ヒスティマ~クリスマス~
「今日はクリスマス・イブ……か」
空を見上げる。
現在進行形で雪が降っており、歩道の端には雪が降り積もっている。
日が高く昇る中、ボクは街中でそう呟いた。
「どこも街の人たちでいっぱいだね~」
右隣に歩くマナは街を見渡しながらボクに向かって言う。
「ヒスティマでもちゃんとクリスマスって行事があるんですね」
「いや、この国だけだと思うぞ? だからああやって……ほら」
左隣に歩くキリが歩道の隅に軍服に似た格好をしていて、寒そうにしている人を目線だけで向ける。
その人はロピアルズ警察会の人だ。
この国だけだと言うのならば他国から攻めてくる可能性もあると言う事で、この国の柱であるロピアルズ警察会が目を光らせているのだとか。
この寒い中でただ立っているだけの仕事はとてもつらそうだ。
「まぁここはヒスティマだから別に寒くとも何とも無いと思うけどな」
「え? どうしてですか?」
「魔法でどうとでもなるんだよ。まぁ火の魔法じゃなければいけないんだけどな」
魔法って便利だ……。前も思ったことがあるけど。
「だけどリクちゃんは良いな~……」
「どうしてですか?」
言っている意味がわからない。どこが良いのか。
特に何も無いと言うのに……。
「だってシラさんがいるじゃない。魔力を使わなくても寒さなんて感じないでしょう?」
なるほど、寒さを感じないからか。だが見てほしい。ボクの今の格好を。
現在ボクが来ている服は下着にTシャツ、その上にダウンコートを着ている。
カイロを二個ほど付けてたりしている。
「あのねマナ。シラがいたとして、寒さを感じないって感じだけど、実際には違うんだよ?」
「?」
「実際には周りの温度よりも自分の体の温度を低くすることで寒さを感じなくさせているだけなんだから」
寒さを感じないとはそれこそ感覚が無い状況の話だ。
「そうか。だから今はいろいろと着こんでんのか」
キリが納得したようにして頷いている。
ただ、ダウンコートの下にもう一枚着てもよかったがそれでは……、
『りく。わたしあついです……』
と、このように暑い宣言をするシラがいるのだ。
『シラ、落ち着くがよい。そんなことならなぜ初めから出ておらなかったのじゃ』
『……りくの『聖地』はそとよりもここちがいいんです。それいがいのりゆうなんていりません』
何やらボクの脳内の中で言い争う二人。ボクに聞こえない所でやってほしい所だ。
とりあえずボク等はお腹が減ったので近くの店に入る。
「いらっしゃ……ってあんた等か」
「「「え!?」」」
何気なく入ったお店には、かなり見覚えのある人が店番をしていた。
「よう。元気にやってるか?」
似合わない鉢巻を頭につけて、半袖でカウンターの向こうにいるのは紛れもない元ジーダス幹部、【水流心】廉兵亮だったのだ。
「えっと、会うのは春のジーダス戦以来でしょうか?」
「ああ、そうだな。お前の事は何一つわからなかったが」
そう言いながら鼻を鳴らす亮。
「そんやぁここは何屋だ?」
「なんだ? 何も見ずに入ってきたのか?」
「普通に表に看板が立ってたよ? ラーメン屋って~」
「ん? そうだったか? 俺は腹が減ったからどこでもよかったし、丁度いいな」
「ほら、これがメニューだ」
そう言ってメニュー表の画面が出てくる。魔道具を使って映しているのだろう。
メニューの種類が学校の食堂に比べるととても少ないと思うが、こう考えてしまえるようになった自分はどうしたらいいのだろうか……?
