ハロウィーン四人衆のメリクリ
登場人物
狼男…ウォル
魔女…ウィ
吸血鬼…ヴァン
フランケンシュタイン…フラン
という安直なネーミング
「うぅ……、ぅううぅ………。あの神父め…」
「うああぁ~~、ヴァン~大丈夫~?」
とある家の2階の1室。
窓から見下ろせば、吸い込まれるような夜空の下、ガス灯に照らされしんしんと雪が降り注ぐ中で、ホワイトクリスマスを喜ぶカップルの姿や、恨めしそうな顔で空を見上げる御者、両手に父親と母親の手を握り笑顔で両親の顔を見上げる幼女の可愛らしい姿が見える。
町中は幸せに満ちている様子である。つい、頬が………緩んでしまう。
他意は無い。
そんな町とは対極の光景が、このヴァンとフランの家で広がっていた。
狭い部屋の中でベッドに横たわる青白い少年。
その男に縋り付く色素の薄い小さな少女。
揺り椅子で項垂れ暗く重い空気を出す少年。
妖しい桃色の煙が出る香を焚き、緑色の炎で赤黒い壺の、どろっとした中身をコトコトと煮ている少女。
真っ当な人間がこの部屋を覗き見れば即座に回れ右をして見なかった事にするだろう。
ウィが煎じている薬のように、怪しげな者が部屋の中に詰められていた。
「畜生……ヴァンてめぇ、覚えてろよ……。何時間も考えた俺のデートコースが……。よりにもよって今日という日に俺からウィを借りてくるなんて巫山戯たことはもう2度とすんなよ……」
無意識にウィは俺のモノ宣言をするウォル。
「ははは……ごめんね……。生きてたらこの借りはきっと返すから……ぅぐう」
死亡フラグを建てるヴァン。
「ヴァンーーー!!!ウィ!薬は何時出来るの!?」
微妙な小ささでヴァンの妹のように見える、ヴァンの彼女であるフラン。
「待ってね。後もう少しだから。ここで焦ると一からやり直しだから。フラン、ヴァンの手を握っていてあげて。そしたら…ヴァンもきっと……」
割と何でも出来る女主人公のように見えなくも……な、い……?魔女であり、ヴァンの死亡フラグを強化しているウィ。
「ヴァンーーー!!!」
以上四名が今回のお話の中心である。
が、早速クライマックスな展開となっているので時間を少し巻き戻すとしよう。
*****
クリスマス・イヴの日、ウォルはウィの家に向かっていた。
片手には女性用の服が見え隠れする大きな紙袋を持ち、寒くて赤くなったもう片方の手を握り開きしながら森の地面に積もった新雪をしっかり踏みしめる。
時折靴が脱げそうになりながらも、森に入ってから程なくして小さな小屋が見えてきた。
ウィの家である。
ドアの前の屋根に垂れ下がった危ない氷柱を軒並みへし折って、コンコンとノックする。
「ウィ?入ってもいいか?」
「あ、ウォル。今出てくからちょっと待って」
パタパタパタと忙しない足音がする。恐らくローブを纏い、帽子を探しているのだろう。
いつもの彼ならばそのまま待っていたのだが今日は違った。
そう、あの手荷物である。
赤茶色のベレー帽。
白いもこもこのセーター。
ピンク色のシャツ。
赤い膝丈より下くらいのスカート。
黒いガーターベルトとハイソックス。
そして焦茶のロングブーツ。
全て彼が選んだ。
つまり黒色のガーターベルトとハイソックスは彼の趣味だった。
そして彼は闘志を漲らせて部屋に入っていった。そこにはローブを身につけ帽子を被り、暖炉の火を丁度消した所で急に入ってきたウォルに呆けた様子のウィがいる。
「ほぇ?ウォル?」
「ウィ!今日だけはこれを着てくれないか?」
ばっと紙袋を突き出すウォル。
紙袋を開けてみると中に服一式揃っていて、えぇ~、と思うウィ。
おもむろに顔を上げて。
「……今から?」
「頼む!」
即答するウォル。はぁ、とため息をついてウォルを外へ押し出すウィ。
「ちょっと待っててね」
「……ありがとう」
半ば勢いで押し切るつもりだったとはいえ、文句を言わずリクエストに応えてくれるウィにウォルは嬉しいようなちょっと申し訳ないような、所謂感謝の思いを込めて礼を言う。
「………別に」
ウィはぽそっとドアを閉じる前に小さな声で返した。
私がそうしたいからしてるだけ、と。
やがて出て来たウィはウォルの想像を超える可愛さだった。
そしてあのガーターベルトとハイソックスを着けてるのかと思うと……とそこまで思考が及んだところで彼はフラッとしそうになる。彼が仕組んだことなのに、ウィの幼さの残る容貌も相まって生まれた不思議な妖しさによって脳をやられたのだ。
「わっ、危ないよ?大丈夫、ウォル?」
「あっ…とごめん。ありがと、ウィ。それじゃ町に行こっか。今日はパン屋と肉屋と菓子屋に寄るんだろ?ほら、手」
「うん」
彼らは仲良く手を繋いで町へと向かう。
この時までは平和だったのだ……。
そう、この時までは……。
*****
「よし、これで全部か。じゃあウィ。俺の家に行くか」
「うん!」
ウォルは両手に肉と野菜、パンを入れた紙袋を持ち、ウィはケーキを入れた箱を大事に両手で持っている。
そして、そのままのんびりとお店を外から見ながら家へと向かっていた。
「わぁ、これ綺麗だねえ」
「ああ、確かに。でも、髪飾りだとウィは普段付けられないないんじゃないか?こっちのブレスレットとかどうだ?」
