1:2 新しい役割を与えられ、
私はもともと神に仕える神官だった。
本来は神に祈りを捧げ、悪しき者から人類を守り、悩める人々を導くのが使命だった。
ところが三週間前、森で迷っていたところをガープ達魔族に捕らえられ、魔族の奴隷となる事を余儀なくされてしまった。
悪しき者を退けなければならないのに、よりによって魔族の奴隷にされてしまうなんて。
不本意だったのは言うまでもない。
けれど、その不本意な生活も今日で終わりそうだ。
レムに八つ裂きにされて……。
いや、レムの事だ。
八つ裂きなんてそんな甘いもので済むとは思えない。
『死ぬのなんか怖くない』
そう思っていた時期が私にもあった。
だが、レムのすさまじい怨念と残虐性を知ってからは恐れずにはいられなくなった。
どんな殺され方をするのかと考えるだけで、恐怖に身が震え、ちぢこまってしまう。
死ぬのは別段いいとしても、レムに殺されるのだけは死んでも嫌だ。
とにもかくにも、錯乱して思考が矛盾するくらい、レムは恐ろしい。
魔族の中でも、最も凶悪なのではないだろうか。
そんな凶悪なレムに対し、ガープが抗議の声をあげた。
「クリスはそれなりに役に立つんだから殺す必要ないだろ」
いいぞ! ガープ!!
もっと言ってレムをうまくなだめてくれ。
しかし、一筋繩じゃいかないのがレムだ。
「役に立つ? 人間が? ガープ、頭おかしくなったんやないん?」
なんて言って切り返す。
私の生死は今やガープにかかっている。
「レム、よく考えろよ」
と、説得するようなガープの口調。
そうだ、その調子だッ。
がんばれ、ガープ!
まけるな、ガープ!
おっと……!
神に仕える私が仮にも悪しき者を応援してしまうなんて……。
神よ、罪深き私をお許しください。
ただちに悔い改めます。
邪悪な魔族など争って二人とも共倒れしてしまえ!!アーメン!
祈りを終えた私は、ガープとレムの会話に再び耳を傾けた。
「いいか、レム。クリスは俺達の家畜だ。ほら、人間どもは牛や豚をすぐには殺さず、時期が来るまで生かしておくだろ? 新鮮な食材を確保していると思えばいいんだ」
「家畜か。なるほど…新鮮な食材か」
ちょ…っと、待った。聞き捨てならない単語が出てきた!
家畜?
食材?
魔族といのは、どこまで悪逆無道な奴らなんだろう!!
「誰が家畜だッ!!!!誰が食材だあああああああああーーーーーーーーッ!!!」
火事場のなんとやらというものか。
二人の話のあまりな展開に、私は叫ぶとともに痛みも恐怖も忘れて床から跳ね起きた。
足の下に居た私が急に起き上がったものだから、レムはバランスを崩し、
ヨロヨロとよろけ、シリモチをついた。
その様子はまるで一輪の花が床に投げ出されたかのようにみえた。
性格は邪悪なレムだが、姿は真逆。無垢で純真で儚そうな美少年。
ハシバミ色の柔らかそうな髪、環境によって色が微妙に変わる鏡のような不思議な瞳。
色白な上に華奢だから、思わず守ってあげたくなるような姿をしている。
まして、こんな風に無防備に倒れられたら、手を差し伸べずにはいられない。
良心が揺り動かされてしまう。
そっと手を伸ばしかけた、その時。レムがいつもの、いやそれ以上の禍々しいオーラを取り戻した。
「食材にしては動きすぎやなァ…。手ぇ切り落としとこうかな……」
レムの瞳がナイフよりも冷たく鋭くキラリと光る。
怒ってる、
怒ってる、
超怒ってるーーーーーーーーーーッ!!!
怒りのレムを目の前に、私に出来ることは一つしかない。