1:6 今ようやく、生を得たのだ
「クリス、休憩だ」
然り。
神の声ではなくガープの声だ。
私は神の声が聞きたかったのに。
神聖な黙祷を魔族に邪魔されるなんて、不快この上ない。
さりとて、今は奴隷の身。立場を受け入れ、ひたすら耐え忍び、神の救いを待つしかない。
私は感情を抑えながらガープに応答した。
「どうぞ…。お休みになってください」
「なぜ俺が?」
と、ガープが首を捻る。
私に尋ねられても困ってしまう。
当人が知りえずして、他の者がいかにしてその意を知りえようか?
私はガープに尋ね返した。
「なぜって…。休憩したいのでしょう?」
「俺が、か?」
「ええ」
ガープはようやく知り得たかのように、何度も頷いた。
己の言った事を理解するまでにこのように時間がかかるとは。
魔族はかくも鈍いものなのだろうか。
もしかして、魔族が邪悪なのは鈍いからだろうか。
あぁ、きっとそうだ。
彼らは正しき事とそうでない事を理解するだけの知恵を持ち合わせていないのだ。
知に恵まれない、魔族が憐れに思える。
私は深い同情の眼差しでガープを見つめた。
神よ、どうかあなたの知恵を愚鈍な彼らにも分け与えください。アーメン!
ガープがふぅっと大きく息を継ぐ。
私と目が合うと、彼は言った。
「人間はよほど鈍いらしいな」
えええええええええええええええええええええええええええエエエエエエエエエエエエエ江エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエえええええええええええええええええええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエぇぇぇぇっ!!??
ちょっと!!ちょっと、ちょっと!
なんでそうなる?
どう曲解したらそうなるのか!?
興奮した私は、ガープに向かって言い返した。
「鈍いのは、あなたのほうです!」
びしっと言った。言ってやった。
「認める。気づくのが遅れた」
ガープはあっさりと認めた。
認めつつ、彼は続けた。
「おまえが勘違いしている事に今気がついた」
勘違い、……私が?
なにを勘違いしているのか、振り返り考える。
そして思い当たる。
いや、
でも、
まさか、
そんなはずは……。
戸惑う私にガープがついに真意を告げた。
「俺はおまえに、休憩を勧めていたんだぞ」
ああ、
そうらしいです。
曲解していたのは私のほう。
私は、そんなことがあるはずが無いと、根拠もなく決め付けていた。
否、根拠はあったかもしれない。
“観念”という根拠。つまり、思い込みだ。
見たつもり、聞いたつもりで本当は目も耳も閉ざしてしまっていたのかもしれない。
私は、今、ようやく、目が見えるようになり、耳が聞こえるようになった気がした。
空気をめいいっぱい吸い込んだように胸が一杯になる。
私は胸に満たされた思いを呼気に乗せた。
「感謝します。ガープ」