「んじゃ、俺はとんこつ」
「ウチはしょうゆかな」
「ボクは塩で」
「了解。できるまで時間はそんなかからないからな」
そう言うと亮はカウンターの奥に引っ込んだ。
本当にそこまでかからず、三分ですべてのメニューがボク達の前に並んだ。
「いただきます」
そう言って麺を取って口に運ぶ。
すると、塩ラーメン独自のさっぱりとした味と、トッピングされている野菜がとてもマッチしていた。
「これ、おいしいです」
「ありがとう。ここに努めてまだ四ヵ月だけどそれなりに美味しくできるようになってきたからな」
「あれ? そういえば亮さんはもう釈放されたんですか?」
この意味はもちろんロピアルズ警察会からである。
周りにボク達以外いないのでこういう話ができる。
「いや、まだだ」
「ってことはこの店はロピアルズが経営してんのか?」
「まぁそういうことだ」
「ホント、いろいろあるんだね~」
マナが呆れながらラーメンをすする。ボクもそれにならってラーメンをすする。
それよりもここは亮以外にいないのだろうか?
他の人が居そうには見えないんだけど……。
そう考えていると、奥から声が聞こえた。
「亮! 終わったら今度は皿洗いだ!」
「はい!」
そしてボクにはなぜか聞き覚えがある声だった。
「今の声、もしかしてランディさんですか?」
「? 師匠の名前知ってるのか?」
師匠……なるほど。亮の処罰は料理人として働くことだったんだ。
ロピアルズでは処罰といってもすべてロピアルズで働く、といった物ばかりで別に殺されたりはしない。
そこがこの国の甘い所なのだが……。それで安泰な日々が生活できるのだからすごい物である。
「そりゃぁ……。ランディさんと一緒に料理を作ったことがありまして……」
「そうか。そういえばロピアルズの総司令の息子だって聞いたな……」
考えるようにしているとまた奥から亮を呼ぶランディの声が聞こえたので今度こそ奥に消えてった……と思ったら奥からドタバタと慌てて出てくる音が聞こえた。
出てきたのはいかにもコックと言うような感じの人だ。
そして、この人こそがロピアルズ料理会で働く、ランディ・デッケンその人だった。
「おぅ! リクちゃん、来てたのかい!」
「はい。ご無沙汰してます」
「ンなにかしこまる必要はねぇぞ? あのお方の息子だしな!」
「そんなことできませんよ。むしろ、母さんが迷惑をかけていそうで……」
申し訳なくするボクにランディは唸るだけだった。
「さて、もう食べちまったし、次行くか」
「そうですね。ランディさん、料金は……」
ボクが懐から財布を取り出すと、ランディはそれを制した。
「別にお代は良いさ。それより、このラーメンに何が足りないかを教えてくれねぇか?」
「え? な、何が足りないか、ですか……?」
それってどうやったらおいしくなるかって事だろうか?
「でもボクは塩ラーメンしか食べてないし……」
「じゃあ、その塩ラーメンだけでいいから!」
「え、えっとですね……」
何だろう。さっぱりとしてておいしいし、野菜もしっかりとしていて……。
じゃあ、こんなのかな?
ボクは考えうる限りの事をランディにアドバイスをしてみる。
「なぁ。リクの料理って食ったことあるか? お前」
「う~ん。ウチがリクちゃんと別れたのは中学生になる直前だったからな~。食べたことは無いけど、ユウちゃんやソウナさんが言うにはかなりおいしいみたいだよ?」
キリはリクが話している間、マナにリクの腕前を聞いてみたが、マナも知らなかったようだ。
「――と、こんな感じですが、どうですか?」
「なるほど……。いい勉強になったぜ、すまんな、リクちゃん」
「いえ。ボクだって料理はおいしい方がいいと思いますから」
ボク等はその後、ごちそうさまとだけ言ったその店を後にした。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「で、これからどこに行くんですか? キリさん、マナちゃん」
ボクは母さんから二人の手伝いをしてほしいと聞かれているだけで、事実、何のために外を歩いているかがわからない。
別に寒くは無いのだが、頭の中でうるさいシラを静かにさせるため、なるべく早く済ませたかった。
「えっと……最初は……」
「この国の外側で暴れているモンスターの退治」
「そうそう、それ……ってどこのクエストよ!?」
この世界にモンスターっているのかな……。今のところ、会ったこと無いけど。
でも、召喚があるぐらいだからいることにはいると思う。
「まぁ冗談だとして、俺達の仕事はただのパトロールだよ」
「パトロール?」
それって警察さんとかが良くやる……。
「カナから人手が足りねぇからって協力してくれって脅は……お願いされてよ」
……今何か言いかけたよね?
