたい人が出来た。
うん。今世も真っ直ぐ生き抜いていこう!
……なんでオレ言葉わかるんだろう?