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4:1 昇りゆく太陽はなぜあんなに赤いのだろうか



 朝方になってようやくヤマトの意識が戻った。

 目を開けるや否や動こうとするヤマトを私は慌てて寝かせつけた。安静にしないと状態が悪化してしまう。

 それでもヤマトは起き上がろうとしたが、幸か不幸か起き上がりきる程の体力が無かった。起きるのを断念したヤマトは咽喉をゴロゴロと鳴らし、遠くのほうをじっと見据えた。

 

「もしかして、レムを探しているんですか?」


 レムという響きにヤマトの耳がピクリと反応する。レムの居場所を尋ねるかのように、ヤマトは私に目を向けた。

「呼んでくるから動かないで待っていてください」

 ヤマトに声をかけて私は部屋を出た。

 

 

 レムの部屋を訪れたがレムは居なかった。ガープに尋ねようと思ったけれどもガープの姿も見当たらない。

 屋敷の中を探し歩いていると台所のほうから物音が聞こえた。もしやと思い台所を覗くと、案の定レムの姿を見つけることができた。

 

「レム……あの…」

「クリスか、丁度いい。朝食を作ったんやけど……」

「え…?」


 よく見れば、かまどにかかった鍋からホクホクと湯気が立っている。

 レムが料理……!?

 それだけでも驚いたのに、出来たての料理をついだ皿をレムが私へ差し向けた。

「これ、食べれそう?」と小首を傾けながら自信なさそうに尋ねる。


 レムが私の為に、朝食を……!?

 望外のサプライズに感動しながら(ポリッジ)を一口食べた。

 いままで食べたことのある粥とはまるで別物のようだった。マイルドな甘みがあってクリーミー。なんて優しい味だろう。レムがこんなに料理上手で家庭的だったなんて……。

 なにより、私の為に作ってくれたというその心遣いがすごく嬉しい。

 

「ありがとうございます。とても美味しいです」


 感極まって感謝を述べた私を、レムは奇怪な表情で見つめかえした。

 

「それ…、ヤマトの朝食なんやけど」

「えっ?」

「ヤマトの好きなイモムシを潰していっぱい入れたヤマト専用の朝食なんやけど」

「ええっ?」

 

 私の為ではなくヤマトの為って…

 しかも、イモムシいっぱいって……!!!

 

 ダブルのショックに私はクラリと眩んだ。

 

「で、ヤマトは朝食食べれそうか?」


 その問いかけに私がかろうじてうなづくと、レムは瞳を輝かせた。

 

「そうか、良かった。早速ヤマトに食べさせてくる」


 レムは私の手から粥の入った皿をヒョイと取りあげ、ヤマトの元に駆け出した。

 数歩進んでレムがふっと振り返り、「ありがとう」とぼそりと言った。

 思いがけない言葉にびっくりして、私の心臓はぎこちない音をあげた。

 

「食べたいんやったら鍋の中に余ってるの食べていいから」と言い残し、レムは軽快に走り去る。

 

 食べていいといわれても…………。

 

 一体どれほどのイモムシ命があの鍋で煮られたのだろうか。

 残酷さに胸を痛め、恐る恐る鍋に近づいた私は、足元に一匹のイモムシを見つけた。小さな乳白色の体で懸命に床を這っている。レムの魔の手から逃げ出したイモムシに違いない。

 私はイモムシをそっとすくい上げ、外へと逃がした。

 

 虫でも命の尊さは皆等しく同じだと思う。

 

 しかし、多くの命を奪って料理をしたからといってレムを責めることもできない。

 レムはヤマトを生かす為に一生懸命なのだ。体力が低下しているヤマトにとって、栄養ある食事はとても重要だ。

 生きるということは多くの命を犠牲にして成り立っている。

 そう解っていてもやはり心苦しくて、犠牲になったイモムシ達に祈りを捧げた。

 

 一足遅れて部屋に戻った私は、ヤマトに朝食を与えるレムの傍らで植物図鑑を開いた。

 食事の他にも、ヤマトの体力を回復させる方法があるとすれば薬だろう。

 街に居た頃なら薬屋で買えていたけれど、ここでは自分で調達するしかない。

 シアンの植物図鑑には薬になる植物についても記載されていた。滋養に効果的な植物の絵柄と同じものを森の小川付近で見かけたことがある。

 

 私は薬草を採集しに行きたい旨を伝え、ヤマトを看ていてもらえるようにレムに頼んだ。

 レムの了解を得て、さっと身支度をし、ガープを探した。森の道が不安なのでガープについてきてもらおうと思っていたのだが、いくら屋敷の中を探してもガープの姿が見当たらなかった。

 ガープの事をレムに尋ねると、たちまちレムの目が鋭く尖った。

 

「ガープはおらん。出かけとる」


 不機嫌オーラ全開のレムにそれ以上の事は聞けずに部屋を出た。

 

 昨夜、ガープと何かあったのだろうか……?

 

 心臓に鉛が流し込まれるように胸が重苦くなるのを感じながら、私は薄暗い森へとむかった。

 

 

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