「どうやってお願いされたのですか?」
何気なく聞いてみた。
するとキリは何もしゃべらず、代わりにマナが言ってきた。
「手伝ってくれなきゃ女の子にしてやるぞ~って楽しそうに言ってたよ~」
その言葉で思いだしたのか、もしくは寒くてなのか、体をぶるっとふるわせるキリ。
多分前者だろうけど、まさか母さんがそんなことをするなんて……。
にしても……。
「それ、マナちゃんは関係ないんじゃないんですか?」
「いや~。確かにそうなんだけどね~……」
マナが気まずそうに目を逸らす。
ハテナを浮かばせていると、キリが何の遠慮もなしに言った。
「マナも脅迫されたんだよ。手伝ってくれないとマナのきも――」
「わぁぁああああ! それ以上はダメ! キリ! あんた一体どういうつもりよ!!」
「~♪」
キリがわざとらしく横で口笛を吹いている。
まさかマナまで脅迫されているとは……。
「でも、そんなに人数が足りないんですかね? 見たところ、ロピアルズ警察会の人が見えない所なんてありませんけど……」
「まぁここは大通りだからな。一番警備は厳重にしてるだろ。ほら、次行くぞ」
そう言って横の路地に入っていく瞬間だった。
「きゃぁああ!! 助けてぇええ!!」
「「「!!」」」
女の人の悲鳴が聞こえる。
それもすぐ近くだ。
ボク達は一目散に駆けて行き、現場に向かった。
着いた現場には血で濡れた武器を持って、暴れている男が一人いた。
それを見るやいな、ボクはルナを刀にして顕現。正気沙汰ではない男の武器にめがけて斬り込んだ。
キンッと音を鳴らしてそのまま弾き飛ばそうとしたのだが、思いの外男の力が強く……。
「グォォォォゥッ!!」
「!?」
逆に男に押し切られたので、その力を利用して外側に跳ぶ。
「喰らえや!」
そこにキリの拳が後ろから入り、男を吹き飛ばしたが男は空中で態勢を直し着地する。
「〈火弾〉〈火連弾〉!!」
マナが魔法を発動させて男に火の弾丸が数十個飛ぶ。
「グォォォゥッ!」
ブォンッと武器を振ったと思ったら、そこには真空の刃が火の弾丸に飛んでいた。
二つの力が打ち消し合い、残ったのは真空の刃。
「やばッ」
「ルナ!」
『うむ』
ボクはルナに魔力無力化を頼み、真空の刃の前に立って一刀両断。
何の手応えもなく切れた刃はそのまま虚空に消えて行った。
すると……。
「あれ?」
目の前に広がるのは何もない空間。
いや、ちゃんと街や人だかりは居るのだが、さっきまで攻撃していた男が忽然と消えていたのだ。
「キリさん。さっきの男は?」
「いや。俺も見失っちまった。どこ行った?」
キョロキョロと探すが、どこにもいない男。
顔で探そうにもフードを深くかぶっていてわからなかったし、声から察するに男性と決めつけていたのだが……。
「おい君達! 大丈夫かい?」
そうしているとロピアルズ警察会の人達が近寄ってくる。
「ええ、何とか……」
「よかった……。と、君はリクちゃん?」
「え? あ、はい。そうですよ?」
「うわぁ。間近で見たのは初めてだ。かわいい……ってそうじゃない」
男が可愛いと言われて喜ぶはずが無いと彼は知っているだろうか?
