表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VOLTIA  作者: わさぎ
6/6

死の記憶

『死』が神格化された存在の物語

 ディシーセル。彼は、『死』である。

 死を司る。誰が死ぬべきか。死なねばならぬか。誰が生きるべきか。

 すべての決定権を握る。

 『ガドニオン』と呼ばれる神々の会議においても権力を持っている。

 なぜなら彼は、人間はおろか魔物や神、器物、星などの死も左右する権利を持つからである。

 

 対して双子の弟、エグジステル。彼は、『生』である。

 生を司る。民は彼を神格化した。だが彼は現在、己の私欲のために人間を生かし、そのために追放刑を受けている。返ってくるのは50年後のことだという。


 人類は古くから、あらゆる神々を信仰してきた。

 起源は神話に始まり、彼らは神話を根拠にあらゆるものを建造し、言い伝え、そして伝統を守った。

 現在でも、それらはあらゆる創作物や、現実世界における創造物のインスピレーションの源となっている。

 しかし彼らの人生は、その神々の中でも一握りの存在に託されているのである。


 雷や、水や、火や、土や、空気。また、知力や、人類の秩序、あらゆる世界の秩序を守る者はたくさんいる。

 しかし、その全てがやがて進む終着点、『死』を司る者は、ディシーセルその人しかいない。


 昔は彼も、情に熱い男だった。エグジステルと同じである。エグジステルは、たくさんの人間を憐れんで、人生を多分に与えた。人口の少ないところに人間を増やした。

 中国やインドの人口増加はそのせいである。

 しかし、気が向いたときにしかやらないなど、多少自分勝手なところがあった。

 ディシーセルも、そういうところが気に入らなかった。弟なので疎ましく思ったりはしなかったが、それでも彼の行動に問題があることはわかった。

 エグジステルはやがて、無数の女を手に入れた。白いタキシードに身を包み、人間界、フメンウォルドに足を運んでは女性を手に入れていた。

 ディシーセルはそう言ったプレイボーイ的なところはなかった。真面目に勤勉に、神々に相談し死すべき人間を選んだ。審判の神アービタルスとも真面目に働いていた。


 しかしある時事件が起きた。

 

 エグジステルは、途上国で出会ったストリートチルドレンたちに情が移ったのだ。『判断を下す神に私情は禁物である』というルールがあるにも関わらず、彼は死に瀕している子供たちを助けたのだ。


 彼はガドウォルドに帰ると、ディシーセルを追及した。

 ディシーセルが仕組んだことだと。

 しかしディシーセルは、運命の神によることだと言った。また、他の神の決定に個人で逆らうことはできないと反論した。

 エグジステルはアービタルスに判断を仰いだ。

 アービタルスは、運命の神に連絡をとったところ事実だったことを明かした。

 運命の流れは、神も予期できない。運命の神は、運命を知るのみであり、運命を決めることはできない。運命の神はその運命をディシーセルに伝えた。運命の決定に逆らうことは、神の力があってもできない。逆らおうとする行為自体が禁じられているのである。

 その後、エグジステルが助けた子は、息を引き取ったらしい。

 一人の少女の死に、神々が悲しんだことは初めてだった。


 エグジステルは、他の神の決定に背いたこと、また運命に逆らおうとしたことを理由に、100年の追放を命じられた。


 ディシーセルは、そのことから勤勉になった。そのため、多くを殺した。心の痛みは彼の本質的な部分をむしばみ始めた。

 そしてディシーセルにも、『運命』のジャッジが下されようとしていた。


 運命の神によって、自身の死期を告げられた。

 アービタルスは、彼が死ぬべきか死なざるべきかを決めようと言ったが、運命は変えられぬと言われ、断念した。

 ディシーセルはもう終わりである、そう書き記し、彼は自身の名を刻んで死を選んだ。

 後継者にはディシーセルの息子がついた。


 なお人間は死んで行くが、運命の流れを変えることはできない。

 運命は人間どころかすべてのものに平等に存在する。

 しかし運命を知ることができるのは運命の神だけだ。

 生きるすべてのものは、運命を知らぬままに生きている。

 生きようとする自身の道が、仮に運命にすでに記された、決定した未来だとしても、我々は生きるしかない。

 支配されているという自覚がないということは、自由ということなのだから。

 ディシーセルはこう書き記していた。


 ディシーセルが死んだとき、運命の神フェイタルスは考えた。

 運命の拘束力はいかほどか。

 人間の思いで運命は変えられるのか?

 もし違えば、我々の考えも感情も決められていることになる。


 ならば決めているのは誰なのか?

 神々も含むすべてを作った『真の創造主』とはなんなのか?

 しかしその真の創造主も運命の拘束を受けるのなら、結局すべてを作ったのは誰なのか……。


 ――運命などないのか?

頑張りました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