花占い
意思を持った花がいた。
彼女はある少年に恋をしていた。通学路を歩く彼のランドセル姿を眺めるのが、彼女の昼間の楽しみだった。それだけで、彼女は幸せな気分になれるのだ。
花ではあったが彼女はそこそこ利口で、自分と彼が結ばれることのない、別々のものだと理解していた。だからこそ、そのささやかな幸せを目一杯享受した。
ある日、少年は思いつめた表情で花に近付く。
こんなことは初めてで、花はドキドキしつつも、もちろん身動きなど取れない。少年はそのまま彼女を摘むと、
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…」と花弁を一枚一枚剥ぎ始めた。
花は身の危険を感じながらも、もちろん自律することなど出来ないし、またそのつもりも無かった。
痛いけれども、少年の祈るような表情に魅入っていた。
「好き!」少年は最期の花弁をちぎり取り、同時に声をあげて、その顔を喜色に染めた。
花びらは風に煽られるように舞い上がる。
理由は分からないが、彼が好きだと言ってくれた。真正面から、笑いかけてくれた。どれも無理だと諦めていたものだった。
道端の、数ある花の中から私を選んでくれたのは、きっと運命だ。
死ぬ間際に、花は嬉しくなった。
少年は喜び勇んで、前を歩く少女の元へと駆けていく。
お付き合い頂きありがとうございました。