「一体何があったんだい? 刀なんて取り出して」
「へ? 何があったって……。助けてって聞こえて……」
「ああ。それは俺達も聞こえたんだが」
「武器を持った男の人が暴れてて、それと戦っていたんですけど……。生憎、逃げられましたが……」
そこまで言うと、ロピアルズの人が「は?」と言うような感じに口を開けていた。
「だから、男の人が……」
「えっと、リクちゃん。男の人なんていなかったよ? だってここにいたのはただの一般市民と……」
…………え?
そ、そんなはずは……。
「あ、あの……リクちゃん」
申し訳なさそうに出てくるマナ。
その顔はなぜか青ざめている
「あのね……。ウチ、男を最後までしっかりと見てたんだけど……」
言いにくそうにしているマナ。
「男の人……何の脈絡も……何の魔法も使わずにね……?」
ごくりと生唾を飲み込んだ。
「き、消えちゃったの……。幽霊が透明になって消えてくみたいに……」
「…………え……」
ボクはそのまま、浮遊感に奪われて意識を失った。
「マナ、怖がらせすぎじゃねぇか?」
「え? そんなに怖かった?」
だってまだ真昼間でただ単に幽霊みたいに消えたって言っただけで……。
「いや……。普通に怖くなかったが」
「だよね~? カナさんがリクちゃんは怖い物が極端に苦手って言ってたけど、まさかこれくらいで怖がっちゃうだなんて……」
ウチの言葉にキリが捕捉を入れる。
「正確には幽霊物が、だけどな」
そう言うと、キリはロピアルズの人に「リクは任せて仕事に戻れ」って言うとウチ達はとりあえず近くの公園へと運んで行った。
次の仕事に移るため。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「うぅん……」
温かい何かに当たっていると、ボクは自然と何かと確認したくなり目を開けた。
するとそれはボクを背負って運んでいる人の大きな背中だとわかる。
ボクが身じろぎしたからだろう、背負っている人はボクが起きたことに気づいたようだ。
「ん? 目が覚めたか?」
「キリ……さん? どうして……」
「移動中だからだよ。パトロールの」
そういえば、母さんがパトロールを二人に押し付けたんだった……。
移動しているのも納得だ。
「もう大丈夫です。心配掛けてすみません」
「気にすんな。ほらよ」
そう言って降ろしてくれるキリ。
にしても……どうしてボクは倒れていたんだろうか?
「リク。まだ無理はしなくてもいいぞ? いきなりぶっ倒れたんだからな」
「倒れた?」
「ああ。覚えていねぇのか?」
覚えていないのかと言われても……と思いかけたところでほんのちょっとだけ思いだす。
そして顔を青くする。
「ああっと、そこまで新明に思いださなくてもいい」
「すみません……」
どよ~んとする空気の中、キリが必死になだめる。
なんとか戻すと、周りにマナがいない事が気になった。
「マナちゃんは?」
「ん? ああ、少し周りを見てくるって言って行っちまった」
周りを見てくる?
そういえばここは……公園かな?
「どうして公園に?」
「ん? パトロールの巡回の通路にあるからだよ」
「そうなんですか」
ボクはなんとなく周りを見渡すと、何か線のような物を見つける。
「……? あれは……」
「どうした?」
「いえ。あの線のような物はと思いまして……」
キリが訝しげに線の方を見る。
「何もねぇぞ?」
「いえ、そんなはずは……」
そこでハッと気づく。
あの線は……魔力を通すための線?