「あ、これも綺麗だね。ブレスレットかぁ。そしたらバングルを付けられなくなっちゃうなぁ。バングルの方が性能が良かったりするしなぁ」
「いっそのことガントレットとか?」
「ガントレット?」
「ん?ああ。ガントレットはほら、騎士様が腕に着けてるあれ。金属製の籠手みたいな」
「へ~、どこかに売ってるかなぁ」
「あ、でも、ウィじゃ重くて着けても腕が上がらないか?」
「え~、そんな~。ってあれ?あれってヴァンとフランだよね?」
「どこだ?……ああ、確かに。でも何であの列に並んでるんだ?あれ神父から祝福を授かる為に並んでる列だよな」
道の真ん中に列が出来ていたがそこにはヴァンとフランの二人組がいた。
が、遠くから見ればその列の先で神父が参列者の額に十字架を当て、祝福を授けているのが分かる。
しかし見る者が見れば一目瞭然なのだが神父がかけているのは浄火の魔法である。
小さな火花が体の周囲を舞うため祝福を授けられたように見えなくもないが知っている者にとっては全く別物である。
「あれ浄火の魔法だよ。ヴァンとフラン大丈夫なのかな」
「浄火の……?え、あいつら何やってんの。死んじゃうだろ」
「瀕死にはなると思う。死にはしないよ」
「とりあえず伝えに行くか」
「ん」
「おーい、ヴァン。フラン」
やっほー、と手を振るウォル。気づいたフランが何処ぞの令嬢のようにゆるゆると手を振り返した。
「ウォル、ウィ。どうしたの?」
「どうしたのってお前ら。何でこの列に並んでんの?」
と、そこでウォル達に気がついたヴァンが振り向く。ウィはフランに手招きをして、こしょこしょと内緒話を話し始めた。
「ん?やあ、ウォル、ウィ。まあ、特に理由は無いんだけどね。フランと町を出歩いていたら行列を見かけたから、面白そうってことで今並んでいるんだよ。あ、ちなみに最後尾はあっちだよ」
「お前ら……。はぁ、別に最後尾はどうでもいいんだけどさ」
「え?ええ!?……コホン。ウィ、それって本当?」
ウォルがヴァン達の気ままでのんびりとした行動に呆れているとフランが驚きのあまりやや大きめの声を出してしまった。咳をしてとりなすフランにヴァンが話しかける。
「フラン、どうしたの?」
「あ、ヴァン。えーと、ウィが言うことにはこの先に神父が待ち構えていて祝福ではなく浄火の魔法をかけている……であってるわよね?」
「うん、だからヴァンとフランはここにいると危ないよ?」
「そ、そうか。じゃあ、列から抜けようか」
「列が長いので二列にしまーす。あ、そこのお兄さん方、前に来て下さい」
頬を引き攣らせるヴァンに無慈悲な死刑宣告がなされた。
そしてそのまま浄火を受けたヴァンをフランは介抱することで一時の難を逃れられたが、愛しの彼は瀕死となってしまったのである。
*****
そして話は冒頭へ戻る。
「……ウィ、薬はまだなのか?」
なんだかんだでヴァンの事が心配なウォルがウィに声をかける。
「待ってね……。3、2、1、よし。出来た!」
ウィのカウントに合わせて壺がボフンッと黒い煙を上げる。
「え、えっと、失敗じゃないよ……ね?」
不安げに問いかけるフランにウィは自信満々に告げる。
「もちろん!フラン、早くこれを飲んで!」
壺の中身の上澄みをコップに移し替え無色透明のそれを飲むようウィが催促する。
少し甘い香りのするそれをフランは迷わず飲み干した。
「……ん?ヴァンが飲むんじゃないのか?」
ふと、おかしな事に気づいたウォルがウィに聞く。
「うん。だってアンデッドに回復薬なんてあり得ないし蘇生薬は自殺行為でしょ?」
「まあ、確かにそうだね。でも、どうしてフランに薬を?」
相槌を打ちながらも冷や汗をかくヴァン。
死にそうだからではなくウィがこれまでやらかしてきた様々な歴史を思い起こしているからである。
「アンデッドってこの世への執着で生きているって聞いた事があるから───」
「──はうっ!?んっ……な、な…に、これ……っ?」
ビクリと体を震わせるフラン。
ああ……と手遅れを悟る少年二人。
「……その、なんだ、さっき貸し一つとか言ってたのは無しだわ。ちょっと説教してくる」
「はは…毎度毎度お疲れさま。本当にウィには毎回驚かされるよね……。心臓に悪い」
「本当にな。……全く。聖夜に性を乱してどうすんだ」
もっともである。皆にも彼らを見習って欲しい。
「今日は聖夜だよ?」
「……だからなんだ?」
「だからなんでも許されるよ」
そう言ってこっそり取り分けといた透明な試験管の中身を見せるウィ。
ウォルは赤くなりながらも吠える。
「んなわきゃあるかぼけーーーっ!!!」
「とりあえず部屋を出よう、ウォル」
「あ、うん」
だがマイペースなウィには敵わない。
「え、ちょっと、待って。二人きりにしないで」
いかにも切実なヴァンの声がかかる。
「それじゃあね」
パタン、と。
ウィは笑顔で扉を閉める。
そしてウォルに向き直る。
「それじゃ、帰ろっか」
「そうだな、帰るか」
いい笑顔で頷くウォル。
彼はもう色々と忘れる事にしたのだった。
あまり、面白くはなかったですかね?
今回は本当に趣味投稿ですね。
それでもお楽しみ頂けたら幸いです♪