2:3 時には幸福をもたらし
バッシャ、バッシャ
ゴッシ、ゴッシ
バッシャ、バッシャ
ゴッシ、ゴッシ
ただ今、洗濯真っ最中。
井戸の傍に大きな桶を置いて、布についてしまった汚れをこすりおとし、洗い流す作業を地道に繰り返す。
少しずつだが確実に清らかになってゆく洗濯物たち。
洗濯とはなんと素晴らしいものだろう!
レムの邪悪な魂も、このように穢れをこすりおとし、洗い流して綺麗に出来ればいいのにっ!!
山のようにあった洗濯物を次々と洗い、ついに残りの一枚になった。
最後は洗いがいのありそうな、白い大きな布。
広げてみて、ふと違和感を抱いた。
形状から見てこれはカーテンだろう。けれども、それしては少し小さい。窓の片側分くらいしかなさそうだ。
二つで一組のカーテンなのだろうか。
しかし、対になるようなものを洗った覚えはまるっきり無い。
どこかに落としてきたのかもしれない。
私は後ろを振り返り、目で対のカーテンを探した。
視界にそれらしきものは無い。
となると……レムの部屋にそのまま残っている可能性がある。
幸い、レムが戻ってきた気配も無いので、私は急いでレムの部屋に行って探すことにした。
レムの部屋はがらんとしていた。洗えそうなものは片っ端から持っていったせいで、余計に殺風景に映る。
ざっと見回しただけでも、ここにはカーテンなんて残っていないというのが判った。
もともと一枚だけだったのだろうか?
私は、カーテンがかかっていたであろう窓に歩み寄って窓のサイズと先ほどのカーテンのサイズを頭の中で比較してみた。
やはり、もう一枚ある。
それを確信したのはサイズどうこうより先に、見たのだ。今、この瞬間に。対になる白の布を。窓から見下ろした所にある、はためくカーテンを。
カーテンは微風にゆらゆらと揺れている。
あれを洗濯するために探していたのだけれど、やめよう。やめます! 綺麗さっぱり諦める!
頭の中はフル回転しているのに体は硬直して動けない。
白いカーテンをマントのように羽織ったレムと目が合ってしまった私は視線をそらす事もできない程の恐怖に束縛されていた。
いつもの如く、レムは殺気に満ち満ちている。
ひらりとレムの身体が宙に浮いた。
重力など感じさせないくらい軽やかにレムは窓辺に舞い立つ。
一体何メートルジャンプしたんだかとかそんな事を考える余裕も与えず、レムは次のモーションに入る。
音は遅れてやって来た。
ドゥォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
急所にあたった。効果はバツグンだ。
盛大な音が響いた時には私はあの世に逝きかけていた。
数値化したならHP残り1。気合のなんとやらで即死はしなかったような感じだった。
完璧クリティカルヒットなレムのメガトンキックを受け、私はまさに瀕死状態。
しかし、まだレムのターンは終わっていない…!
カーテンに身を包んだままのレムがギロリとこちらを睨み付ける。
「クリス、なんでキサマがオレの部屋におるん」
答えようにも、答えられない。キックの影響で内腑にダメージを喰らいまくって息をするのもままならないのだから。
「モタモタせんと、はよ出ていけや…」
にじみ出るレムの殺気に煽られ、私はなんとかうなづいて床に吹っ飛ばされたわが身を起こそうとした。
一刻も早くここを去りたいのは山々だが、身体が思うように動かない。
そのうち、レムが室内の様子に気づいたらしく、声高に叫んだ。
「おい、オレの服、どこにやった!?」
「せ、洗濯に……」
「洗濯? いつ誰がキサマに洗濯なんか頼んだんやァア?」
怒り心頭のレムの声音。いまにもバーサーカーソウルが発動してしまいそうだ。
洗濯ならば許されるかも。
なんてかすかな希望は、完膚なきまでに打ち砕かれた。
残ったものは絶望だけ。
然り。レムの狂乱の魂を沈める手札など私は持ち合わせていないのだ。