とすると……。
「キリさん。あの線を辿ってみましょう。またあいつがいるかも……」
「あいつが? ……分かった」
この魔力を辿ってその幽霊って言われた男の人がいたならば、それは何かの魔法で作られた物だったと言うことだ。
それならばいくらでも理由がつけれる。
ボクはルナを顕現させて、その魔力が来ている方へ向かう。
それは遠くは無かった。むしろ近かった。
「グォォゥ……」
「またですか……」
だがこれでハッキリした。
この男は幽霊でも何でもないってこと……。
「あなた、何が目的なんですか?」
語りかけてみるけど何の反応もない男。
とにかく……。
「これ以上、被害が出る前にロピアルズの人に渡しちゃいましょう」
ボクがルナを構えたと同時に男も武器を構える。
そしてボクは一気に飛びこむ。
男は武器を盾にしてボクの刀を防ぎ、足でボクのお腹を狙う。
それをなんとかかわして刀を捻って逆回転斬りをする。
反応が追いつかなかったそうで、刀は綺麗に足を斬りはらった――と思ったが。
「あれ!?」
刀にはしっかりと感触はあったのに、斬れた所から血が出ない。
何も出ないことにビックリして繰り出してきていた拳を避けることができずにお腹に喰らう。
だけどそれはそこまで痛くは無かった。
喰らったと思った瞬間にキリが攻撃して飛ばしたからだ。
「大丈夫か?」
「はい、大……丈夫……」
そこでちょっと疑問に持つ。
男の拳がお腹に当たったのだが……当たったのだが、触られた感触と言うより……中に入ってくるような感触が……。
? 中に入ってくるような感触?
ボクは一つの考えが思いつく。
(ルナ、〈シャイン〉ってただ単に光る魔法だったよね?)
『む? そうじゃが? 使うのか?』
(ちょっと思い当たる節が……)
そう思って刀から左手を離して魔力を溜める。
そうして……。
「キリさん! 目を瞑っててください!」
「は?」
「闇を照らせ! 〈シャイン〉!!」
ボクは光を放つ。それと同時に、確かに草むらでガサッと音が鳴った。
その音と同時に、確認は、無事、大成功にして終わったと確信した。
光が無くなった後……男は幽霊が消えるみたいに消えて行った。
だけどそれは幽霊だったからじゃない。
なぜならそれは……。
「白夜さん。どういうことか、説明してもらえますよね?」
ガサッと鳴った方に向きながらボクは説明を求める。
しばらくすると、その草むらから白夜が不満げな顔で出てくる。実際に顔に出しているわけではないが。白夜は基本、表情を変えないから。
「……どこでわかったの? ……さっきの男が〈シャドー〉だって」
そう、〈シャドー〉。
ボクの出した結論だ。
「確かにボクは初め、幽霊だと信じてしまいましたが、魔力を供給している事がわかったところで幽霊だと信じませんでした。では何か? 拳が確かに当たったのに、外部にダメージが来るのではなく、内部に入ってくるような感触を味わった時、なんとなくでわかったんです。そこで、影を無くすために〈シャイン〉を使って男が幽霊のように消えたので確信しました」
「……そっか。……拳をぶつけたのは失敗だった」
白夜が悩んだようにした瞬間。
「……じゃ」
逃げ出した。
「あぁ! 白夜さん!? 逃げた!?」
「えっと……追うか?」
「当たり前ですよ! すぐに追いますよキリさん!」
「お、おう……ってか白夜の奴、気づかせるの早すぎだろ……」
「? 何か言いましたか?」
「い、いや。何でもねぇ」
キリが何か言った気がするのだが、ボクは白夜を追い掛けているうちにだんだんとどうでもよくなってきた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「……レナ」
「? び、白夜さん!? あれ!? 予定はまだ二十分ぐらい早いですわよ!?」
「……リクが途中で気づいた。……今追われてる」
「お、追われてるって……やはりカナ様はすごいですわね……リクさんの行動を把握している……。でも、途中で気づいた、とは?」
「……二回目の接触で〈シャドー〉だと気づかれた」
「な、なるほど……そういうことでしたの」
「……てえぇぇぇ……」
「?」
レナがハテナを浮かべると、次にはハッとした顔になった。
「待てえええぇぇぇぇ!!」
「び、白夜さん!! とにかく客間に!」
白夜はレナの家……と言うかお屋敷に入っていく。
そうするとボク達がそこに到着する。
「あれ……レナさん?」
「ご、ごきげんよう、リクさん」
なぜかたじたじしているレナにボクは疑問を浮かべる。
それよりも今は白夜だ。
ボクはレナに聞くことにしようと思い、質問した。
「レナさん、ここら辺に白夜さんがきませんでした?」
「び、白夜さんですの? さ、さぁ? わたくしは見ていませんわ」
なぜかしらじらしく見えるレナ。
そういえばレナが白夜を守る理由っていろいろとあるような……。
「な、なんですの? わたくしは何も隠していませんわよ?」
冷や汗を垂れ流しにしながら明後日の方を向くレナ。
さらにボクはじーっとレナを見る。
どんどんレナは冷や汗を流して行く。
だけど、この勝負、どちらが勝ったわけでもなかった。
「お嬢様? 客間で白夜様がお待ちしておりますぞ?」
偶然通りかかった執事らしき人の言葉を聞いた瞬間、ボクは屋敷の方に向かって行こうとした。
「お待ちなさい!」
だけどそこへ行こうとしても、なぜか前に立ち止まったレナ。
いつの間にか精霊、〝ウィンディーネ〟も喚んでいる。
「レナさん! なぜ邪魔をするんですか!?」
そう言いながらも、レナの行動には大体察しがついていたのでボクは何の遠慮もなしにルナを抜いて魔力を無力化するのを発動する。
「これには深い理由がありますわ。だからリクさん、ここは通す事にはいきませんわ! 〈ウォーターロック〉!」
水がボクを囲むようにして迫ってきた。
だけどボクはそれを難なく斬り裂くと、レナに向かって走って行く。
「く……魔法が効かない。なら……〈ウォーターランス〉」
水の槍をボクの踏み出した少し前の地面を抉る。
おかげで飛んできた石を見て、何とか避けるボク。
だけどそこで、遠くの方で白夜が飛んでいく姿が見えた。
「! キリさん! ここは任せました! 〈氷翼〉」
「はぁ!? 何言ってんだお前!?」
ボクはキリを置いて行くと、シラみたいな三つの氷が対になった羽を展開して空を飛んでいく。
「あぁ! 待つですの! 〈ウォーター……きゃぁ!」
「ワリィな。少し、任されたし……」
「仙ちゃんまで! あれはどうしましたの!?」
「ん。まぁ。何とかなるんじゃねぇの?」
「…………はぁ」
キリがレナを相手してくれたらしいとわかると(押し付けたのだが)、ボクは白夜を追って全力で空を飛んでいく。
「待てぇぇえええ!!」
「……待てと言われて待つ人はいない」
白夜は闇の翼を広げてどんどん加速する。
ボクは加速しても寒くないからいいのだが、白夜は平気なのだろうか? と思うが、今はそんなこともしていられないかと思い、遠距離魔法を放つ。
「〈アイスランス〉!」
「……〈シャドー〉」
だがすべて、何かしらを影にして出てきた〈シャドー〉により防がれてしまう。
白夜とボクの競争はまだまだ続きそうだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「はぁ……はぁ……。とうとう、追いつめましたよ、白夜さん」
「…………まさか、ここまで、追って、くるなんて……」
ボクも白夜ももうへろへろとなってしまった時にはもうすでに周りは真っ暗。
なぜクリスマス・イブなのにこうも追いかけっこをしなければいけないのか……。
とにかく、さっさと終わらせるために……って何を終わらせるんだっけ?
「……でも、もういい」
「へ?」
白夜の出した言葉に疑問を持つ。
「もういいってどういうこと?」
「……そのままの意味。……何とか予定の時間まで逃げれた」
「予定? 時間?」
「……(コクコク)」
白夜が頷くと、今度は近づいてくる。
そうしてボクの手を取る。
「……もう23時」
ぎょっとして時計を見る。丁度捕まえたところは最初に気づいた公園だったので、時計があるのだ。
しかもちゃんと光っているので何時かよくわかる。
「23時って……だからこんなに暗かったんですか!?」
「……リク、気づかなかったの?」
「そりゃ、白夜さんを捕まえるのに必死だったし……」
ヤバイ。早く帰らないと母さん達が怒っちゃう……って多分もう怒られちゃうだろうけど……。
なるべく早く帰った方がよさそうだ。
「……それじゃあ行く。最後のイベントに」
「へ? イベント?」
「……(コクコク)」
白夜が頷く。
どういうこと?
訳がわからず、ボクは白夜に腕を引かれるまま、引きずられていった場所は、なぜか雑賀の家。
23時以降だと言うのにいまだに明かりがついている。
「あの、一体何が……」
「……何も言わずについてくる」
有無を言わせる気のない白夜。
一体どうしたと言うのか、ボクは白夜に腕を引かれるまま、雑賀の家に入って言った。
そして、いつも集まる居間の扉を開けた時だった。
パンパンパンパンッ!
『メリークリスマス!!!!』
「へ?」
目を丸くする。
いきなりふってきた色とりどりの紙。つまりクラッカー。
そしてクラッカーをボクに向かってはなってきた面々はキリ、マナ、レナ、アキ、ハナ、真陽と学校関連の人、
雑賀、妃鈴、グレン、ガルム、デルタ、カレンの元ジーダス組の人、
母さん、ユウ、ソウナのボクの家族だったのだ。
「みなさん、どうして……?」
「な~に言ってんだリク」
「今日はもうクリスマスだよ~」
「本当は、もうちょっと追い掛ける時間が少なかったのですわよ?」
「私はこっちでずっと準備だったよね!」
「そうなのね! 私もアキちゃんの手伝いだったのね!」
「本当は、三回目のシャドーとの戦いで私が待ってたんだけどねぇ」
「リクが鋭かったってことだ。先生」
「リクちゃん、さすがです」
「でもなんとか僕等の準備は整いましたね」
「これも、白夜が頑張って逃げてくれたおかげだ」
「まぁインカムで俺が逃げやすい所を教えてやってたんだけどな!」
「今度、デルタの個人用カメラはすべて私が壊しておく。場所はわかったからな」
「リクちゃん成長したわね~♪」
「さっすがお兄ちゃん♪」
「お疲れ様、リク君。何か飲むかしら?」
そう言ってソウナはボクにジンジャエールを注いでくれる。
テーブルの上にはパーティ料理がずらりと並んでいる。
飾りもたくさんつけてあって、とても楽しい飾りだ。
「え……でも、こんな……」
「……全部リクちゃんへのサプライズ」
「へ?」
まだ整理しきれていないボクの頭の中身を察してか、白夜が答える。
「……カナがこのサプライズを企画。……みんな賛成。……おけ?」
「わかりました」
かなり単純なことだったらしい。
にしても、あれだろうか? これはドッキリって奴だろうか?
何だか、とても疲れた一日だったが……。
「みなさん。ボクのために、ありがとうございます」
――今日の25日、クリスマスは何だか楽しそうな日になりそうだった。
余談
リク「ところで脅迫って本当は嘘だったんですか?」
キリ「いや、あれは……」
マナ「誰がリクちゃんを最初に街の案内でとどめるかって時に持ちだしてきたネタでね~……」
ソウナ「ああ、あれ。みんなリク君を欺く係をしたかったから決まらなかったの」
カナ「そこで私が二人のこのネタを持ちだしたって事よ♪」
みんな(((ネタって言うか脅迫……)))
カレン「しかし、私まで来てよかったものか……」
ユウ「え? 別にいいじゃない♪ 友達は一人でも多くいたほうがいいもん♪」
カレン「いや、その……ルーガ殿や雁也殿に仕事を押し付けたみたいで……」
ユウ「気にしない♪ 気にしない♪」




